欠陥令嬢は次期公爵に溺愛される。

司馬波 風太郎

短編本文

 幼い頃、私は将来を嘱望された人間だった。このノーウェンディア王国で絶対とされる魔法の才能が飛び抜けていたからだ。両親ーー特に母親は私が才能に溢れていたのを非常に喜んだ。

 しかしすぐに問題が発生する。私の魔力量が多すぎたせいで魔法の制御がうまくいかないことが増えてきたのだ。年齢を重ねるほどそれはひどくなり、ついには魔法を使うだけで気分が悪くなってしまう有様だった。

 そんな私に対する家族の期待は次第に冷めていった。特に母親は期待をかけていた分酷かった。私をことあるごとに罵るようになり、冷たい目を向けるようになっった。

 私は必死に期待に応えようと魔法の練習を毎日欠かさずしていた。しかし一行に制御は出来ず、ますます周りの期待は離れていく。そして決定的な日が訪れた。


「愚かな娘ね! これじゃ使いものにならないじゃない!」


 母親の耳障りな甲高い声が響く。今まで直接的な罵倒はなかった母親だがこの日、私が反抗をしたことをきっかけに怒り狂った。


「誰に向かって口を聞いているの! 魔力を持って生まれたのに魔法使えばすぐ体を駄目にするあなたのような人間が私に口答えをするんじゃないよ」


 母の私への敵意溢れた言葉を聞いて私の中でどす黒い感情が芽生えていく。

 ああ、うるさい、うるさい、うるさい! 私がそんなに魔法が使えないのが嫌か!

 頭が割れそうなくらい痛い。それでもあのうるさい母親の口は閉じさせないと。頭痛の元だから。この人だって私のことを一人の人間として扱ってないんだから。


 だから、こらしめてもいいよね?


「! ちょっと! やめなさい! なにをするの! いやあああああ!」


 ああ、うるさい声がやっと聞こえなくなったーー。



「!!」


 嫌な夢を見て私ーーユリアナはベッドから飛び起きる。


「……またあの時を見るなんて」


 寝間着は汗を吸ってぐっしょりと湿っていた。少し気分が悪く、寝起きとしては最悪だ。


「お嬢様、失礼します」


 部屋の扉をノックして一人の侍女が入室してくる。私の侍女のフェイだ、小さな頃から私の世話をしてくれていて信用できる人間の一人だ。


「ああ、フェイ。おはよう」

「!? どうされたのですか!? そんな青ざめた顔をされて!!」


 私の様子を見たフェイはこちらに駆け寄ってくる。


「大丈夫よ。またあの時の夢を見ただけだから」

「あの時って……お嬢様が魔法を暴走させて母上を傷つけた時のことですか?」

「ん……そうよ」

 

 フェイの言葉に私は頷き、自嘲気味に笑う。


「まだあの時のことを思いだしてこんなふうになるなんて情けないわ」


 あの時ーー10歳の時、母に酷い罵りを受けたことで魔法を暴発させ、傷つけた時のことは私の心に深い傷を残した。以来私は屋敷の別邸に隔離されるような形で生活をしている。疫病神は関わってくるなということだ、こちらとしても気は楽だけど。

