第24話:独自調査
「……というわけで、メイナさんの食事に混入されたのはトリカブトの毒みたい。犯人の目星はついていないようだけど」
「まさか、それほどまでに強力な毒だったとは……」
「王国騎士団の衛兵が学院の警備にあたるとも言っていたわ」
無事見つかることなく自室に戻った私たちは、今後のことを相談していた。
会議室で得た情報をロイアに伝えると、彼女はとにかく興味津々だ。
「学院も物騒になるんですね。ああ、ますます大変なことになってきました」
相変わらず嬉しそうな彼女は置いといて、メイナたちにどう説明するか悩んでいた。
王国騎士団の件はそのうち知るだろうけど、トリカブトの毒だったなんて恐ろしくて仕方ないだろう。
より強いショックを受けてしまうかもしれない。
毒を盛られた当の本人なわけだからね。
でも、わかった情報はきちんと伝えてあげた方がいいのかな……よし、ロイアに相談してみよう。
「ねえ、ロイア。毒はトリカブトだったと、メイナさんにも教えた方がいいかしら」
「う~む、難しいですね。明確に命を狙われたことを実感することになりますから、ショックは強そうです」
「そうよねぇ。どうしたものかしら」
二人でう~んと考えていたときだ。
突然、部屋のドアがコンコンッ! とノックされた。
まったく予期せぬ現象に、思わず声を潜めてしまう。
「え……だ、誰……? 学院は休校処置のはずでしょ」
「わかりません。管理人さんでしょうか」
黙りこくっていると、さらにノックされるドア。
やけに軽快な音が不気味で、私たちはしばらく固まっていた。
見慣れた扉の奥には、怪物でもいるかのような威圧感を感じる。
中にいるのはわかっている、とでも言いたげにドアが再度ノックされた。
これはヤバいと、私たちは小声で話し合う。
「ど、どうしよう、ロイア。返事した方がいいのかな」
「もしかしたら、犯人かもしれませんね。だったら、むしろチャンスでございます、ノエル様。一気に事件が解決いたしますよ」
私は結構ビビッてたのにロイアは楽しそう。
もはや、あんたは相当の手練れだよ。
「私がドアを開けますので、もし犯人ならノエル様の魔法で滅多打ちにしてくださいませ」
「わ、わかったわ」
ロイアは何の躊躇もなく扉の前へ。
私は横で待機して、超高速で印を結び胆力を身体に巡らす。
<火遁・豪炎玉>の準備を整えた。
あのヘルウルフの群れを倒した忍術だ。
どんな敵でも一撃で倒してやるぞ。
頷くと、ロイアは勢い良くドアを開けた。
「さあ、観念なさい! あなたの悪事もここまでで…………メイナ様?」
「……え?」
い、今メイナって言った?
ロイアの影からそぉっと覗くと、ピンク髪の清楚な女の子が立っていた。
私を視界に納めるや否や、ガバッと勢い良く抱き着いてくる。
「メ、メイナ!? どうしてここに……!」
「私も学院に残りましたの。ノエル様なら残ってらっしゃると思いましたわ!」
「が、学院に残ったぁ!?」
「ええ、自分で犯人探しをしようと思いまして。私もノエル様のように強い女性になりたいのです」
そんなバカな。
我らがメイナがこんなに強くなっちゃったなんて。
そして、ぶっ飛びそうになる衝撃はまだまだこれからだった。
「やぁ、ノエル嬢。元気そうで何よりだね。へぇ~、ここが君の部屋なのか」
「よぉ、いつも通りキツイ顔してんな。ふむ……インテリアのセンスは悪くねえな」
「ノエル様、お邪魔します。とても広いお部屋でございますね」
メイナの後ろからは、ずらずらずらっと攻略対象ズのお出ましだ。
何の遠慮もなく、ズカズカと私の部屋に入ってくる。
あ、あんたら……。
仮にもここは女子寮なんですけど。
というか、どうやって入ってきたんじゃ。
「み、皆さん? 何を勝手に人の部屋に……」
「ノエル様のご学友が来るなんて、これ以上ないほど嬉しいことでございます。さあさあ、どうぞこちらへ。今お茶をご用意いたします」
止める間もなく、ロイアがほいほい迎え入れてしまった。
ぐっ……まぁ、仕方がない。
ということで、小さな座談会的なのが始まった。
「そ、それで、ブレッド様方はどうして学院にお残りなので?」
「僕らも犯人探しをしていたんだよ」
王子は紅茶を可憐に飲みながら、さらりと衝撃的な一言をぶっ放す。
わかってはいたけど、ブレッドは無意識に爆弾発言するタイプのようだ。
彼の発言に、アンガーたちも賛同する。
「俺の仲間に手を出そうなんて、いい度胸してやがる。見つけたら二度とそんな気が起きないくらいボコボコにしてやるぜ」
「せっかくできた友達に危害を加えようなど許せませんからね。このままでは、また次の被害が出てしまうかもしれませんし」
みんな肝が据わっているなぁ。
メイナに至っては自分がターゲットだったというのに。
よし、私の情報も伝えるか。
「実は私、先生方の会議に忍び込みましたの」
「「え!」」
私が会議室に忍び込んだことを伝えると、四人は感心しきりだった。
「やっぱり、ノエル様は素晴らしいお方ですわ。危険も顧みず、そんな勇気ある行動をなさるなんて」
「さすが三大公爵家ともなると考えることが違うね。誰にでもできることではない」
「ちくしょう、見回りして怪しいヤツを探すことしか思いつかなかった。俺もまだまだ甘いぜ」
「先生たちの会議に侵入するなど、僕なんか逆立ちしてもできませんよ」
やはり……毒の種類は伝えた方が良いかもしれない。
私が知ったことは全部共有しよう。
「皆さん、落ち着いて聞いてください。メイナさんの食事に混入されたのは…………トリカブトの毒らしいのです」
「「……トリカブト!? ま、まさか……」」
しばしの間、みんなは強いショックを受けていた。
学院の授業でしか使わないような毒草なのだ。
それが実際に友達の食事に入れられたとなると、衝撃は計り知れない。
「ほ、本当に私は死ぬところだったんですね……」
震えるメイナを優しく抱きしめる。
「ごめんなさい、余計怖がらせてしまいましたわね」
「いえ、ノエル様。教えてくださってありがとうございます。どんな毒だったのかわからないより、ハッキリした方が良いですわ」
「メイナさん……」
彼女の方が私の何倍も強い。
「思ったよりもシビアな状況かもしれないですわ」
メイナを抱きしめていたら、自然にポツリと言葉が漏れ出た。
そうなのだ……人を簡単に殺せるような毒が混入されたのだから……。
しかし、そんな暗い空気をアンガーが吹き飛ばすように明るく言った。
「なに、むしろ手加減しなくていいってわかったんだ。徹底調査して、絶対に犯人を見つけ出してやろうぜ」
「アンガーさんの言う通りですよ。僕たちだって魔法学院の生徒なんです。相手がどんな人だろうと絶対に負けません」
「そうさ。僕たちは1年生だけどトップクラスなんだ。力を合わせれば何も怖いことはないよ」
さらに賛同するカルムとブレッド。
彼らを見ていると徐々に気持ちが明るくなり、心の中に元気があふれてきた。
ありがとう、みんな。
「私たちで独自調査しましょう!」
「「おおー!」」
部屋の中で控えめに歓声を上げる。
先生たちや騎士団の調査を待っているだけではいけない。
私たちでメイナを、学院のみんなを守るんだ。
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