第34話:満月の夜に

 満月の夜を迎え、私とメイナ、そしてロイアは邪悪な存在を探していた。

 どこに隠れているのかを、騎士団の人たちも一緒に探しているけど、あの黒い影はなかなか見当たらない。

 攻略対象ズもアンガーを筆頭に騎士団と行動をともにしていた。

 ロイアが辺りを注意深く見ながら、静かな声で言う。


「ノエル様、邪悪な存在はどこにいるのでしょう……?」

「大丈夫、私が絶対に見つけるから。ちょっと、あちらの森へ行ってみましょう」


 少し歩き、校舎横の森へ。

 背の高い木を見つけ、ここで待っていて、と伝えて木に登る。

 てっぺんまで登ると、学院内の敷地が良く見渡せた。

 満月で空も晴れているので明るいね。

 みんなのためなら何でもできる。

 全身の胆力を目に集めながら印を結ぶ。


「<幻遁・見破りの術>!」


 胆力により視力が向上し、隠れている物を見つけ出すのだ。

 敷地内を隈なく見渡す。

 少しの異変も見逃さないぞ。

 注意深く見ていると、森の端っこでもぞもぞ蠢いている黒い影があった。


「あっちの方にいますわ! 私が行きますので、二人はここで待っててください!」


 シュダッ! と木から木へと飛び移る。

 メイナたちには悪いけど、危ないから待機していてもらおう。


「「いえ、私も参ります!」」

 

 と、思ったら、二人は普通に走りながら私を追ってきている。

 え、えええ、マジか……。

 結構速いのにすごいな。

 ロイアはまだしもメイナまでそんなに走れるとは思わなかったよ。


「ノエル様の敏捷な動きについていけるよう、ロイアさんに訓練をつけていただきました!」

「メイナ様は筋が良いでございますよ、ノエル様!」


 う、うん、そうだったんだ……。

 私の知らないところでそんな訓練が。

 道中、攻略対象ズや学院長を見つけたので、邪悪な存在を見つけたことを木の上から伝える。


「皆さん、邪悪な存在を見つけました!」

「「そ、それは本当か! というより、ノエル嬢はどうしてそんなところに……!?」」

「そんなことはいいですから、私についてきてください!」


 騎士団やみんなを引き連れて森の端っこへ向かう。

 低木の後ろに黒い影が潜んでいた。

 ガスのようなオーラが見えるので間違いない。

 ヤツはあそこに隠れている。


「見つけたわ、邪悪な存在。隠れても無駄よ」

『な、なぜ、ここがバレた……! おのれ、もう少しで世界を支配する力が手に入ったのに』


 ザッ! と低木の前に飛び降りると、邪悪な存在が怖じ気づいたように現れた。


「あんたはどうしてそこまで、世界を支配することに固執するの」

『だから、何度も言っているだろ。この世界は俺様のもんだ』

「いいえ、違う。誰の物でもないわ。誰かが支配するような物でもないのよ」


 この世界はゲームの世界。

 前世では思いもしなかったけど、キャラクターたちは自我を持ち、それぞれの人生を送っている。

 そんな幸せな世界を支配するだなんて、とうてい許されることではない。

 

『な、何がそこまで貴様を動かすのだ』


 邪悪な存在は力が弱っているのか、はぁはぁと辛そうに言った。

 ふむ、私の原動力ね。

 答えは一つしかない。


「大切なみんなを……守りたいから」


 父母を、ロイアを、メイナを、攻略対象ズを……この世界の全ての人たちを守りたい。

 それが私を突き動かす原動力そのものだ。

 かつてないほど強く胆力を練り、丸ごと邪悪な存在へと放った。


「<全遁・友守ともまもりの術>!」

『ぐ……ああああ!』


 白い光の球が邪悪な存在を包み込む。

 みんなを苦しめた黒い影は、輪郭からじわじわと消えていく。

 邪悪な存在は球体の中で暴れているけど、光の球はビクともしなかった。


『な、なんだ、この力はぁ!』

「みんなを守りたいという力よ。あんたには理解できないかもしれないけどね」

『な、なに……!?』


 私は邪悪な存在と戦って、確信めいた考えに至った。

 大切な人を守るために自分の力である忍術を使う。

 これこそ忍びのあるべき姿なのだ。

 胆力をさらに集中すると、光の球はひときわ強く輝きだした。


『き、貴様は何者なんだ!? こ、こんなヤツ見たことが……ないぞ!』


 邪悪な存在は息も絶え絶えに叫ぶ。

 何者……か。

 そんなのこと、今の私なら自信を持って言えるわね。


「私はノエル・ヴィラニール。アリストール魔法学院の誇り高き生徒よ」

『う……! ああぁぁぁ……』


 光の球が弾け、月明かりした粒子がキラキラと舞う。

 邪悪な存在はもうどこにもいない。

 完全に消えてしまったのだ。

 真っ先にロイアとメイナが抱きついてくる。


「やりましたね、ノエル様! ノエル様なら絶対に倒してくださると思っておりました!」

「あんなに怖い邪悪な存在をあっという間に倒してしまうなんて!」


 彼女らの後ろには攻略対象ズ。

 三人とも興奮冷めやらぬ様子で駆け寄ってきた。


「やはり君は素晴らしい人材だ! ますます目が離せなくなってしまったよ!」

「まったく、どこまで進化しやがる。これからの勝負が楽しみだな」

「僕も早くノエル様みたいに強くなりたいですね」


 森の中に大歓声が湧き上がる。

 学院長がガッシ! と握手してくれた。


「ありがとう、ノエル嬢! 学院が救われたのはお主のおかげじゃよ! この功績は多大な物じゃ!」


 右も左も、みんなが手を取り合って喜んでいる。

 彼らの笑顔を見ているとホッとするね。

 ここは私を救ってくれた大事な世界だから。


「これでもう大丈夫……」

「ええ、ノエル様がいらっしゃれば何があっても大丈夫ですわ」


 ポツリと呟くと、メイナがギュッと抱きついてきた。

 空を見上げると、まんまるの月が煌々と輝いていた。

 私たちの明るい未来を示してくれているかのようだ。

 心の中で決心したことが、自然と小さな言葉となって出てきた。


「私はこれからも、みんなを守るために忍術を使っていくんだ」


 神々しい満月に、人知れず強く誓った。

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