02_再会
予期せぬ父親セナとの出会いに、カナタとコナタの二人は茫然と佇んでいた。そよ風がさっと吹き抜けて、周囲の草木を優しく揺らす。その瞬間、父親が生きていた頃の何気ない日常の記憶が、ぱっと蘇る。
「大丈夫か、カナタ?怪我してないか」
カナタは公園で遊ぶのに夢中で転んでしまった時、父親は心配して彼に手を伸ばす。転んだ拍子に、足に怪我をしているのを見て、父親はおんぶしてお家まで運んでくれた。その時に運んでくれた父親の背中の温もりを、今でもカナタは、鮮明に思い出すことができた。
「コナタ、木にひっかかった紙飛行機が取りたいのか?」
コナタが投げた紙飛行機が木の枝にひっかかってしまった時、父親は彼を肩に乗せて、紙飛行機を取れるようにしてくれた。あの時、投げた紙飛行機はぐしゃぐしゃになってもう捨ててしまったけれど、父親の思い出はコナタの心の中に今も残り続けている。
何度、父親に感謝の言葉を言えただろう。父親にしてもらったことに比べたら、きっと感謝の言葉は、全然足りてない。
父親の死を聞かされてから、二人はそのことをより強く感じるようになった。当たり前だった日常を失って、父親との日々がどれほどかけがえもなく幸せな時間であったのか身にしみて感じていた。
もう二度と、父親と出会うことも話をすることもできない。
ーーそう思っていた。
だけど、カナタとコナタの二人は、今、異世界で父親セナと再会を果たしている。
その信じられない状況に、コナタは、感情がぶわっとこみ上げてきて、思わず目を潤ませた。セナは今にも泣き出しそうなコナタの様子を見て微笑みを浮かべている。
「お父さん……もう会えないと思ってた。会いたかったよ……お父さん!!」
コナタは、感情の赴くままにセナのところまで駆け寄って、彼の足に両手でぎゅっとしがみついた。
「……」
セナは、コナタが足にしがみついても、何かを話す訳でもなく、まるで棚の上の人形のように黙っている。
何か、様子がおかしい。
カナタは、沈黙を続けるセナの様子を見て、なんとも言えない違和感を感じ、かつて父親に言われた言葉をふと思い出す。
「カナタ、お願いがある。コナタは、感情的に行動してしまうところがある。危険なことでも飛び込んで行ってしまう怖さがあるんだ。カナタは、冷静に考えてから行動するタイプだから、もしコナタが危険に飛び込みそうになったら、守ってやってくれ。コナタのお兄ちゃんとしてな」
そうだ。前に父親にそんなことを言われたっけ。
父親の言葉を思い出し、カナタは気持ちをすっと落ち着かせると、視野を広くして周囲を冷静に観察する。
何かが地面を蠢いている。一体、どこから。
近くの木からだ。根っこが蠢いているのか。
カナタは、木の根っこのようなものが地面を進み、コナタの方に向かっているのに気づき、咄嗟にコナタに叫んだ。
「コナタ、そいつは偽物だ!!今すぐ離れろ!!」
「えっ……」
カナタがコナタに叫んだ瞬間、地面から木の根っこが勢いよく飛び出してコナタに巻きつくと、あっという間に拘束する。
父親セナの姿をしていた何かは、根っこが出た直後、にょきにょきと枝を伸ばして巨大な木の姿へと変貌していく。
「コナタ、今、助けに行くからな」
カナタは、急いでコナタを助けようとするが、地面から次々と現れる根っこが邪魔でうまく進むことができない。
巨大な大木には、人のような顔があり、弟を丸ごと飲み込めるほどの大きな口がついている。木の化け物は根っこを操り、拘束したコナタを口元に次第に近づけていく。
この木の化け物……コナタを食べる気だ。
俺はコナタを救えるのか。
カナタは、巨大な木の化け物を前にして、恐怖でビクビクと体が小刻みに震えていた。心臓も狂ったように激しく鼓動し、生きた心地がしない。あまりの実力差に身体が、危険を察知して、カナタに逃げろと絶えず警告してくる。
「お兄ちゃん……逃げて」
根っこを捕らえられているコナタは、カナタの方を見て呟いた。こんな状況でも、助けを求めるのではなく、コナタは自分のことよりも兄の命のことを第一に考えていた。
俺は、何を考えてるんだ。
カナタは、地面に転がった一本の小さな木の枝を拾い上げしゅっと構えた。覚悟を宿した、鋭い眼光を輝かせ、根っこがにょきにょきと蠢く先で捕らえれているコナタの方を真っ直ぐ見た。
絶対に、コナタを救い出してやる。
コナタの兄として。
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