『魔人蹂躙』
下着を脱ぎ、自らのスカートを捲くし上げる聖女の姿がある。
彼女は、人質となった女性たちを救う為に、自らの体を捧げる。
屈辱と恥辱を噛み締めながら、誰かの為にこの純潔を散らす覚悟であった。
魔人たちは、彼女の表情を見て笑みを浮かべていた。
聖女が自分らに股を開き媚びるのだ、これを喜々と思わず、なんと形容する。
雪月花に向けて手を伸ばし、彼女の体を凌辱しようとした最中。
空気が…一変する。
空気が変わったのだ、冷たい夜の、空が凍えたような空気から、一気に真夏へと放り出された様な感覚。
「なんだ、これは、何が起きている?」
魔人は狼狽し、空が明るく光る。
赤き太陽が間近に迫ったかの様な感覚。
聖女もまた空を見上げた。
其処には、黒い太陽が生まれていた。
空間が歪曲し、その中心から、何かが現れようとしている。
人影、輪郭を保ち、体が生まれる、生誕するが如く。
其処から登場したのは、一人の男性だった。
灰色の髪を靡かせる、上半身裸の男、空中へと落下していた男はすぐさま態勢を整えて地面に着地すると共に周囲を見回す。
「俺は…確か、死んだ、筈じゃ…」
何が起こっているのか理解出来ない。
だが、周囲を見回した時…まず、その視線に人が移った。
魔人が手を伸ばし、聖女の体を弄ぼうとした姿。
目を開き、トクサは地面を蹴ると共に魔人を蹴り飛ばす。
そして、聖女の方へと近寄り、その体を、魔人の代わりに抱いた。
強く、生き別れた家族を抱き締めるが如く。
トクサは涙を流していた。
「人間だ…俺と同じ人間…そうか、生きていたのか…あぁ、良かった、俺は孤独じゃなかったッ!」
同じ人間が生きていると言う感嘆。
彼女は自分を強く抱き締める青年に驚き、声が出ない。
けれど、なぜか安堵している自分が居た。肩を震わせて、彼女は涙を流す。
「同胞、あぁ、なんて、事だ」
魔人は嘆いた。
先ほど、トクサに蹴られた魔人が、壁に激突、体が半分潰れて絶命していた。
「なんだ、貴様は、聖女か?オスのくせに」
「どうでもいい、殺せ、このオスは、人質もだ、聖女もだ!!」
怒りに満ちた魔人たちが、突如として出現した闖入者に怒りを帯びる。
その言葉を聞き、トクサは聖女から離れると、殺意を滾らせて視線を魔人に向ける。
「怒っているのか?怒っているのはお前らだけじゃないぞ…俺も怒っているんだ」
威圧される魔人たち。
其処に立つ男の殺気、それと共に、自分たちよりも強い、戦場を駆けた男の姿に委縮する。
「俺は恥の多い人生だった。数少ない人類として、生き残る為に戦闘避け続けた」
歯を食い縛り、憤りを見せつける。
此処で、全ての恨みを晴らすつもりであるらしい。
「だが、もう遠慮はしない、俺が死んでも人類は生き続ける、だから、俺の命が此処で潰えても良いんだ…お前らを道連れにしてな…」
「来るな、このメスどもが、どうなってッ」
既に、魔人の声など聞こえていない。
「人類を嘗めるなよ魔人ども」
殺意と共に、トクサは肉体に植え付けられた魔人の力を解放する。
「装甲ォ!!」
背中の皮膚が破ける。
肉体を包み込む鋼の衣。
鋼の皮膚、それは甲冑の様な形状と化す。
顔面を覆う鉄の仮面は、隻眼となり赤々の眼光を放つ。
「ッ
指が、掌が、腕が、金属が生え、形成し、籠手と成す。
無造作な作り、豪華な装飾など無い。
ただ、その身は騎士の様に、鋼が全身を纏う。
「
叫ぶ。
命が潰される様な悲鳴。
怒りと恨みを乗せた極上の殺意。
その総べてを、体の鋼に乗す。
「…ッ、ま、まじッ」
聖女は最後まで言い切る事は無かった。
