第14話:課外授業開始

 その後、私は粛々と毎日を過ごしていた。処刑フラグも回避できている。メイナとの仲が予想以上に深まっているけど、まぁ大丈夫だろう。というわけだけど、さっそく新しい処刑フラグがやってきた。


「では、本日は課外授業を行います。課題は学院近くにある“ディープルートの森”で魔石の採取です」


 そう、魔石採取の課外授業だ。メイナは攻略対象とペアを組むけど、ノエルが割り込んでくる。そして、ノエルは妨害しまくり周囲のヘイトを着々と溜めるのだった。つまり、メイナとペアを組まなければ大丈夫ということだ。


「魔石は色でランク分けされています。青がD、黄がC、緑がB、赤がA、虹色がSです」


 トシリアス先生は実際の魔石を見せながら説明してくれる。ダイヤみたいな感じの八角形。手の平サイズとそこそこ大きいので、転がっているとすぐにわかりそうだ。そういえば、ゲームでは制限時間があったな。その間に地面に落ちてる魔石を集めたり、出てくるモンスターを倒していたっけ。まぁ、ゴブリンとかスライムの雑魚ばかりだったけど。見た目もマスコットみたいで可愛かった。


「魔石は落ちていることもありますし、モンスターを倒すことでも入手できます。“ディープルートの森”にはDランクモンスターしかいませんので、皆さんでも倒せるはずです。それでも、

念には念を入れ、教員たちが見回りをしています。何かあったらすぐに呼ぶように」


 そうか、この授業はここまで習った魔法の実践訓練でもあるわけだ。まぁ、森の中を歩くだけで楽しいかもね。実際に見る魔石とかモンスターも楽しみだし。スライムはやっぱりぷにぷにしてるのかな。可愛かったらペットにしちゃおう。ちなみに、魔法の練習もやってはみたけど、いつまで経ってもむあ~から進歩しないので諦めた。せっかく異世界に来たのに魔法が使えないなんて、残念極まりないことだ。


「魔石の採取は一人で行ってもいいですし、複数人でグループを組んでも構いません。ただし、最終的なポイントはグループ人数で分割いたします」


 ふーん、ゲームではなかった説明だ。大人数で探した方が有利になるからね。ぼけ~っと説明を聞いていたら、メイナが服の裾をクイクイッと引っ張ってきた。


「誰か私とペアを組んでくださる方はいらっしゃるでしょうか。心細くて仕方ありませんわ」

「メイナさんと組みたい方は、それこそたくさんいらっしゃると思いますわよ」

「そうでしょうか」

「ええ、あなたはとても魅力的な方ですもの。成績もいいですしね。私もご一緒したいくらいですわ」

「ノエル様……」


 メイナはしきりに上目遣いで私を見てくる。私の方が座高高いからね。彼女の目はうるっとしている。ゲームのやり過ぎでドライアイ気味だった私には羨ましかった。


「入手した魔石の合計ポイントで順位が決まりますので、真剣に取り組むように!」


 順位と聞いて、教室がざわっ……とする。学期末テスト以外に、普段のこういうイベントも総合順位に影響するらしい。毎年の順位は卒後の進路に影響するので、みんなは懸命に勉学に励んでいる……という設定だ。ゲームは1年生のラストでエンディング迎えるんだけど。ふむ、ここまではシナリオ通りだな。攻略対象ズのメイナに対する好感度ってどうなんだろう。ゲームでは、それまでの好感度が一番高いヤツとペアを組むんだよな。高得点を取ると感謝されてさらに仲良くなるのだ。うーむ、気になる……。あっ、この後の流れでわかるか。あいつら三人でメイナを取り合う……。いやぁ、モテる女は辛いねぇ~。


「そして、ノエル・ヴィラニールさん!」

「は、はい!」


 突如、トシリアス先生の声が響いた。クラスメイトの視線が集まる。なんだ、なんだ、なんだ? 頼むから私を目立たせないでくれ。


「あなたはメイナさんとペアを組んでもらいなさい!」

「……え?」

「……え? じゃ、ありません! 優等生のメイナさんとペアを組んでもらいなさいと言っているのです!」


 んなっ! そ、それは困るぞ。メイナと攻略対象ズには仲良くなってもらいたいのに。


「ど、どうしてでございますか!?」

「あなたは何をしでかすかわかりませんからね! 下手したら森を燃やしかねません!」


 森を燃やすって、あんた……。私のことをなんだと思ってるんじゃい。日々の奇行のせいで、すっかりトシリアス先生の信用を失ってしまったようだ。


「メイナさん、頼みましたよ! 私も注意して見ていますが、あなたの方でもよく見ていてください!」


 メイナが「かしこまりました」とロイア張りに静々と言って、トシリアス先生もようやく静かになってくれた。メイナは誰にも聞こえないよう、コッソリ話しかけてくる。


「私……ノエル様と一緒のペアになれて幸せですわ」

「そうでございますね。できることなら、メイナさんと二人っきりで森に行きたいですわ」

「二人っきりで……」


 こうなっちまったらしょうがない。せめて攻略対象ズは除外したい。メイナの好感度を少しでも上げるムーブに入ろう。そして、彼女はさっきから「二人っきり……」と呟いているけど、どうしたんだろう?おまけに、赤くなった頬を手の平で押さえているし。かわいいね。


「ノエル様からそのように言っていただけるなんて……私はどこまで幸せ者なんでしょう? また私を守っていただけるのですね」

「私よりメイナさんの方がお強いと思いますけど……」


 メイナ、すまん! せっかく攻略対象ズと仲良くなれるチャンスが……。それなのにこんな嬉しそうに言ってくれるなんて、どこまで良い子なんだ。チラ……と攻略対象ズを見る。


「ブレッド様~、私と一緒にペアを組んでくださいませ~」

「アンガー様~、その熱い炎で私の心にも火がついてしまいましたわ~」

「カイル様~、その不思議な魅力で私を魅了してください~」


 みんなモブ美少女に囲まれていた。いいぞいいぞ、もっとやれ。あの調子じゃ女の子たちと一緒だね。その間に、私は静かにイベントを消化させてもらいますよ。


「では、参りましょう、ノエル様」

「ええ、そうですね。魔石がたくさん見つかるといいですわね」


 やたらとウキウキしているメイナと一緒に“ディープルートの森”へ向かう。彼女もスライムが楽しみなのかしら。

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