キング

 そして数日にわたって三回戦、四回戦と闘いは続き、ついにローレルは大会で優勝した。一番の敵はマスターであり、その後は苦労することがなかった。

 大会での優勝賞金を受け取り、ローレルは玄関にある長イスに座っていた。


「失礼、カレジ・ローレル」


 声をかけられ、ローレルは顔をあげる。

 そこにはサングラスをかけたスーツ姿の男がいた。黒い肌をしていて、やや小柄だ。

 男から名刺らしきものを渡され、思わず受け取ってしまう。

 なにかの管理をしている人しているらしかった。ローレルは職業に詳しいわけではないし、名刺を読んだだけではわからない。せいぜい名前が「ボブ」ということと、ハンズに関わりのある管理職であるということだけだ。


「いいファイトだった。動きも速い。よくあそこまで技と体を磨き上げたものだ」

「は、はぁ」

「ロイヤー・ハーメルンとの闘いをかけたトーナメントに参加できるようになったわけだが、その前に少々息抜きをしないか」

「息抜き?」


 ボブは頷く。


「名刺の裏側にチケットがある。パーティーの参加チケットだ」

「パーティって……」

「食事も一級品が揃うが、君にとっての楽しみになりうるのはキングのロイヤー・ハーメルン、次期候補ガード・デリー、元キングパーガトリ・ブレイド。そして大会を勝ち残った人間に会える可能性があることかな」


 機械のような無機質な声は耳にはっきり残った。

 パーティーに参加すればハーメルンに会えるかもしれない。なら会ってみるのも悪くない、むしろローレルにとっては絶好の機会ともいえるだろう。かつて父を倒してみせた男と話ができるかもしれない。


 ……ん? 今聞き捨てならない言葉を聞いたような。


「元、キング?」


 ロイヤー・ハーメルンがキングだというのは聞いた、ガード・デリーの強さを考えれば次期候補というのも頷ける。

 パーガトリ・ブレイドも……次期候補ではないのか。元キングってなんだ。

 頭が混乱する。


「ブレイドが、元キング」

「知らないのか、世間では『腰抜け』と有名だが」

「腰抜け?」

「パーガトリ・ブレイド、前々代のキング。最年少にして最短のキングだった男だ。今では、二十代だろうな……やつに敗北はない。キングの座は自ら降りてイルネスウォーを去った」

「だから、腰抜けか」

「あぁ、腰抜けブレイドだ。だが、やつと関わりを持ったならばたちまちその評価は変わることだろう。やつは敗北を恐れてキングをやめたのではない、あまりに周りが弱すぎるために退屈だった。ゆえにやめたのだ」


 失礼、少々話が過ぎた……サングラスを指で押し上げボブは続けた。機械のような無機質な声は変わらない。熱くなって話してしまったわけではなく、ただ補足を加えただけのようだった。


「ともかく、パーティーに来てくれることを祈っている」


 ボブはローレルに背を向けて立ち去っていった。


 ブレイドが腰抜け?


 あり得ない。ボブの言うとおりだ。ブレイドは弱くなどない。強すぎて、いつも余裕の笑みを浮かべているブレイドが弱いはずがない。


 元キング。

 まさか身近に、ローレルが目標にする人物と同じ座についたことがある男がいるとは思ってもみなかった。しかし、納得できないわけじゃない。いつもふざけているブレイドだが戦闘に関してはローレルより上だ。


 キングと闘うためには元キングも倒さなければならない。

 ローレルは自分の行く道の厳しさを改めて実感した。


 ともあれ。


 三つある大会の一つ。

 ドヴァホールでの大会優勝者は、カレジ・ローレルに決定した。

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