偉大なる両親を超える為にⅡ

 殆ど自分に言い聞かせるようになってしまい、情けなさが込み上げる。検量室での検査でも異常なし。今度こそ勝ちたい。そう思い次は未勝利戦へ向けて調整をする。疲労もなかったので調教師の先生、馬主さんに中一週になってしまうが、レースを覚えてもらうためにも出来れば間隔を空けずにレースに出したい旨を伝える。そして迎えた次の未勝利戦は1着を勝ち取れた。レースとは何かを彼女も理解してくれた、と言葉は通じないが直感でそう思った。勝ち方も素晴らしく、2馬身と他馬との能力の違いを見せる結果となった。その後も順調に勝ち上がり遂にはGIの牝馬限定戦阪神ジュベナイルフィリーズに出走する事になる。


「シルキー、初めてのGIだね。勝てなくてもいいんだよ、貴女の好きなように走って強さを見せつければいいから」


 落ち着かせるように首を優しく撫でて、鬣をさらさらと指で梳く。彼女も少し落ち着いたのかブルルッと鼻を鳴らして闘志に満ちた瞳を私に向ける。馬主さんや先生も本音で言えば、勝って欲しい筈だ。それよりもクラシックで勝つことが本命である為、GIの舞台に慣れて欲しい意味も込めて入着する事を目標に方針を固めている。いいレース、いい競馬がする事が今日の私の仕事だ。

パドックでは沢山の人が彼女の事を見ていて、私はそれに緊張していた。それでも彼女は堂々たる立ち姿で観客にアピールをしているようだった。そんな姿を見て、やっぱり彼女は特別な馬なんだと再認識する。美しい栗毛の馬体。父譲りの明るいクリームブラウンの身体は陽光に当たると黄金に輝いているようにも見える。そして優しげでありながら、どこか力強さを感じさせる目元。長い睫毛が印象的で凛々しさを感じる。ここはお母さんに似てるな、と自身と彼女の母を思い出しながら口元に笑みを浮かべて考える。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る