外れスキル【ライブ配信】で追放された底辺聖女ですが、“視聴者”という神様が助けてくれて、うっかり世界最強の大聖女になりました~私以外に祈る人がいなくなった国は、神の加護を失い破滅しました~

青空あかな

第一章:信心深い勘違い聖女

第1話:試練

「フレイヤ! 全能なる神から【ライブ配信】などという謎のスキルを授かるとは……やはり貴様は悪女だったのだな!」


 私は王宮広場で十字架にはりつけられていました。

 手足は茨できつく縛り付けられ、少しも動かせません。

 数日前までは血が滴っていましたが、それももう乾いてしまいました。

 感じるのは痛みと疲労だけ。

 それでも、絞り出すように声を出しました。


「申し訳ございません……エンジョー陛下……」

「謝って済む問題か! 貴様のせいで我らがテーヒョーカ王国の信頼は地に落ちるところだったのだぞ!」


 目の前にいらっしゃるのは、さらりとした金の長髪に赤い王冠を被った男性。

 エンジョー国王陛下。

 ここ、テーヒョーカ王国の王様です。

 憎しみのこもった目で私を睨んでいました。

 そして、彼の後ろから目が覚めるようなピンク髪の女性が現れます。


「さすがのアテクシも、あなたの本質が悪女だとは考えもしなかったざんすね」

「ア、アンチコメ様……」


 テーヒョーカ王立修道院の院長、アンチコメ様。

 ギリッ……とした音が聞こえそうなほどに釣り上がったお目目と、への字に曲がっているお口。

 我々は禁止されているはずなのに、まるで鎧のように分厚いお化粧をされています。

 見た目通りのおっかない修道院長でしたが、私はこの方の下で聖女見習いとして働いておりました。

 この世界を創造したとされる神々に祈りを捧げるのが私たちの仕事なのです。


「あなたのように性根がねじ曲がっていると、身も心も邪悪そのものになるざんす。どうせ、毎日の祈祷も適当にやってたんざますね?」

「お、お言葉ですが……私はお祈りを欠かしたことはございません……」

「キィィ! お黙りなさい! また冷水を浴びせるでざますよ!」


 バシャッ! と冷たい水をかけられました。

 でも、いつものことなので慣れっこです。

 アンチコメ様は非常に厳しいお方で、私の修行だけ特別だったのです。

 常に氷水の中で祈祷、日々の食事はパン一欠けら。

 広い修道院の掃除も、私一人で行う毎日でした。

 私の呼び名も“聖女見習い”ではなく“底辺聖女”。

 それこそ、ボロ雑巾のような扱いでした。

 でも、アンチコメ様を恨んだことはありません。

 神様に仕える身として、修練を積むのは当然ですから。


「やれやれ、アテクシの祈祷で神様のご機嫌を治すしかないざんすね」


 アンチコメ様はため息を吐きながら首を振っています。

 日頃から、自分は誰よりも祈祷を捧げている、と仰っていました。

 その割にはお祈りしているところを見たことがありません。

 きっと、見えないところで祈ってらしたのでしょう。

 修道院長ですから、誰よりも厳しい修練を積まれているはずです。

 ただ不思議なことに、アンチコメ様はおろか、私以外で神様に祈っている人はいませんでした。

 

「私は……真剣に神様へ祈りを捧げておりました。どうして、こんなスキルを授かったかわからないのです」

「フレイヤ、そんなものはただの詭弁だ。貴様がどれだけ愚かな人間かは、国民の目が教えてくれる」

「そうでざんす。周りをよく見るざますよ」


 十字架の周りに集まっているのは、テーヒョーカ王国の国民たち。

 皆さん、怖そうな顔で私を睨んでいます。


「そんな魔女処刑しろー! 魔族の手下かもしれないぞー!」

「そうだ、そうだ! 火炙りだ! ぶっ殺せー!」

「聖女の形をした悪女なんかいなくなれ!」


 四方八方から石が飛んできます。

 あっという間に、自分の身体はボロボロになってしまいました。

 でも、私にはわかるのです。

 これも神様からの試練なのだと……。

 

