第2話:祈祷の旅へ
周りを見渡しても誰もいません。
そして、先程の声は頭の中に直接響きました。
おまけに、神様の絵が金色に光っています。
ということは……。
「か、神様の声が聞こえました!」
それしか考えられません。
そう確信した瞬間、心臓が激しく脈打ち喜びに身が震えます。
長年の修練が身を結び、とうとうお祈りが通じたのです!
聖女として……これほど嬉しいことは他にありません!
私はもう涙が零れそうでした。
しかし、神様のお言葉には気になるところがあったのです。
「申し訳ございません、神様。ちゃんねる……とは何でしょうか?」
そういえば、【ライブ配信】スキルの説明でも同じ文言がありました。
姿勢を正してお祈りしていたら、神様のお言葉が響いてきます。
〔チャンネルとは
……う~む、さっぱりでございます。
そもそも、ちゃんねるが何なのか全くわかりません。
それどころか、また新しい正体不明の言葉が出てきてしまいました。
わたしちゅーぶ……どおが……とおこう……。
必死にお言葉を理解しようと脳が擦り切れるほど悩んでいたら、頭の中に閃光が迸りました。
「…………修行が足りないということですね」
そうなのです。
私はまだ神様のお言葉を理解できる域に達していないということです。
悔しさに身が震えました。
神様の声が聞こえただけで舞い上がるなど、まさしく愚の骨頂です。
そうと決まったら、私のやることはただ一つ。
「神様! この先、私はどのような修練を積めばよろしいでしょうか!?」
〔ダンジョン探索の様子を配信して登録者を増やしましょう〕
間髪入れずに神様は答えてくださいました。
まだ見放されていないのだとわかり、心の底から安心します。
「わかりました、神様! ダンジョンという修練所を尋ねて回りなさい、ということですね!」
ずっと修道院の中にいた私でも、ダンジョンについて多少の知識はあります。
怖い怪物がたくさんいて、地下では異教徒が反乱のタイミングを伺っていることもあるらしいです。
そのような不届き者を罰することも修行に含まれるのでしょう。
しかし、“登録者”という意味がどうしてもわかりません。
……もう一度、神様に聞いてみましょう。
「神様、お教えください。登録者とは何でしょうか?」
〔端的に言うと、あなたを応援してくれる方々のことです〕
「応援してくださる方々……」
神様のお言葉を聞いても、やはりいまいちピンと来ません。
私のような嫌われ物を応援したい人など、この世にいるはずがありません。
教会にいたときだって、いつも色んな人から罵倒されていました。
だとしたら誰が……見当もつきません。
しかし、うんうんと考えていると、またもや頭の中に閃光が走りました。
「他の神様たちってことですね! わかりました! どうぞ応援のほどよろしくお願いいたします!」
〔それでは、チャンネル開設ボーナスとして特別アイテムを差し上げます〕
そう神様の声が聞こえた後、不思議な現象が起きました。
天井から何かが降ってきたのです。
◆――――――――◆
【応急薬】
・アイテム分類:薬
・ランク:D
・効果
〔体力を全体の20%分回復させる〕
・説明:回復薬より効果は弱いが、その分流通量が多い
【携帯食糧(3日分)】
・アイテム分類:食料
・ランク:D
・効果
〔スタミナを全体の20%分回復させる〕
・説明:3日分の食糧(乾パン+水)のセット。スタミナとHP管理が難しい初心者でも、これがあれば一安心
【護身用スタンガン・極(777万V)】
・アイテム分類:武器
・ランク:S
・属性:雷
・効果
〔魔法攻撃力×777〕
〔攻撃した敵を気絶状態にさせる〕
・説明:護身用を極めた高電圧のスタンガン。Sランクのドラゴンでも簡単に気絶状態にさせるほどの威力。死に至らしめることはない安心設計。
【“信心深い”見習い聖女さんの服】
・アイテム分類:防具
・ランク:S
・効果
〔物理防御力×777〕
〔魔法防御力×777〕
・説明:信心深い見習い聖女だけが身につけられる服。祈りの力が込められており、大変な防御力を誇る。寝ているときは防御結界を展開。
◆――――――――◆
ずらずらずらと、山のようにアイテムが積み重なります。
さっきから衝撃の光景で開いた口が塞がりません。
「こ、これが神の御業……」
〔いずれもあなたにしか使えないので安心してください〕
薬とご飯と服はわかりますが、すたんがんなんて初めて聞きました。
黒くて分厚い板みたいで、上のところが半円状に抉れて、両脇からは小さな牙が生えています。
おや? 横の面に出っ張りがありますよ?
吸い寄せられるように押してみると、牙の間にバチバチッ! と電気が流れました。
……触らない方が良いですね。
さすがに、それくらいはわかります。
何はともあれ、神様からの贈り物なのでありがたく使わせていただきましょう。
ボロボロの服を脱いで着替えます。
「この×777とは何でしょうか?」
〔ステータスの上昇値のことです〕
「すてー……たす……?」
〔ステータスオープンと唱えてください〕
「は、はい。すてーたすオープン」
ぼそりと呟くと、目の前の空間に四角くて青い何かが現れました。
◆――――――――◆
〇ステータス
・名前:フレイヤ
・レベル:1
・職業:“信心深い”見習い聖女
・HP:1/7
・MP:0/7
・スタミナ:3/7
・攻撃力:7
・物理防御力:7(×777)
・魔法攻撃力:7(×777)
・魔法防御力:7(×777)
・素早さ:77
〇装備など
・武器
①【護身用スタンガン・極(777万V)】
・防具
①【“信心深い”見習い聖女さんの服】
〇称号
・無し
〇実績
〔メインクエスト〕
・無し
〔サブクエスト〕
・無し
◆――――――――◆
「色々と数字が書いてあります」
〔それがあなたのステータスです。身体能力や魔法能力などが数字で表されています〕
「なるほど……」
思い返せば、教会の人たちはいつもこのような画面を見ていました。
これがステータスなのですか。
〔それでは、私はこれにて失礼します。快適な配信生活を送ってください〕
「ありがとうございます、神様!」
そうして、天井の尊い光と神様の声は消えてしまいました。
でも、私は悲しくありません。
神様に出会えた上に、これからの目標までいただいたからです。
祈祷の旅は……ずっと私の憧れでした。
各地の困っている人にお祈りを捧げながら修練を積める……。
なんて素晴らしい人生でしょう。
「この祈祷の旅を経て、私は絶対に素晴らしい大聖女になります! そして、困難に苦しんでいる人々に救いの手を差し伸べるのです!」
神様はもういないと言うのに、思わず天に向かって大きな声で叫んでしまいました。
きっと、厳しい修練を積んで、神様に認められるようになったとき、またお告げをいただけるのでしょう。
⦅こんちは、初見⦆
「え……?」
そう思っていたとき、突然さっきの神様とは違う声が聞こえてきました。
⦅シスターキャラなんて珍し。最近始めたん?⦆
お……応援してくださる神様の声です!
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