オークス 私の後悔と彼女の成長

桜花賞を勝ち取った。牝馬三冠最初の切符である。次はオークス、牝馬のダービーだ。シルキーに付きっきりの訳では無いが思い入れのある馬は?と聞かれたら、迷わずに彼女の事を答えるだろう。そして、次も勝つのだ。

そのつもりでいたのは私だけでなく、調教師の先生達も同じだったがオークスでの着順は10着。桜花賞での強い勝ち方が出来なかった。原因は明白。彼女だけが原因と言う訳ではないが、やはり端の大外枠だったのが響いたか、道中、ペースが遅くなりかかり気味に。

最後の直線に入っても脚色は鈍らず前に出たのは良かったが、それよりも凄まじい豪脚揃いが大外から襲いかかってきたのだ。差し切った馬の末脚はまさに稲妻。1秒前まではハナだったのにもう先頭とは。

 あの稲妻をもう一度見たいと思う。だが、それはシルキーの敗北を意味する。同じ舞台でまた見たいと思う反面、負けて欲しいと思ってしまう自分がいる。なんて我儘な考えなんだろう、でもそれが勝負の世界で己が常にそこに居たいと思う場所でもある。

シルキーにはもっといい騎手がついていれば完全無欠、非の打ち所のない成績でアスリートとしての生涯を終えるだろう。力の足りない私では何度も悔しい思いをさせてしまうが、それでも尚一緒に歩みたい。勝って負けて笑って泣いて喜んで、その先もずっと一緒に居たい。


「次は秋華賞だな。お前ならやれるさ」


先生は私を励ます為に声をかけてくれる。私はただ一言ありがとうございますと答え、秋の華と女王の冠を彼女に捧げるだけだ。悩んでいてもしょうがない。


「よしっ!」


頬をパチンと叩き、午後のトレーニングを再開する。自分だけで考えているだけでは答えは出ない。相談するならあの人しかいない。そう思い先輩の彼へ連絡をしようとスマホを取り出した。

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