 周囲からは侯爵家の欠陥令嬢と呼ばれる始末だし、もう少し成長したら侯爵家を追い出されるかもしれない。

 フェイは私の言葉を聞いて冷たい表情になる。


「あの一件はお嬢様の母上が悪いのです。いいえ、母上と呼ぶ必要もありません、ただのクズです。自分の子供を道具のようにしか扱わないのですから」


 フェイの言葉に私は苦笑し、宥めるように声をかける。


「ありがとう、フェイ。私のために怒ってくれて。でも今の言葉は駄目よ。あなたのこの家での立場が危うくなってしまうわ」

「お嬢様……」


 私のことをいうことを理解はしていても納得はしていないようだ。家族には恵まれなかったけどこんな理解のある侍女が側にいてくれるのはとても幸運なことだろう。

 とはいえあんな夢も見たことだし、今日は気分転換がしたくなった、よし。


「さてっと……よし久しぶりに王都に出て買い物でもしましょうか。あなたの私服とかも私が見てあげるわ」

「お、お嬢様自ら私の服を……ああ! 私は幸せ者でございます!」


 私の提案にフェイは喜ぶ。この子だけは幼い頃から変わらず私の側に居てくれたのだ。多くの人間が私を見限ったりした中で彼女の変わらない態度が本当に有り難い。


「ふふ、そんなにはしゃがないの。これぐらいのことはいくらでもしてあげるわ

。それじゃ出かける用意をしてくれる?」

「かしこまりました!」


 そんな可愛い侍女の様子を微笑ましく思いながら私は出かける支度をするのだった。



「ここに来るのも久しぶりね」


 私は宣言通り、フェイを連れて王都にある繁華街に来ていた。ここには上流階級向けの服屋や宝石店が何件も立ち並んでいる。

 ついて来ているフェイのほうを見ると妙にそわそわして落ち着きがない様子だった。


「どうしたの? そんなにそわそわして?」

「少し緊張していて」


 フェイが少し縮こまった様子っで言う。私は思わず苦笑してしまった。


「ここには何度も来ているでしょう。そんなに緊張することではないじゃない」

「いえ、そのお嬢様と一緒に買い物をして自分のものを選んでもらうというのが……」

「それだって何回もしているでしょ。なんでいつも緊張するのよ」

「……するものはするのです!」


 私のからかいまじりの言葉にフェイは拗ねてしまった。妙に生真面目な性格なせいか素直に喜ぶということができない子なのだ。


「はいはい、拗ねないの。それじゃいきましょう。今日はあなたに似合う服をばっちり選んであげる」

「……よろしくお願いします」



 そこからは二人で気の赴くままにお店を見て回った。フェイは見た目は可愛い少女なので私のほうも張り切ってしまい、おおいに楽しんだ。フェイのほうは完全に私の着せ替え人形と化していて、普段はこういうことをしないためか服の試着時は恥ずかしそうにしていた。そんな彼女の様子を私は楽しく見守っていた。


「うう……エリシア様は意地悪です」

「あら? 私の性格が悪いのはあなたも知っているでしょう?」


 彼女の反応が可愛くて私はクスクス笑ってしまう。しかも今の彼女には買った服を着させていた。

 普段の侍女服は彼女の性格や服の落ち着いた雰囲気で大人びて見えるのだが、今着ているのは流行りの可愛い感じのものなので年相応の少女に見える。

 私としてはフェイのこういう姿も見られてとても嬉しい。


「や、やっぱりこういう可愛いらしい服は私には似合わないのでは」

「なに言ってるのとても似合ってるわよ。今日の買い物の時はその服を着ていなさい。これは命令」

「ええ……」

「さて次のお店にでも行きましょうか」


 戸惑うフェイを引き連れて私は次のお店へ向かう。しばらく二人で歩いていると近くで悲鳴が聞こえてきた。


「なに?」

「ま、魔物だ、魔物が出たぞ!」


 悲鳴が聞こえたほうから来た人が叫んでいる。


(魔物!? こんな街中で? 衛兵はなにをしていたの?)


 街には警備として通常衛兵が配備されているのに、魔物の侵入を許すなんて……。

「お嬢様、ここから早く待避を」


 フェイが緊張した面持ちで促す。いつもの彼女だ。


「そうね、早くここから……」

「きゃあ!」


 悲鳴をしたほうを見ると女性が一人転んでこけているのが見えた。そしてそれを狙う魔物が一体。


(まずい!!)


