ウェイブの性質
しばらく待っていると、テーブルの上に美味しそうな朝食が並んだ。特にスクランブルエッグは火の通し方が絶妙だったらしく、とろみのある状態で仕上がっている。
「凄いな、料理で稼げるんじゃないか」
「恐れ入ります」
丁重にお辞儀をするリベリアのそばで、ブレイドは黙ったまま食べ始める。
「カレジ様のお口に合えばよろしいのですが」
「大丈夫さ。見ているだけで食欲が湧いてくる」
ローレルは祈りを捧げてから、パンを持って食べる。
「リベリア。お前はまだ食わなくて良いのか」
「はい、ご主人様。私はもっと後で食べますので」
リベリアはローレルとは反対の、ブレイドの隣に座った。
「ほぉか」
ブレイドはパンの最後の一切れを頬張る。フォークを持ち、スクランブルエッグに手を出す。ふんわりとした卵にフォークが突き刺り、形が崩れる。
そんな姿を見て何か違和感を覚えたローレルは、人と一緒に食事をするのは久しぶりだったのに気付いた。懐かしいような気持ちに浸りながら、ローレルは半分ほどまで減ったパンを戻してから、紅茶を飲む。紅茶がバターの味をリセットしてくれる。これで味に飽きることなくパンを食べられる。紅茶のカップを戻し、ローレルは再びパンを頬張る。
「食べ辛そう、ですね」
こちらを覗きこみながら、リベリアが呟く。
「手間はかかるが、さほど不便ではないぞ」
「慣れれば平気だろうな」
「まあな」
ブレイドのほうへ目を向けると、いつのまにかブレイドは食事を済ませて紅茶をすすっていた。
「リベリア」
「なんでしょうか、ご主人様」
「ローレルにウェイブの説明をしてやれ。俺は外に出てる」
「かしこまりました」
「ローレル。お前はウェイブの説明を聞いたら外に出て来い……あ、着替え忘れんなよ。寝巻のままこられても困るからな」
「わかった」
ブレイドを紅茶を飲み干し、立ち上がった。皿を片付けてキッチンに向かって歩いていく。
「ごちそうさん。リベリアの料理は相変わらず美味いな」
「ありがとうございます」
ブレイドはキッチンで皿洗いを済ませてから、何やらペットボトルをいくつか取り出してきて、玄関へ歩いていく。扉の開閉する音が響き、ブレイドがいなくなった。
「……カレジ様、ウェイブのご説明ということですが」
ローレルが食事を終わらせたタイミングを見計らって、リベリアが話を始めた。
「あぁ、すまないが私はウェイブに関して無知なんだ。なるべくわかりやすく教えてくれ」
「かしこまりました。少々、長い話になりますが全てを理解する必要はありません。ウェイブとはどんなものか、軽く覚えておけば十分です」
一呼吸おき、リベリアは説明した。
「ウェイブというのは一時的に身体を大幅に強化する術のことです。ウェイブは扱う人によって色が異なります。なぜ色として視覚化されるのかは申し訳ありませんが割愛させていただきますが、よろしいでしょうか」
リベリアの問いに頷く。ローレルは学者でもなんでもない。細かいところまでを知る必要はなかった。
「どのようなウェイブの色であれ戦闘能力は生身と比べて飛躍的に上がるのは変わりません。身体能力の飛躍の上で、ある事柄に関して特化する能力によって色で分けられます」
リベリアは両手を広げる。
「レッド、ブルー、パープル、グリーン、ブラック、ホワイト……この六色が現在確認されているウェイブの色全てです」
そうして指を一本ずつ曲げていきながら色の説明をしてくれた。
「全てを理解する必要はありません。何かに特化したウェイブが何種類かある、という程度に覚えてください」
頷く。
六色。全て覚えきれる自信がないが、何度も聞けば覚えるだろう。
「そして、ウェイブの色が分けられる基準ですが、これはウェイブを扱う本人が何を求めているかに変わります」
「求めていたもの?」
「例えば、相手から逃げたいと強く願った場合は脚力と速さが特に強化されるグリーンウェイブが宿ります。逃げ足、という言葉があるように逃走には重要ですから。相手を打ちのめしたいと願った場合は、度合いによりますがレッドかブラックになります。より攻撃的であればブラックウェイブになります」
「他の色の特徴は?」
「ブルーウェイブは防御力ですね、頑強さのほうが正確でしょうか。ホワイトウェイブはブルーよりもさらに頑強さに強化が傾いています」
「その、どうして防御力が上がるんだ」
「骨格の強化だったり、皮膚の硬質化であったり、仕組みは様々です。ちなみにパープルウェイブはレッドとブルーの中間です」
「……つまり、パワータイプが二色、ディフェンスタイプが二色、あとはスピード、バランスってことか」
ローレルの問いに、リベリアは頷いた。
「そうなりますね」
身体能力強化と、求めた力の特化。それがウェイブの力というものらしかった。ただ、それだけでは説明のつかないものがある。
「強さはどう決まるんだ」
ブレイドはウェイブにも強度があると言っていた。求めているもので色が変わるのはわかった。ならばウェイブの強さは何で決まるのか、ローレルには気になることだった。
「それは、ここです」
リベリアは自分の胸に手を当てた。
「ウェイブは心の強さを体現させたようなものです。想いが、覚悟が強ければ強いほど、その力を増します」
「心の強さ、か」
「カレジ様なら、きっと強いウェイブを扱えるようになられると思います」
「なぜだ?」
「ご主人様がここに連れてきたお方だからです」
屈託のない笑顔で、リベリアは答えた。どうやら、リベリアにとってブレイドは信頼できる主人であるらしい。奴隷だからとって蔑まされたり、非道な扱いを受けていてはこうも信頼されないだろう。
「ありがとう」
「いえいえ。ご質問があればお答えしますが?」
「いや、今はないな」
「では、わからないことがありましたら、気軽にお聞きになってください」
リベリアは座ったまま、丁重にお辞儀をした。
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