攻撃
「あの、ご主人様」
「どうしたよ」
ブレイドが車を止めた場所で、リベリアが困惑顔になった。
「なぜ、こんなことを」
「決まってるさ、乗り込むんだよ」
車を止めた場所は豪邸のすぐそばだった。大会が行われ、トーナメント戦のあるイルネスウォーから少し離れた、ラウンドロッジと呼ばれる地域だ。
ここは比較的安全で商業で発展している街だ。カジノやゲームセンター等の娯楽施設から、ショッピングモール、多種多様の専門店などが毎日収入の額を争っている。騙しの品が当たり前のように置かれ、贋作の売り物が本物として売られていたりするのだが品質だけは良い。何せ騙されたと気付く人間が少ないからだ。
街の端のほうに行けばひと目につかないように、しっかり奴隷や娼婦、模造銃、麻薬などを取り扱うような店もある。
ここで生活していれば大抵のものは手に入るだろう。もちろん「金さえあれば」が大前提である。
その大抵のものは手に入るであろうラウンドロッジの一部に豪邸が立っていた。
庭付き、噴水も見える。防犯カメラあり。広さからしてプールなどもありそうだ。
適当に見つけて車を置いた駐車場で、ブレイドは見事なまでの大豪邸に感嘆の声を上げる。
「おいリベリア、あそこまで贅沢な暮らしの出来そうな豪邸はそうそう見れねえぞ」
「そう、ですね」
「あそこで暮らしてるシスルって案外幸せじゃね」
豪邸は、シスルを飼っている主人の家か別荘だ。ブレイドが勝手にシスルの乗った車をストーキングして辿り着いた場所であるから、どちらかはまだわからない。
「豪邸で暮らすことが幸せなら、ご主人様もあれくらいのもの建ててもらえばいいじゃないですか」
「イヤだね。あんなブクブク太ったような建物を家にしたくねえ。お前が住みたいなら別荘みたいなもんで建てさせるが」
「結構です。あのご主人様の家が落ち着きます」
「そうかい。ところでよ、ローレルかデリーがシスルが闘うことになったわけだが」
「はい」
「余計なことが起こらなけりゃ、どっちも難なくシスルを倒せる。それじゃあ、お前の願いは成就されないわけだ」
「どうして、ですか」
「シスルが弱すぎるからだ。いや、弱いんじゃねえ。あいつの使ってる技が、元々相手をぶちのめすために教えられた技じゃねえんだよ」
「格闘技ではないのですか?」
「あんなもんダンスだよダンス。相手の急所を叩けるようにはなってるが、昔の名残りでそういう形をとってるダンスだ」
「昔の名残りというのは」
「昔は人を殺すための技だったってことよ。それが必要なくなったから、路線変更してダンスに転職した元格闘技」
「格闘技とどう違うのです」
「お前は昔は商品だっただろ?」
「はい」
「今は?」
ブレイドの問いかけに、リベリアは首を振りながら答えた。
「ご主人様のものです」
「商品だったころと俺のものになっている今と、お前は変わらないでいるのか」
「いえ……ご主人様のおかげで私は、あのときのような虚しい気分はしなくなりました」
「そういうことだ。人の在り方が変わるみてえに、格闘技の在り方も変わってくもんさ。シスルの場合は格闘技からの派生で出来たダンスを教わっただけだ。闘える技じゃねえ」
シスルは自分の意思で闘っていない。ゆえに殺気がない。
殺す気で殺す人間ではない。結果的に相手が死んでしまう、の方が正しいだろう。
主人の望むように闘わなければならない。どこまでも闘わなければ。
それを続けて、結果的に相手が死んでしまう。
殺気のない人間はもう一人知っている、ローレルだ。だが、殺気の代わりに、今まで感じたことのない熱いナニカがブレイドの闘志に火をつけさせてくれる。
ローレルの持つ殺気ではないものの正体はブレイドにはわからないが、シスルにはブレイドの闘志に火をつけさせるようなものがなかった。
味気なさ過ぎる。
恐らくローレルも同じようなモノを感じるだろう。闘いで重要なモノの欠けているシスルに、ローレルは倒せない。
シスルには今のままの強さでは困るのだ。
――鎖を引きちぎるのは簡単だ。力でちぎれるようになるまで強くなればいい。
いつかの言葉を思い出す。だが、それは独りのときだ。弱い者と一緒に繋がれていれば、引きちぎっても弱き者を殺すことになる。
シスルは独りではない。
ゆえに鎖を引きちぎるのはシスルではなく、別の人間だ。
ただ助けてもらえるなんて都合のいい話はない。だから暴れて自由になるべく足掻くぐらいはできなければ。
「ちょいとひと暴れしてくるが、ついてくるかリベリア」
車の扉を開けて、外から中にいるリベリアに話しかける。
「私がいたら、邪魔になりますよね」
「シスルと会いたくないか?」
「お話はしたいですけど」
「じゃ、来いよ。お前ひとりぐらいどうってことないさ」
自分は弱い者と一緒に繋がれても、問題ない。大抵の場合、弱き者が殺されても気にするようなことではないし、弱き者を殺させないぐらい強い。
リベリアを車から出し、ドアと鍵を閉める。
駐車場から豪邸へ向かって歩く。そして、車二台は余裕で通れるであろう広さの門に行く手を阻まれた。
門は閉じられている。
「どうするんですか?」
「決まってんだろ」
足を上げる。
「壊すんだよ」
次の瞬間、
無論、ブレイドが蹴り壊したのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます