第13話:評価は……

「ブ、ブレッド!? ……様。ど、どうしてこちらに?」

「いや、宮廷料理を思い出すほどのかぐわしい香りが漂ってきてね。何事かと思って来てみたら、君たちの料理だったというわけさ」


 王子はさらりと髪をかき分けながら、メイナのかぼちゃスープを見ていた。


「おい、どうした。ずいぶんと旨そうな匂いじゃねえかよ」


 あっという間に二人衆集合。ああ、ちくしょう。メイナの料理は攻略対象ズをおびき寄せてしまうのだ。まぁ、でもこれはこれで良い展開かな。彼らはメイナの料理を食べて喜ぶ。私が何もしなければ、少なくともヘイトを溜めることにはならなそうだ。


「みなさん、ノエル様が素晴らしいお料理を作ってくれたのですよ。ぜひ、お召し上がりくださいませ」

「あっ、ちょっ!」


 安心していたら、メイナが兵糧丸を出しちゃった。白い皿に乗った黒い団子たち。ファンタジーの世界にそぐわない歪な食べ物。いくらキレイに並べられていても、その浮きまくったズモォ……というオーラは隠し切れない。怖くて攻略対象ズが見れないよ。ギギギ……と顔を上げると、案の定ゲームではカットされそうな表情をしたイケメンたちがいた。


「こ、これはなんだい? 見たこともない料理だが……」

「な、なんだかめっちゃまずそうだな……」


 二人とも頬がヒクヒクしている。それでもイケメンが崩れないのはさすがだなと思った。


「さあ、遠慮なさらずにお召し上がりください! 頬っぺたがとろけてしまうくらい美味しいのですよ!」


 メイナは「さあ、さあ、さあ!」と手下ズにも勝てそうな勢いで兵糧丸を勧める。お願いだからやめてくれ。恥ずかしいから。結局、彼女にゴリ押しされ二人衆は兵糧丸を手に取った。半ば諦めたように、揃ってパクッとかじる。


「「うっ……!」」


 と、思ったら、いっせいにうめき声を上げた。各々、下を向いたまま動かない。なに、なに、なに!? も、もしかして、食中毒か!? どっと冷や汗をかいて心臓が跳ね上がる。だとしたら、これは最悪の事態だよ? フラグなんかすっ飛ばして、即刻ギロチン台行きだ。


「だ、大丈夫ですか!? 今すぐ薬を……! ああ、なんということでしょう!? どうかお許しを……!」

「「うまい」」


 ……おい。紛らわしいんじゃ。床にすっ転びそうになった私など気にも留めずに、攻略対象ズは嬉しそうに話し出す。


「ノエル嬢は料理が上手いんだなぁ。意外なことに」


「へぇ、見た目はアレだが味は良いな。見た目はアレだが」


 メイナはしきりに「そうでしょう! そうでしょう!」と言っている。まぁ、美味しかったなら何よりだよ。みんなでワイワイしていると、トシリアス先生がやってきた。そうだった、一応これも採点されるのだ。 


「ノエルさん、ちゃんとやっているのでしょうね」


 ギリッとした目つきで睨まれる。わ、私はどこまで信用されていないのだ。


「え、ええ、もちろん、ちゃんとやらせていただいてますわ」


 と言いつつ、そそくさと兵糧丸を隠す。トシリアス先生に見られたら、何を言われるかわかったもんじゃないからね。メイナのかぼちゃスープだけ採点してもらおう。


「見てください、トシリアス先生。ノエル様が作ってくださいましたわ」

「あっ、ちょっ!」


 メイナが嬉しそうに兵糧丸を差し出す。ど、どこに持っていたの。トシリアス先生はピタッと固まる。


「こ、これはいったい何でしょうかね?」


 トシリアス先生はしきりに眼鏡をくいくいしている。ゲームではこういう仕草はなかったけど、どんな気持ちか大変よくわかった。やがて、偉大な担任の先生はピキピキし出した。


「ノエルさん! これは何ですか!?」

「そ、それは兵糧丸と言いまして、これでも立派な栄養食で……!」

「口答えは許しません! 変な物を作りましたね! 補習です! メイナさんに見てもらっていたのに、なんてことですか! いったい、あなたにはどういう指導をしたら……!」


 たぶん、メイナと攻略対象ズには好印象だったと思う。心配していた処刑フラグも回避できただろう。そう思えば、トシリアス先生のマンツーマン補習(三時間)にもどうにか耐えることができた。

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