 咄嗟に私は魔法を発動。炎を生み出して魔物を焼き払う。魔物はそれで絶命した。


「うっ……」


 ああ、本当にこの体質には困ったものだ。すぐにこんなふうになるなんて情けない。


「お嬢様! なんて無茶を! 魔法を使われればこうなることは分かっていたでしょうに!」

「だ、大丈夫よ」


 フェイが慌てた様子で私に駆け寄ってくる。私はそれを制止し、先程助けた女性がどうなったか確認する。その場にいない、どうやら無事に逃げ出したらしい。

 周囲を確認するとまた魔物がこちらに向かってきていた。数が少し多い。


「フェイ、今からあの群れを焼き払うから後はお願いね」

「! また無茶を……」


 フェイの唇に私は人差し指を当てて塞ぐ。


「これは命令。あなたを信頼して任せます。」

「……本当にいつもいつも自分のことは省みずに……あなたがそこまで無茶をせずとも……」

「まあそうだね。でもこれは私が単純に人が死ぬのを見るのが嫌でやってるだけだからさ。責任感からとかじゃないよ」


 そう言って私は再び魔法を行使、今度は群れ全体を焼き払うように炎を発生させる。魔物達は次々に倒れていった。


(とりあえずは片づいたかな……)


 再度周りを確認、もう魔物はいないらしい。安堵とともに猛烈な頭痛と吐き気が襲ってきた。


「っ……!!」


 耐えられず私はその場に崩れ落ちる。フェイがそんな私を支え、その場から連れていこうとするのを感じながら私は意識を失った。 



「今のは……」


 ユリアナが魔物を撃退したのを一人の青年が見ていた。年はユリアナとそう変わらない。黒髪に切れ長の鋭い目を持つ美男子だ。


(あの圧倒的な魔力、何者だ?)


「どうかされましたか?」


 お付きの執事が尋ねてくる。青年はニヤリと笑うと


「いやなに。俺が探していたものが見つかったかもしれんと思ってな」


 満足そうな顔をしてユリアナを支えて現場を離れていくフェイを見ていた。


 

 あの一件の後、私は何日か寝込んでしまった。フェイにはこうなることが分かっていて無茶をしたことをこっぴどく叱られてしまった。

 

「はあ、柄にもなく頑張っちゃったせいで大変な目にあったわ」


 フェイが入れた紅茶を飲みながらぼやく。


「その自覚があるなら次から無茶をするのはやめてください」


 そんな私のぼやきを聞いたフェイが睨みつけながら私を窘める。この前の行動はどうやら彼女の不況を買ってしまったらしい。


「もう。私も反省してるってば。その怒った態度をやめて頂戴」

「そう言って危ないことを何度も繰り返されるのはどこのどなたですかね? 本当に妙なところがお人好しなんですから」


 棘のある言葉で私を糾弾するフェイ。私のところまで近づいてきて手を取って私を見つめる。


「……本当にもうこの前のようなことはやめてください。少しは自分の身をいたわることを覚えて頂きたい」

「……うん、分かったわ」


 真剣に訴えかけてくるフェイに私は負けて謝罪を口にする。


「分かってくださればいいんですが……」


 なおも私を信頼していない様子のフェイがジト目で睨んでくる。


「も、もういいでしょ。はい、あなたもこれあげるからこれ以上追求はなしで」


 いい加減にして欲しかったのでフェイの口にクッキーを突っ込んで黙らせる。クッキーを口にしたフェイはもごもごと口を動かしてクッキーを飲み込んだ。飲み込んだ後、おいしいと呟いていたのは可愛い。


「ああ、そういえばお嬢様に伝えておきたいことがありました」

「ん? なに?」

「フェルナンド公爵家のダリウス様からお嬢様に会いたいと申し出がありまして……」


 フェイの言葉に私は思わず飲んでいた紅茶を吹き出してしまいそうになる。


「フェルナンドってあのフェルナンド?」

「はい。ノーウェンディア王国最大の公爵家の一つであるフェルナンド家です」


 フェイが言うようにフェルナンド家と言えばの王国で最も力を持つ公爵家の一つだ。元々王家の血筋の家系のため、この国では絶大な発言力を持つ。


「しかもダリウス様ってフェルナンド家の跡取りよね。そんな方がどうして私に……」

「分かりません。お嬢様が寝込んでいた時に申し出があり、体調が復調したら面会をしたいと言われていて」


 対応したフェイも困惑したようだ。それもそうだろう。フェルナンド家のダリウス様と言えば、魔法の才にも優れ、次期当主としての技量もあると噂されているとんでもなく優秀な方なのだ。

