第7話:試験はクリアできたけど……
「さあ、皆さん! 試験を始めますよ! 早く集まりなさい!」
というわけで、さっそく試験が始まってしまった。クラスメイトの視線が私の背中に突き刺さる。すまん、本当に申し訳ない。
「まずはルールを説明します。皆さんは各々使える魔法で、こちらの的を攻撃してください。ただの石ですが、特殊な強化魔法でコーティングされています。簡単な力では壊れないので、手加減せず思いっきり攻撃してください」
トシリアス先生の前には、西洋風の墓石みたいなのが置かれている。前面にはザ・魔法陣って感じの模様が刻まれていた。なるほど、あそこに魔法を当てるのか。
「魔法の精度、威力などによって点数が表示される仕組みです。最高は100点、及第点は50点。落第点を取った者には厳しい補習が待ってますからね!」
あの~、こっちを見ながら言わないでもらえます?
「さあ、時間がないですからね、さっさと始めますよ!」
ふーん、ゲームと同じっぽいな。実際のプレイ画面では、ロックオンマークが的の周りをフラフラしていて、ちょうど重なったタイミングでタップするのだ。的に近いほど得点が高い。高得点なら攻略対象ズが「すごいね、君」的なことを言って近づいてくる。低得点なら「勉強を手伝ってあげよう」的なことを言って近づいてくる。どのイケメンと過ごすかはご自由に。魔法が的に当たるたび、《72点!》とか、《67点!》とか音が出る。うん、ゲームと同じだ。それにしても、みんなきちんと魔法が使えてすごいなぁ。
「おい、挙動不審女」
は? 誰だよ、私に向かってそんな暴言を吐くクソ野郎は。胆力を溜めながら後ろを振り返る。赤髪のワイルド野郎が立っていた。ゲッ! アンガー!
「あ、あら、アンガー様。ご機嫌いかがでございましょうか?」
「とぼけるんじゃねえ。お前、他国の密偵だろ」
……なんでそうなる。もしかして貴族ギャグか?
「み、密偵? オホホ、何のことでございましょうか。私はれっきとしたヴィラニール家の娘ですわ」
「あの身のこなしと謎の魔法。誤魔化そうとしてもムダだぞ」
……マジか。どうやら、アンガーは私を密偵だと本気で勘違いしているようだ。
「だが、簡単に吐かせちゃつまらんな。ちょうどいい、この試験で勝負しろ。俺が勝ったら洗いざらい話してもらおうか」
なんでお前はそんなに勝負したがるのだ。いくら説明しても、アンガーは分かってくれなかった。その間にも試験は着々と進む。ちなみに、私はメイナの次。もちろんゲームでは落第点。
直前にテストしたメイナのせいで点数が出なかったとかなんとか言って、周囲のヘイトを溜めるのであった。さて、ここからは攻略対象ズのターン。
「次! ブレッド・アリストール!」
「はい」
「「キャ~! ブレッド様~!」」
来たぞ、来たぞ、来たぞ。ゲームで一番人気のブレッド王子。思った通り、現実世界? でも大人気だ。金髪は黄金のように輝いて、顔の周りからはキラキラエフェクトが飛んでいる。スマホの解像度じゃ表現しきれていなかったんだな。だが、そんな彼には隠れた一面がある。それは…………重度の魔法オタクなのだ。だから、珍しい聖属性のメイナに惹かれていくというわけ。ブレッドは手の平を的に向けて、呪文を詠唱しだす。
「雷の精霊よ、我が魔力を糧に迸る雷光の一撃を放て……<ライトニング・ショット>!」
その両手から黄色い雷の球が放たれた。バチバチ! と飛んでいき、的に勢いよく当たる。
《92点!》
「「おおお~!!」」
ブレッドはホッとしたような、満足したような表情で戻ってくる。まったく嫌味を感じさせないのが、さすがは王子様だ。女子生徒たち(メイナ以外)の目はハートになっているよ。たしか、次はアンガーだったな。
「次! アンガー・レシピエント!」
「はい」
あの狂戦士が素直に「はい」と答えているのがウケた。てっきり「ああ」とか言うと思ったのに。
「見てろよ、密偵女。力の差を証明してやるから」
「アンガー様は本当に面白い殿方ですこと、オホホ」
さっさと行けや。
「火の神、火の精霊よ。その力を持って全てを燃やし尽くせ……<ファイヤー・ボール>!」
アンガーのかざした手から火球が放たれる。
《90点!》
おおお~! と、拍手がパチパチ沸き起こる。さすがはレシピエント家の嫡男だ。ブレッド王子にも負けていない。トシリアス先生も感心した様子だった。アンガーは満足気に戻ってい
く。そして、私をドヤ顔で見てくるのはやめろ。
「次! カルム・トランクイル!」
「……はい」
おっ、最後の攻略対象だ。メイナ以外で唯一の平民出身者。属性は水でそこまで珍しくはないけど、類まれな才能の持ち主である。そのため、メイナと同じ特待生枠で魔法学院に入学したのだ。でも、周りが貴族ばかりなためか、引っ込み思案で他人とあまり話さない。それを同じ平民出身であるメイナが明るく話しかけ、心を開いて仲良くなる……という寸法だ。まぁ、こいつはこっちから接触しなければ問題ないだろう。
