第12話:ご飯を獲られました

「あっという間に半分近くまで来てしまいましたね」

「フレイヤさん強すぎです」

『こんな強い聖女さんは、なかなかいないフェンよ』


⦅25層来るのクソ早えw⦆

⦅RTA配信だったかな?⦆

⦅スタンガン強すぎやねん⦆


 その後、私たちは地図を見ながら歩を進め、現在25層まで来ていました。

 今のところは、幸いなことにみな無傷です。

 迫りくる異教徒の使い魔は、ことごとく【すたんがん】でやっつけました。

 これで少しでも改心してくださると嬉しいのですが。

 警戒を崩さず歩いていたら、やや大きな広場に出てきました。

 どうやら、この層のちょうど真ん中にあるようです。


『ここまで来たらあとひと息だフェンね』

「なんだか姉も生きている気がしてきました」

「油断しないで気を付けて行きましょう……ちょっと待ってください」


 意気揚々と歩き出した二人の後ろで、ピタリと立ち止まりました。 

 このまま進んではいけないのです。


『どうしたフェン?』

「フレイヤさん?」


 ルーリンさんとエルマーナさんが呼んでいますが、私は微動だにすることもできません。


⦅なんだなんだ?⦆

⦅急に立ち止まったぞ⦆

⦅様子がおかしいな⦆


「お腹が空いたので、一度食事を摂ります」

『え! ここでフェンか?』

「はい、ここで食べます」


 お腹が空いては何とやら。

 食事を摂ることは、良い祈祷を捧げるのにとても重要なのです。


⦅フレイヤたん、ペコペコでワロタ⦆

⦅スタミナそんなに減ってないでしょうがw⦆


 神様にいただいたパンがまだ残っていたはずです。

 3日分ということですが、全部いただきましょう。

 いやはや、お腹が空きました。

 ポーチから取り出し、地面に触れないように膝の上に置きます。


「お二人も食べますか?」

「『あ、いや、大丈夫 (フェン)です』」


 どうやら、ルーリンさんとエルマーナさんはお腹がいっぱいのようですね。

 では、遠慮なく私が全ていただきます。


「それでは、お食事の前にお祈りしましょう。……この世を造りたもう全知全能の神々よ。今日もまた我が命の糧をお与えくださり……」

「フレイヤさん、大変です!」

『モンスターの群れフェンよ!』

「え……?」


 顔を上げたら、前も後ろも右も左も怪物に囲まれていました。

 1、2、3、4…………たくさんいます。

 大変です。

 さっきまではいなかったはずですのに、どうしたのでしょう?


⦅ダンジョン内で食べ物食べるとモンスター来るよ⦆

⦅まぁ、お腹空いてたんならしゃあない⦆

⦅ザコばっかとはいえ数が多いな⦆


「そうなのですか」


 神様のお言葉で、ダンジョン内での食事はまずいということを知りました。

 次からはお腹をいっぱいにしてからダンジョンに入りましょう。

 とはいえ、せっかくのお食事を粗末にしてはいけませんからね。

 パンをいただいてから、怪物たちに道を開けてもらうようお願いしましょう。

 

「では、いただきま~……あっ!」

『ゲェヘヘヘ!』


 食べようとしたら、コウモリみたいな怪物が奪い取ってしまいました。

 我が物顔でバリバリ食べています。

 お祈りを邪魔するだけなく、神様からいただいた大切なパンまで奪ってしまうとは……。

 なんと恐ろしい。

 この怪物たちを使役している異教徒は、とんでもない人に違いありません。

 数が多いので、【すたんがん】だと倒し切るのに難儀しそうですね。

 だとすると……あれが使えそうです。


「……【古の魔法杖】ー!」

「え! ポーチから杖が!」

『ビックリしたフェン!』


 ポーチから神様にお恵みいただいた杖を取り出しました。

 長い木の枝のようで、先っぽに赤くて大きな宝石がついています。


⦅なんか出したw⦆

⦅どこに入ってたねんw⦆

⦅見たことないアイテムでワロタ⦆


 たしか、えんしぇんと魔法という魔法が使えたはずです。

 これを使えばより効率的に倒せるのでは?


「フ、フレイヤさん、そのアイテムは何ですか。というより、どうしてそんな小さなポーチから……」

「これも全ては神様のお恵みなのです。とても強い魔法が封じられている杖です」

「そ、それもお恵みなんですか! 神様って……すごい!」


⦅エルマーナちゃん、素直すぎるで⦆

⦅ずっとそのままでいてね⦆


 しかし、杖を出したはいいものの、私の思考回路はピタリと止まってしまいました。 

 ……どうやって使えばいいんでしょう。

 このようなアイテムを扱うのは初めてで、勝手がよくわかりません。

 ましてや、魔法など唱えたこともないのです。

 とはいえ、私が戦わなければ皆さんが怪我をしてしまいます。

 何はともあれ念じてみましょう。


「悪い使い魔たちを優しくやっつける魔法を使ってください……」

【《エンシェント・パラライズウェーブ》!】

「『うわっ(フェン)!』」


 杖が喋ったかと思うと、先っぽの赤い宝石から激しい稲妻が迸りました。

 怪物たちの身体を勢いよく駆け巡ります。

 非常に眩しい光景ですが、使い魔の行く末を把握するため、頑張って目を開けていました。

 光が収まったら、怪物たちは地面に伸びています。

 みな身体がビリビリと痺れていました。


⦅全体攻撃……だと?⦆

⦅すげー高性能な杖だな……⦆

⦅レベル1が持ってていいアイテムじゃないんだわ⦆


「さあ、お二人とも参りましょうか」

「え、ええ、そうですね……」

『フレイヤ、思っていたよりめっちゃ強いフェン……』


 いささか緊張した様子のルーリンさんたちと歩き出します。

 やはり、神様のお恵みは破格の強さなのですね。

 これさえあればどんな異教徒も倒せそうな気がしますよ。

 お腹は空いていますが、この調子でサクサク行きましょう。

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