 そんな将来有望な方がなぜ私のような人間に会いに来るのか。貴族社会とも縁が切れているような私になんの用があるか分からないし、世間的に避けられている私と会ってもなんのメリットもないと思うんだけど。

 かといって断るのも角が立つし……。

 

「……私になぜ会いたいのかは分からないけど断るのはよくないわね。フェイ、今から手紙でやりとりをするから連絡をお願い出来る?」

「はい、分かりました」



 フェイに頼んでダリウス様とお会い出来るように日程を調整し、とうとうその日がやってきた。

 フェルナンド家について屋敷の執事らしき人が私とフェイを案内していく。やがて大きな扉のある部屋へと案内された。


「ダリウス様、ユリアナ様をお連れしました」

「ご苦労入ってくれ」


 中から聞こえた声に従い、執事は私を中へと通す。中の部屋は綺麗な調度品が置かれているがどれも派手ではなく調和を保っている。部屋の中の机で一人の青年が座ってこちらを見ていた。


「ユリアナ嬢、こちらにわざわざ来て頂いて感謝する」

「いいえ、こちらこそダリウス様にお呼び頂けて光栄ですわ。まさかこのように会いたいとおっしゃられると思っていませんでしたので」


 挨拶も早々に私は一番気になっていたことを尋ねる。


「それで……ひとつ質問をしてよろしいでしょうか?」

「ああ、大丈夫だ」

「それでは。……今回私を呼び出した理由をお聞きしたいのです。もうご存じかと思いますが……」

「ああ、もちろん君の置かれた状況については把握している。こちらで調査もしたしな」

「……ではなおのこと私を呼ばれた理由が分かりません」


 私が周りから疎まれる存在と知ってなお、呼び出すなんて一体なにを考えてるんだこの御方は。


「では単刀直入に伝えよう。ーー私の婚約者になって欲しい」


 ーーはい? いまこの方なんておっしゃいました?


「え? 私を……ダリウス様の婚約者に!?」

「そうだ」


 意味が分からない! なんでそんなことになるの! そもそも私とあなたは面識すらないでしょう!


「もちろんこちらの都合で婚約者となるのだから相応のメリットは与えるつもりだ」


 なおも淡々と説明を続けるダリウス様に私は慌てて抗議する。


「ちょ、ちょっと待ってください! なぜですか!? 私を婚約者にしたいだなんてなにを考えられているのです! 私のことを調べられたなら私が周囲からなんと呼ばれているかご存じでしょう!」

「もちろん知っている。侯爵家の欠陥令嬢だろう」

「ならなぜ!! あなたの評判が下がるだけでしょう!!」


 状況に混乱したせいで私は思わず怒鳴るような口調になってしまう。しかしダリウス様は動じない、冷静に私の質問に答えた。


「君のその莫大な魔力が必要なんだ」

「魔力? 私の?」

「我が家が王国北の守りを任されているのは知っているな」

「はい、それについては」


 フェルナンド家は長年人間と敵対している王国北方の魔族に対しての守りを任されている。私達がこの前遭遇した魔物は魔族が生物を改造した姿なのだ。


「魔族に対して我が家は代々結界を張って侵入を防いできた。この結界は定期的に張り直す必要があるのだが……その結界の張り直しは代々当主を引き継ぐ男子が爵位を引き継いだ時にその妻と行う。俺は次期にこの家を継がなければならない。そのために強力な魔力を持ったものを妻に迎えたいというわけだ」

「……理由は分かりました。しかしそれなら他の女性でもよかったのではないですか?」

「駄目だった。いずれも俺が求めている基準に満たなかった。どうしようかと考えていたところ、この前の騒動で君を見たのさ」

「あ……」


 街に出た時のあの魔物の一件を見られていたのか!