「万物の母たる美しい水よ、その清純なる力を貸し与え給え……<アクア・ブレード>!」
カルムが手を剣のように振ると、水の刃が打ち出された。一直線に的へ向かう。
《91点!》
「「おおお~!」」
試験会場はどよめいた。王子に次ぐ高得点だ。アンガーは悔しそうな顔をしていた。ブレッドも興味深げな様子だぞ。
「ねえ、あの殿方も素敵じゃない?」
「魔法もお上手ですし、お近づきになりたいですわ」
「あとでお茶にでもお誘いしようかしら」
ご令嬢たちは楽しそうにコソコソ話し合っている。まったく、どいつもこいつも恋愛にしか興味がないのかね。
「次! メイナ・キャラバン!」
「はい」
我らが主人公、メイナの出番だ。彼女は非常に珍しい聖魔法の使い手。ゲームでは白っぽい光の槍? みたいなのを飛ばしてたな。一番エフェクトに金がかかってそうだった。何度も見た光景ではあるけれど、ちょっと楽しみかも。
「この世を守る聖なる存在よ、その神聖な力を放ち給え……<セインティア・ランス>!」
ゲームで見たのと同じ光の槍が勢いよく的へ向かう。ド真ん中に当たった。
《94点!》
「「おおお~!!」」
すっげ。ここまでの最高得点。攻略対象ズはビックリしている。思い返せば、私はテストで90点台なんて一度も取れなかったなぁ。メイナは恥ずかしそうに立ち位置へ戻る。攻略対象ズが気にする素振りを見せていた。さっそく、ブレッドがさりげなくメイナに話しかける。
「僕はブレッドというのだけど、メイナ嬢と言ったね。素晴らしい魔法だ。ぜひ、話を聞かせていただきたいな……」
「いえ、それほどではございませんわ……」
いいぞ、いいぞ。シナリオ通りだ。ゲームではすかさずノエルが間に割って入るけど、私は何もしない。だから、何も起こらない。いいねぇ。私は静かに学園生活を送るから、アンタらは勝手に仲良くなってくれ。
「では、次!! ノエル・ヴィラニールさん!!」
「は、はい」
なんか私のときだけ声がキツいんですけど。とりあえず、メイナ絡みの処刑フラグは何とかなりそうだ。だけど、試験はどうしよう。ゆっくり前に出ながら考える。ここでむあ~を出したら余計目立つ。というか、あんなへなちょこ弾では及第点にも届かない。補習なら攻略対象ズとメイナからは隔離される。が、トシリアス先生と二人っきりはかなり嫌だ。ぐぅ……どうする。そうだ、忍術なら……。やる気がなかったとはいえ、サボっていたわけじゃない。初級忍術くらいならどうにか使える。今度は風遁の術を試してみようかな。一応、どんな忍術が使えるかチェックしときたいかも。でも、せっかくの新しい人生でまた忍者要素が出てくるのは……。
「どうしたんですか、ノエルさん!? 早くしなさい! まさか、こんな試験受けるに値しないと思って……!」
「ません! 思ってません! すぐやりますから!」
葛藤する時間もないのか。トシリアス先生が睨んでいるぞ。ええい! ここまで来たらもうしょうがない! この試験だけクリアすれば何とかなるんだ! 高速で印を結ぶ。胆力を腹の中心に集めて一息に放て!
「<風遁の術・
ゴオオオ!! と巨大な空気の玉が的に向かって放たれる。
《☆※〇▲!》
的に当たった瞬間、魔法陣ごとバッカーン! って木っ端みじんに砕けちゃった。パラパラパラ……と欠片が飛び散る。
「「…………え?」」
トシリアス先生とクラスメイトは、みんなポカン。でも、それ以上に私の方が驚いていた。目の前には墓石の欠片が無残に散らばっている。……え? に、忍術ってこんなに強かったっけ? せいぜい小さな薪を転がすくらいの威力しかなかったような。というか、点数はどうなるんだろう。ちらりとトシリアス先生を見る。プルプル……と震えていた。
「ノエルさん!! なんてことをしてくれたんですか!」
「ぃえええ!?」
すかさず思いっきり怒鳴られた。な、なんで? 的を壊すほど強い魔法が使えるなんてすごい! 的な展開じゃないの?
「ぃえええ!? じゃありません! 的が壊れたんじゃ試験ができないでしょう! まだ受けていない生徒もいるんですよ!」
「新しく用意すればいいんじゃ……」
「お黙りなさい! 口答えは許しませんよ! 今のでさらに補習追加です!」
「そ、そんな……」
「あなたには基礎の基礎から教えないといけないようですね! こんなに出来の悪い生徒は初めてです! そもそも、その態度から……!」
ガミガミ怒られながら、心の中でスキップボタンを連打していた。もちろんスキップできるはずもなく、結局私だけ補習(四時間)になった。メイナと攻略対象ズに悪目立ちした挙句、トシリアス先生にみっっっちり絞られた。最悪の初日だった。
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