■ 162 ■ 写真展を開こう Ⅲ






「というわけでこれとこれ、あとこの写真もねじ込んでくれる? ストーリーは任せるからさ」

「アーチェ、あんた慈悲も情けもない正真正銘の冷血動物だよ、ウィンティ様だってここまで無茶は言わないってのに!」

「あら、ならウィンティ様は貴方の才能を持て余しているのね。その才能、私が使い切って差し上げてよ? オーッホッホッホッホ!」


「凄いですね、アンティマスク伯爵令嬢……アレは真似しようと思っても出来ません」

「真似しようとは思わない方がいいわよ」


 ネイセアとシーラが何か言っているけど私は気にしないよ。使える物は使うんだよ。


「ああ、そうは言いつつもリトリーも少しパンク気味だし、貴方の夜のお友達ちょっと使えない?」


 シーラがオペラを観劇する際に同行して貰っているというゴーストライターへの協力を依頼すると、シーラの頬がひくりと引きつる。


「あんた、本当に限られたリソースを使い切ることにかけては天才的よね」

「そりゃ、使える者は何でも使わないとね」


 というわけでシーラ越しに一部写真展のストーリーメイキングを依頼したら、シーラ曰く快諾の返事が届いた翌々日には分厚い封筒で原稿が届いたらしい。


「……おかしいわね。とても二日で書ける分量じゃないわよ」

「……多分、寝る暇も惜しんで書いたんじゃないかしら」


 シーラと二人で原稿を改めれば、その熱意と偏愛ぶりに溜息が出てしまうのは許して欲しい。


「小説にするわけじゃないからこんなに使えないんだけど、そこんとこちゃんと説明したのよね?」

「したわよ、その上でこの分量ってわけ。使えないとこはばっさり切ってもいいってさ」


 中身を精査したけど相変わらずこの子、親しい男同士の魂を削る殺し合いが大好きみたいで、やっぱこのゴーストライター、私とリトリーのお仲間だよ。




 さて、私が手元に無いけど必要な写真は新しく撮ってくる、と言ったこともあって、どうやらリトリーは少しでも私に仕返しをしたがっているようであるね。


「えーと、リトリー様からの要望で上位貴族同士の戦いの写真が欲しいと」

「ホイホイ、フレイン、アイズ、お願いできる?」

「我が主がお望みとあらば」

「写真の題材になるのは少し恥ずかしいですが――はい、姉さん」


 というわけでフレインとアイズにちょっと模擬戦をやって貰うつもりだったのだが、この二人何故かガチバトルを始めやがる。

 地面ごと脚を凍らせる。凍らせた脚ごと焼いて逃れて辺り一面を火の海にする。

 吹雪を纏って炎に突撃、全力で剣を交差させれば後ろに飛び退いて火槍と氷柱が空中で喰らい合う。


「……ねぇケイル。あの二人、もしかしなくても互いを殺す気でやってない?」


 二人の戦いを腕組み師匠面で見守るつもりだったのだが、正直激突する二人の余波はとても腕組みして見られるレベルじゃない。というかケイルがいないと被弾する。


「そりゃ男なら女が見てる前で負けたくなんざねぇからな。お嬢ももう少し男心を汲んだ――いやいいわ、今のナシ。お嬢がそれやったら敵が増えるだけだし」

「なによ、私だって配慮ぐらいしてるわよ、失礼ね」

「そうじゃなくてこれ以上配慮しなくていいって話なんだがな」


 結局アイズとフレインは肩で息をしながら最後にはダブルノックアウトだったね。まぁいい写真は撮れたけどさ。


「えーと、リトリー様からの次の要望で、できれば騎士爵、闘神系加護のガチムチ勝負の写真が欲しいと」

「ホイホイ、メイ。お手紙書いてくれる」

「承知致しました」


 というわけでアルバート兄貴とレン・ブランドにお願いして模擬戦をやって貰ったのだが、この二人何故かガチバトルを始めやがる。流行ってんのかガチバトル。


「アンティマスク伯爵令嬢、私の出番はないのでしょうか?」


 いざという時の治療要員としてプレシアを伴っているせいでキール・クランツががっついてくるが、


「弓神は写真映えしないからね。残念だけど貴方の出番は作れないわ」

「さようで……ございますか…………」


 キール・クランツが肩を落としてしまったのは少しだけ可哀相だったけどね。

 まぁアルバート兄貴とレンのおかげでこっちも中々迫力あるいいシーンが撮れたし、私は満足だ。キールは知らん。


「えーと、リトリー様からの要望で――いえ、何でもありません」


 次なるリトリーの要望をコラーナが口にするのも憚られたらしいので、メモ書きをヒョイと奪い取ってみると、やはり。

 男同士の上半身裸で抱き合うシーンとか書いてやがる。調子に乗るなよリトリー。


「お姉様、クローディア、シーラと貴方で四方を囲んであの馬鹿を搾っといて」

「……畏まりました」


 まあ、そんなこんなであちこちに迷惑をかけつつ、同時に情熱の炎を撒き散らしながら写真展の準備はトントン拍子に進んでいって――


 この時の私は完全にリトリーを甘く見ていた。油断していたのだ。

 あの女が秘めたる最低最悪の悪意、というモノの邪悪さ、悪辣さ。岸部露伴のルーブル絵具より暗い、漆黒のどす黒さというものを――






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