「それで確信した。君には俺の求めている魔力がある。だから婚約者になって欲しいと言ったのだ。もちろん結婚できるのは16歳だから今はその約束をするという形にはなるがね」


 淡々と話をするダグラス様。向こうのペースに乗せられたままなのも嫌なので私は質問を続ける。


「しかしあなたのおっしゃったことは無理があります。私はーー多すぎる魔力のせいで魔法をコントロール出来ません。いくら魔力量が多いからといってこれでは役に立たないのでは?」

「ああ、それは心配ない。その点は俺がどうにか出来るからだ。そしてこれが俺から提供できる君へのメリットの一つでもある」


 私の魔力の問題をどうにか出来る? 本当か?


「……あなたが私のことをどうにか出来ると?」

「そうだな。体感してもらったほうが早いか」


 ダグラス様はそういうと私に歩みよってくる。そうして私の後ろに立たれ、肩に手を置かれた。


「!?」

「よし、ここで魔法を発動してみろ」

「え?」

「いいからやってみるんだ」


 有無を言わせぬ強い口調。少し苛立ってしまうがここで揉めても面倒くさいため、私はおとなしく魔法を発動させる。


(……? あれ、いつも起こる頭痛が起きない)


 私が魔法を行使するといつも発生する頭痛や吐き気の体調不良がまったく起きない。こんなことは始めてだ。


「これで先程の言葉を信頼してもらえたか?」


 こうなることが分かっていたのかダリウス様が確認するように尋ねてくる。


「こ、これは一体どういうことなのですか?」

「俺は少々特異な体質でな。人の魔法に介入してコントロールすることが出来るんだ。なぜかは分かっていないがな」


 そういって私の肩から手を離し、少し私から距離をとる。


「君はずっと悩んでいたことから解放され、俺は役目を果たすために必要なものを手に入れる。お互いにメリットがあると思うが」

「……私の両親の説得などはどうすると?」

「もちろん俺がやる。当たり前だろう、こちらから申し入れるのだから。また君にこちらに来てもらった時には衣食住で必要なものをすべて提供し、今君がされているような別邸で隔離するということもない、生活は自由にしてもらっていい」

「……」


 私は提示された条件に黙り込んでしまう。私自身をずっと悩ませていた魔法の問題がダリウス様についていけば解決する。それに別邸に隔離されているような生活から解放されるのも魅力的だ。

 少しの間私は目を閉じて考え込む。しばらくして考えがまとまるとダリウス様を見て自分の考えを伝えた。


「……お願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか? その返答次第でダリウス様の申し出を受けるかどうかを決めたいと思います」

「なんだ、言ってみてくれ」

「ここにいるフェイも私と一緒にフェルナンド家に連れていきたいのです。彼女は幼い時から私に尽くしてくれました。どうか一緒に連れて行くご許可を頂きたい」

「分かった。君が俺の申し出を受けてくれるなら彼女も責任を持ってこちらで面倒を見ることを約束する」

「もう一つは私の今後の行動に実家からの干渉を受けないように取り計らって頂きたい。この機会を利用して実家との縁を完全に切ることに強力して頂きたいのです」

「それも了承した。君の受けた仕打ちを考えれば当然な願いだろうな」


 ダリウス様は私の提示した条件をあっさり飲んでしまった。


「案外あっさり頷かれるのですね」

「いやなにその程度のことなら俺にとって造作もないことだからな」


 うわ……自信満々で嫌みな人間だあ……。でも公爵家なら出来てしまうんだろうな。


「それではこれからよろしく、ユリアナ」


 ダリウス様は不敵に笑いながら私に告げる。

 こうして私とダリウス様はお互いの利害の一致から婚約者となったのである。

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