食べちゃいけないチョコレート

花里 悠太

やみー

『被害者が食べたチョコレートからは致死量の数倍にも及ぶ毒物が検出されております。容疑者は私だけのものにしたかった、などと供述しており…』


「うわあ、闇が深いわねえ」


 あるマンションの一室。

ダイニングテーブルでは、夫婦と幼い子供が揃って食卓についている。

テレビからBGMがわりに流れてくるニュースを聞きながら妻がつぶやくと、夫が反応する。


「こわ。チョコに仕込まれたらわかんないんじゃないか?」

「恨みとかじゃなくて、好きの感情が行きすぎて、ってところがまた闇が深いわよね」

「病んでるよなあ」


 夫婦が話していると、子供は流れてくるテレビのニュースがつまらないのか不満気にテーブルを叩き出した。

その様子を見て妻は子供をなだめにかかる。


「ごめんね、ニュースつまらないよね。別のにするね」


 幼児英語教育用のDVDを取り出してニュースの代わりに流し出した。

それを見て子供は機嫌を直し、笑いながら画面を見出す。


「良かった、気に入ってくれたかしら」

「今のうちにコーヒーでも入れて休憩しますか」

「じゃあ、お茶請け持ってくるね」


 子供の気を一時的に逸らすことに成功したので、夫はインスタントコーヒーを淹れて自分と妻の前に置く。

妻は戸棚から一口サイズのチョコレートを持ってきて自分と夫の前に置いた。

そのチョコレートを見て、夫が少しビクついた。


「……ねえ、まさか私が毒をもるとでも思ってるわけ?」

「いや、そんなわけないだろ!」

「じゃあ、なんで動揺するのよ」

「いや、動揺なんかしてないし」


 夫婦が言い争うのが聞こえ、子供が画面から目を離して夫婦の方に目を向ける。

そこにチョコレートがあるのを確認すると、子供はチョコを指差しながら大きな声で喚き出した。


「やみー!やみー!」


 夫がそれを見て妻に確認する。


「闇って言ってるけど。本当に毒入れたりしてないよね?」

「入れてないわよ!」

「やみー!」


 子供が引き続き手を伸ばすのを見て、別のお菓子で懐柔しにいく妻。


「ごめんね、チョコはまだあげられないのよ。もうちょっと大きくなってからね。代わりにボーロあげるからね」

「やみー♪」


 ボーロを受け取ると、再び子供はニコニコと動画を見始めた。


 あの発言が何だったのか首を傾げる妻と、チョコの味をこっそりと教えたことがバレずに胸をなで下ろす夫。

ボーロを食べながら子供が見つめるdvdの中では、男の子が美味しそうにチョコを食べて英語で感想を述べていた。

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食べちゃいけないチョコレート 花里 悠太 @hanasato-yuta

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