第18話:モンスター撃退
『『グルルルル……』』
ヘルウルフたちの目はビキビキに血走っている。もしかして、私と同じドライアイなのか? いや、そんなことを考えている暇はない。涎がダラダラ垂れているし、めっちゃ悪い顔をしている。小さい子が見たら泣きそうだ。マスコット役とかは絶対に務まらない。明らかに全年齢向けのモンスターではないぞ。
「ヘルウルフが全部で六体!? こ、これはBランクダンジョンの最下層レベルだぞ! 俺でさえまだ戦ったことはない!」
「みんな、できるだけ下がるんだ! 刺激しないようにゆっくりと!」
アンガーとブレッドが叫ぶ。じりじりと距離を取りながら、私は疑問に感じていた。おかしい……こんなシナリオはゲームになかった。魔石採取の課題では、ゴブリンとスライムしか出てこないのだ。それに、バトルがメインのゲーム内容ではない。じゃあ、どうして……。
「ノエル様は僕がお守りします! メイナさんはお下がりを!」
「いいえ、ノエル様は私が守りますわ! カルム様こそお下がりください!」
今気づいたけど、メイナとカルムは小競り合いをしている。ちょ、ちょっと、そこ。変なところで張り合わないでくれ。そんな場合じゃないでしょうに。目の前にはヘルウルフの群れ。後ろには湖。前も右も左もモンスターに囲まれてしまっている。戦うよりは逃げた方がいいのは明白だった。
「カルム様! 先程の魔法で皆さんを避難させられませんか!? 時間は私が稼ぎますので!」
「ご、ごめんなさい、ノエル様。魔力がもう限界で……」
いつの間にか、カルムは息も絶え絶えになっている。やはり、湖の上を走る魔法は難しかったらしい。メイナが私の袖を掴んで言う。
「ノエル様、先ほどの水を走る魔法は使えないのですか?」
「申し訳ありません。さっきの忍じゅ……魔法は自分にしか使えないのです」
<水上歩き>は自分しかできないし、そもそもみんなは胆力を使えないだろう。
「ということは、こいつらを倒さなきゃいけないってことだな。お前ら、危ねえから動くなよ。俺が守ってやるから」
「みんなは下がっているんだ。僕たちが守ってあげるからね」
ブレッドとアンガーが静かに前に出る。ちゃっかりキザなセリフを言うところは、さすがは乙女ゲームの攻略対象だ。二人はすぐに魔力を練り始めた。
「雷の精霊よ、その輝く一撃を悪しき狼に与えたもう! <ライトニング・アロー>!」
「火の精霊よ、燃えゆる力で邪悪な敵を焼き払え! <ファイヤ・シュート>!」
『グアアア!』
ブレッドの雷、アンガーの炎が先頭のヘルウルフにヒットする。大きな衝撃と一緒に煙が沸き起こった。
「やった! さすがはブレッド王子とアンガー様です! これでノエル様のお身体が守られますわ!」
「こ、これで、逃げてくれれば僕たちは助かるのですが……」
『グウ……ウウウ』
しかし、ヘルウルフが倒れる様子はない。体毛が少し焦げただけだ。効いていないわけじゃないけど、ダメージもそれほど与えてないようだ。いくら学生のトップ層といえど、所詮はDランクの初級魔法。Bランクのモンスターには効果が薄いということらしい。
「くっ! 僕の一番強い魔法だというのに……!」
「効いてない……だと……こ、これがBランクか……!」
ブレッドもアンガーも怖じ気づいていた。ヘルウルフたちはじわじわと近づいてくる。というか、トシリアス先生は? 他の先生もなんでいないの? 辺りを見回すけど誰もいない。こうなったら、私がどうにかするしかない。忍者うんぬんとか関係ない。みんなの安全が最優先だ。
「皆さん、お下がりください! 私が戦いますわ!」
「いけませわ、ノエル様! 助けを呼んだ方が……!」
「いいえ! いつ来るかわかりませんもの! 皆さん、下がって!」
「みんな、ここはノエル嬢の言う通りにするんだ!」
ブレッドに促され、メイナたちは私の後ろに下がった。ありがとう王子。超高速で印を結ぶ。体中の胆力を肺に集めて、一気に放った。
「<火遁の術・
ドゴオオオオン!! と、特大の火の玉がヘルウルフたちに放たれた。
『『グギャアアア!!』』
真っ赤な豪炎が凶暴な狼たちを包み込む。ヘルウルフは一瞬で燃え尽きてしまった。みんな唖然とした様子で見ている。
「きゃーっ、かっこいい! これでこそノエル様ですわ!」
「お、驚いた……君は風と水だけじゃなく、火属性の魔法まで使えるのか!? こんな人は見たことがないよ!」
「お、俺の火魔法より強いじゃねえか……」
「ノ、ノエル様、あなたはいったい……」
森もちょっと燃えちゃったけど仕方ないよね。正当防衛だったんだから。トシリアス先生に言われたらそう言い返そう。幸いなことに証人もいるわけだしね。第一王子に三大公爵家嫡男、そして特待生二人。これほど強力な味方はいない。
「ふぅ……さて、他にモンスターはいないようですね」
注意深く周りを見たけど大丈夫そうだ。新しいモンスターが出てくる気配はない。どうやら、危機は去ったらしい。そして、ヘルウルフのいたところには緑の魔石が六個転がっていた。
「ノエル様、Bランクの魔石でございますわ! さあ、お受け取りくださいませ!」
メイナが全部押し付けてくる。い、いや、ここで私が独占したら悪印象極まりない気がするんだけど……。
「せっかくですので、みんなで分けましょう。ちょうど人数分はあるわけですし」
「いいえ! ノエル様が受け取るべきでございますわ! モンスターを倒してくれたのはノエル様なので!」
ドンッ! とメイナに突き付けられ、結局私が全部貰うことになった。ま、まぁ、しょうがないか。
「何はともあれ、皆さんがご無事で良かったですわ。まずは先生を探した方が良さそうですわね」
さて、と足を踏み出したときだ。突然、グラリッ……と体が揺れた。え? な、なに? 体に力が入らない。へなへなと座り込んでしまう。
「「ノエル様! どうされたのですか!?」」
「ノエル嬢!?」
「おい、密偵女、どうした!?」
「あい、いや、大丈、夫」
メイナと攻略対象ズが慌てて駆け寄ってくる。立ち上がろうとしても足に力が入らない。ど、どうしたんだろう。し、しまった……胆力を使い過ぎたんだ。今までこんなに忍術を連発したことはない。
「ノエル様、しっかりしてくださいませ! 目を開けてください! 私の声が聞こえますか!?」
みんなが私を揺するけど意識は薄れていく。そして、私は目の前が真っ暗になった。
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