その姿は、魔人に似ている、否、聖女に似ている。
彼女達が造られた時、生まれた技術を、この人体が搭載している。
魔人の臓器は女性にしか適合しない。
女性の肉体を母胎に魔人を造る。
肉体を浸蝕し、遺伝子を犯し、強制的に子を産む為の母胎に変える。
その性質を利用し、人間としての理性を持つ女性に魔人の力を植え付けさせる。
聖女とは、機械によって魔人の臓器を制御し、人間でありながら魔人の力を持つ者を指す。
その技術は未だ発展途上、男性が適合する事は、現在から二百年も先の事。
だが、其処に立つのは紛れも無い人間、魔人の力を得た、人間だった。
魔人たちは人質を放つ。
その存在を理解した為だ。
トグサの装甲は魔人の肉体を覆ったもの。
その魔人から零れる臭いが、彼ら魔人の僅かな理性を奪った。
同じ魔人でありながら、言葉の通じぬ暴力。
トグサが纏うその魔人は、この地であれば、魔人の頂点に君臨する暴君。
人であろうと聖女であろうと、魔人であろうとも。
我の欲する儘に踏み潰される。
決して逆らってはならないと言う本能が肉体を凌駕した。
「殺す、ころすぞ!人質!ひとじ」
「ひと、じ…ひッ!」
人質など意味をなさない。
命乞いなど狂喜の糧。
命を抱く為に行える事など。
ただ、尽力を尽くして逃げ去るのみ。
「逃げ、逃げろッ!!」
魔人たちは踵を返す。
その一瞬の行動の後。
「て、めえら、の、我儘、振り撒いて、おいて…」
出遅れた魔人の頭部が潰れる。
地面を蹴り跳躍したトグサの足が魔人の頭部を強く踏みつけた。
「そ、のまま、尻尾ォ、振って逃げるなんざ、赦す筈、ねぇ、だ、ろォがァあ!!」
甲冑の隙間から放出される光。
それは、光熱であり、エネルギーの集合体でもある。
エネルギーを放出させて、爆発的な推進力を発揮したのだ。
「く、クソッ!殺して!!」
悪意の塊である魔人。
多くの魔人の中には人質を道ずれにしようと考えている者も居た。
だが無意味。
「届かねぇと、思ってやがんのかァ!!」
トクサの指先が赤く点る。
かと思えば、五指から細長い流星が迸る。
エネルギー弾。それを、魔人の首や頭部に狂い無く打ち込んでいく。
「おい、どうした、弱いじゃねえか…これで終わりか!?違うだろ、テメェらは…俺たち人類を三百年も苦しめて来ただろうが、弱いフリしてんじゃねえぞ!!」
いや違う。
逆である。
トクサは、遥か未来からやって来た人間。
その時代の魔人は、現在の魔人よりも遥かに強い存在だった。
当然、逃げる事しか出来なかった人間だが。
三百年分の技術が発達し、肉体を改造した改造人間が存在する。
最強種の魔人に逃げ回っていた人間は、比較的に性能が上昇し、過去の魔人を凌駕する実力を秘めていた。
エネルギー波を放つ。
魔人を皆殺しにする。
その際、人質は一切怪我を負う事も無く、死ぬ事も無かった。
魔人の屍の上で、トクサは勝利の凱旋を放つ。
「お、雄雄々々々ォォ!!!」
それが、彼にとっての、人類の勝利の叫びだった。
「ざまあ、みろ、ざまッあ…」
力を出し切ったのか、前のめりで倒れるトクサ。
その体を、抱き締めるのは、彼に救われた聖女だった。
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コンテストに向けた作品の第三作目です。
『復讐のレアンカルナシオン』
『もののけのもののふ』
『聖女再戦』
評価、フォロー等宜しくお願い致します。
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