酒場にて

 過激とでもいえる格好をした男や女が酒を飲みあい、笑い声を響かせる酒場「レイジ・フェロウ」。酒の強烈な匂いがブレイドの鼻をつき、脳を刺激する。


 酒場は円形のテーブルが不規則に置かれ、奥にはカウンター席があった。ブレイドはカウンター席を目指して歩いていく。

 頼りない足取りで寄ってくる男や女をあしらいながら、ブレイドはカウンター席の右端に座る。


「へい、マスター」


 ブレイドが手を上げる。するとカウンターを挟んで向こう側に一人の女性がやってきた。

 短い赤髪、整った顔立ち、猫のような瞳、ふっくらとした唇。黒スーツの胸元はぱっくりと開いており、大人の雅さがにじみ出ている。

 ガード・ジェーン、というのが彼女の名だった。


「あら、ブレイドじゃないかい。久しぶりだね。てっきりくたばってるのかと思ったよ」

「けっ! くたばるわきゃねえだろ。酒よこせ、酒! 美味けりゃなんでもいい」

「はいはい。つまみはいるかい」

「あったりめえよ」

「了解」


 そういってジェーンは酒とつまみを取りにいく。

 ブレイドは頬杖をつき、ため息を吐いた。

 酒場はたまに利用する。酒は家にもあるが、無性に騒ぎたくなったときはいつもここにきていた。

 周りがバカ騒ぎをしているから、自分が騒ごうがここは関係ない。別に、家で騒いでもいいのだが、リベリアを前にして騒ぐのは気が引けた。そんなことを思ってしまうのは、家はリベリアと過ごし、娯楽を楽しみながらのんびりする場所であって、騒ぐ場所ではないと勝手に区別してしまっているのかもしれない。


「ほいよ、酒とつまみ」


 ジェーンが戻ってきたらしく、カウンターテーブルには酒が置かれる。その後に、皿に盛られたビーフジャーキーが置かれた。

 ビーフジャーキーを一切れ取り、咥える。

 濃い塩の味が舌を乾かし、途端に酒を飲みたくなる。ブレイドはジョッキを掴んで、酒を飲む。

 熱が喉を通り過ぎ、胃に染み込んでいく。熱が通り過ぎた口内はさっぱりしていた。


「ぷはっ」

「どうだい」

「美味い。色が赤いのもいいな」

「あんたのウェイブみたいに、ね」

「そうだな……」


 ブレイドはジョッキを傾け、酒を胃袋へ注ぎ込んでいく。乱暴な飲み方だが、誰かにとやかくいわれる筋合いはない。

 空になったジョッキを掲げ、ブレイドは叫ぶ。


「もう一杯くれ」

「はいよ。いい飲みっぷりだ」


 さほど時間がかからず、追加の酒が出される。ブレイドは早速ジョッキを掴み酒を飲む。潤った喉を、ビーフジャーキーを食べて乾かし、また飲む。


「おかわり」


 三杯、四杯、五杯……と。連続で飲み干したブレイドは、六杯目を頼んで一息ついた。

 ビーフジャーキーを咥えながら、火照ってきた顔を仰ぐ。


「おい、他の客の相手しなくていいのかよ」

「いいんだよ。注文しょっちゅうしてくるやつらじゃないんだから」


 ブレイドは周りを見渡す。

 酔った勢いで騒いでいる男たち。泥酔して眠った者。体の火照りに任せて抱き合う男女。

 確かに、注文をしそうな者は少なかった。


「それに、あたしゃ店長だよ? せっせと愛想振りまくだけが仕事じゃないのさ。お得意様をもてなさなきゃね」


 ジェーンは頬杖をつく。テーブルに体をのせるようにしたため、胸の谷間が強調される。


「いいねえ。リベリアじゃそんなことできないね」

「これ以上はないけど」

「酒とつまみがありゃ十分だ」

「あんたはこれが一番だからねぇ、女なんて興味ないんでしょ」


 そういってジェーンは頬杖を付いていないほうの手で拳を作る。

 ブレイドは笑みを浮かべるだけだった。


「……っと、そうだ。聞きてえことがあるんだ」

「へえ、あんたが」

「ロイヤー・ハーメルンと話が出来る場所か、そいつと親しい人間を知ってるか」

「ロイヤー・ハーメルン? あんた、キングとやり合う気がかい。そりゃ面白そうだ」

「ちょいと違うが、情報を教えてくれりゃなんでもいい。金だって払ってやるからよ」

「冗談。あたしゃ情報屋じゃないんだよ」

「そりゃ、教えてくれねえってことか。それとも、金はいらねえってことか」

「両方さ。知りたいんだったら、そいつに聞きな」


 ジェーンがブレイドの後ろを指差す。

 途端、殺気を感じてブレイドの体が反応した。後ろに振り返った直後、視界に飛び込む拳。それをブレイドは右手で受け止める。


「久しぶりだな」


 耳に響く、低い声。

 ブレイドは笑みを浮かべる。悪魔のような笑みを。


「随分なごあいさつじゃねえか、デリー? つい暴れたくなっちまうだろ」


 デリー、そう呼ばれた男は拳を離した。

 スキンヘッドに顎鬚が特徴的な男だった。

 二メートルは軽く超えているであろう身長と、服の上からでもわかる極限まで鍛え上げられた肉体。

 背の高い、太っている、というわけではなく、巨体なのだ。その様は巨人である。

 デリーはブレイドの隣に腰掛けた。

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