03_英雄
木の化け物はにょきにょきと地面から生えた木の根っこを巧みに操り、弟を助けに行こうとするカナタを容赦なく襲う。
「ぐっ!?」
くねくねと動く木の根っこが、カナタの脇腹のあたりを勢いよく攻撃する。何度も木の根っこによる強烈な一撃を受け続けたカナタの身体はボロボロになっていた。思わず片膝を地面につける。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
カナタの身体は、限界に近かった。息が乱れ、視界がはっきりしない。気を抜けば、視界が真っ黒に染まり意識を失ってしまうだろう。それでも、カナタは目の輝きを失うことはなかった。
このまま、母も父も、弟も失ってしまうのか……。
そんなの嫌だ。
これ以上、大切な家族の命を奪わせやしない。
カナタは、歯を噛み締めて、拳をぎゅっと握りしめるとなんとか立ち上がる。何度打ちのめされても何度も立ち上がる兄の姿を見て、コナタは、たまらず叫んだ。
「お兄ちゃん、もういいんだ。僕のことは。だから、お兄ちゃんだけでも逃げて!」
コナタが叫んだ直後、彼を黙らせるかのようにぐるぐると巻き付いた根っこがさらに力を強める。コナタは根っこに締め付けられ、一瞬、意識が飛びそうになる。
「そんなことできる訳ないだろ!!!絶対に助け出す、少しの間、待っててくれ」
カナタは、そう叫ぶと、根っこの攻撃を回避しながら、コナタの方に少しずつ進んでいく。
そうだ、僕が困っている時、苦しんでいる時、まずいつも手を差し伸べて助けてくれたのがお兄ちゃんだった。
コナタは、頑張り屋だが、結果が出るのに時間がかかってしまうところがあった。
「どうして、こんなことも分からないんだ。頭が悪いな、お前。目障りだ。見ているだけで腹が立つ」
小学校に通っていた頃、コナタはクラスメイトの一人に、苛立ちの言葉を浴びせかけられた。
そのクラスメイトは、父親の勤めていた会社の社長の息子で、小さい時から英才教育を受けていた。生まれつき才能に恵まれており、勉強ができるだけでなくスポーツもできた。
そんな彼にとって、不器用なコナタはストレスのはけ口となった。日頃抱いているストレスを罵詈雑言に変えてコナタに浴びせかけることで、ストレスを解消していたのだ。
コナタは、劣等感に苛まれていた。何をやってもうまく行かない気がして、一人だけ周りから置いて行かれるような気がした。
一人寂しく公園のブランコを揺らして、コナタが落ち込んでいる時だった。誰かが、彼の肩に手を置いて話しかけてきた。
「よお、コナタ。何をそんなに落ち込んでるんだ」
コナタが横を振り返ると、兄カナタがいた。
「お兄ちゃん……」
コナタは、カナタに悩んでいることを聞かれ、学校での出来事を彼に正直に話した。カナタは、真剣にコナタの話を聞いた後、言った。
「気にするな。そんな奴の言う事は真に受けなくていいよ。言わせておけばいいんだ」
「でも……」
「コナタがすごい奴だって俺は知ってる。人のことを思いやれたり、人のために勇敢に立ち向かえる勇気があったりすることを知っている。それは誰でもできるようなことじゃない。一番、間近で見てきた兄が、言うんだ。信じていい。お互い地道にコツコツと頑張っていこうぜ!」
カナタの言葉を聞いてコナタはぱっと目を見開いた。
「うん、ありがとう!お兄ちゃんの言葉を聞いて、元気が出てきたよ」
コナタは、嬉しかった。周りが自分を置き去りにしていく中、兄が隣にいて一緒に歩いてくれる。自分とともに歩いてくれる人が側にいるだけで、コナタは救われた。
お兄ちゃんは、僕にとっての英雄だ。
コナタは、顔を上げて危険を顧みず、木の根っこに捕まっている自分をなんとか助けようとするカナタの姿を見た。
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