「私は……神様の教えを信じるだけでございます……」


 ガラガラに乾いた喉から絞り出すように声を出すと、エンジョー陛下とアンチコメ様は不気味な笑みを浮かべました。


「はっ! 貴様のような悪女が神を語るでない! もはや、冒涜だぞ! 貴様のスキルは魔族から与えられたのだ!」

「悪女だから、魔族からスキルを授かるのでざんすよ」

「悔しかったらスキルの使い方でも説明してみろ!」


 この世界では、16歳になると神よりスキルを与えられました。


【ライブ配信:現実世界とチャンネルを介して繋がる。登録者が増える度ボーナスあり】


 残念ながら、全くもって意味がわかりません。

 ライブ配信、チャンネル、登録者……。

 いったい何のことを言っているのでしょうか。


「さて、貴様の処遇だが……国外追放とする!」


 エンジョー陛下が叫ぶと、国民たちがどよめきました。

 どうして殺さないんだ、という声が上がっています。


「貴様のような悪女の血で、我らがテーヒョーカ王国を穢すわけにはいかんからな」

「さすがは王様ざますね。フレイヤ、命があるだけ感謝するざんす」

 

 国民たちは納得したらしく、私を罵倒していた声は徐々に小さくなっていきました。

 そして、お二人はこっそりと手を繋いでいます。

 実は……これもよく見た光景です。

 どうやら、裏で不貞していたようでした。


「さあ、さっさとこの悪女をダンジョンに追放しろ! もう二度とその面を見せるな! ゴミめ!」

「さよならざます」


 乱暴に馬車へ詰め込まれ、数日間走ったのちポイッとダンジョンに押し込められました。

 テーヒョーカ王国の国境にあるダンジョンです。

 入り口の辺りは急な傾斜がついているのか、ゴロゴロ転がり落ちてしまい、広場みたいなところに投げ出されました。


「はぁ……大変な目に遭いましたね。しかし、これからどうしましょうか……」


 どうにかして命は救われたものの、私は途方に暮れていました。

 がらんどうの広場。

 人はもちろんのこと、動物一匹いやしません。

 すでに身体はボロボロ。

 喉は乾きお腹は空いて、もはや歩く元気すらありません。

 この状態では、入り口まで登って戻るのも無理でしょう。

 へたりと膝をついてしまいます。

 ごろんと寝転がると……おや?

 天井に神様の絵が描かれているのに気がつきました。


「神様……こんなところにもいらっしゃったのですね……」


 その絵を見た瞬間、安心して急速に身体から力が抜けていくのを感じました。

 まるで命が漏れ出て行くように。


「私は……死ぬんでしょうか……」


 恐怖などはなく、むしろ私の心は安らかでした。

 だって、神様の元へ逝けるのですから。

 それでは、最後に祈りを捧げましょう。


「……この世を造りたもう全知全能の神々よ。外れスキルを授かった罪をお許しください。……これからあなた様の元へ参ります。この魂尽きるまで贖罪の日々を送ります……」


 天にいる神様に向かって、これ以上ないほど強く祈ります。

 今、ここで私は死んでしまう。

 そう思うと、自然と涙が零れました。

 そのとき…………頭の中に声が聞こえたのです。


〔おめでとうございます! チャンネルが開設されました!〕



――――(三人称視点)


 かくして、今日もまた動画投稿サイトに、ダンジョンを探索する大人気オープンワールドゲーム“ミドルエージ×ファンタジー”を実況中継するチャンネルが生まれた。

 その名も〔フレイヤのリアル生中継 @ミドルエージ×ファンタジー〕。

 信心深いフレイヤは、“視聴者”からのアドバイスを神々の声と勘違い。

 各種の課金レアアイテムも神様からの贈り物だと勘違い。

 全てを勘違いしたまま、無自覚に伝説を創っていくのであった――。




★――――

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