再会の花園編

01_異世界への扉

 庭から地下室に向かうと、そこには異世界に通じる扉が一つだけあった。


 以前、地下室に二人で来た時は、目の前の扉は見当たらなかった。母親からもらった首飾りの導きにより、二人にもようやく扉を見ることができるようになっていた。二人のかけている首飾りには、人智を超えた力が宿っているようだ。


「これがお母さんが言ってた扉なのかな?」

  

 コナタは、目の前の古びた扉の前まで行くと、カナタに言った。


「だろうな。見たところ、地下室には、この扉しかないし」


 カナタは、地下室をさっと見渡すが、やはり異世界に通じる扉らしきものは、目の前の扉しかない。


 この扉の先に、一体、どんな異世界が広がっているのだろうか。


 異世界への扉を目の前にして、ふと二人はそんなことを考える。扉の先に何が待ち受けているのか、異世界に行ったことがない二人には当然、見当がつかない。


 絵本の中に出てくるような未知の世界に行けるわくわく感とともに、狐顔の魔物のような凶悪な魔物たちに襲われないかという不安も二人にはあった。


 カナタは、意を決して、恐る恐る手を伸ばし扉の取っ手をぎゅっと握る。


「何だか緊張するね、お兄ちゃん」


 コナタは後ろでゴクリと固唾を飲んでカナタの様子をじっと見守っている。


「ああ、でも、迷っていても仕方がない。行こう、二人でこの先にある異世界へ。そして、お母さんが言ってた再会の花園にいる人物に会いに行くんだ」


 カナタは、一旦、深呼吸をして気持ちを落ち着かせた後、取っ手を回転させ、ガチャッと扉を開けた。


 扉を開けたと同時に、温かな風と共に、花の甘い香りが鼻の中にフワッとほのかに入り込む。


 扉の先に見える幻想的な光景に、一瞬で二人は目を奪われた。


 どこまでも続く草原に色鮮やかな花が美しく咲き乱れていて、花の上を蝶が優雅に舞っている。草原の上には、雲一つない青く澄んだ大空が広がっている。どこからか鳥のさえずりも聞こえてくる。


「これが異世界なのか……」


「綺麗だね」


「ああ、こんな光景見たことがない」


 コナタは、広大な草原を見渡していると、一本の木の下に誰かがぽつんと立っているのに気づいて指差す。


「お兄ちゃん、あそこに誰か立ってるみたいだよ」


 カナタは、コナタの指差した方向に顔を向ける。確かに誰かがこちらを背にして立っていた。体つきからして、男性のように見える。


「ほんとだ。誰だろう。どこかで会ったことがあるような……」 


 距離が離れていて、木の下で立っている人物の顔がよく見えない。二人は、不思議とその人物の背中にどこか懐かしさを感じていた。


 気になって、カナタとコナタの二人は、木の下にいる人物のところまでゆっくりと歩き近づいていく。


 ある程度近づいたところで、木の下にいる人物の顔が、はっきりと見えた。カナタとコナタの二人は、その人物の顔を見た瞬間、思わず足を止める。


「嘘だろ……こんなことって」


「お兄ちゃん、どうしてお父さんがあそこに立っているの」


 木の下に立っている人物の正体。


 それは、二人がよく知る父親セナだった。


 父親は、すでに子供を助けようとして交通事故で亡くなっている。生きて出会えるはずがない。二人は、父親の姿を目の前にして戸惑いを隠せなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る