■ 152 ■ ミスティ陣営の今空 Ⅱ
そんなわけで、シーラが駄目な昼の上演とかはリトリーか、新入りのプロウズリー伯爵令嬢コラーナに観劇と感想記事をお願いしている。
「記事を書くのって難しいのですね……」
私とリトリーに徹底的に表現を直されたコラーナが軽く落ち込んでるけど、そりゃあね。全ての貴族が見て不敬だ、と感じない文章ともなれば筆をサッと走らせて終わりでは済まないのだよ。
ダブル、トリプルチェックは当たり前、その上でシーラの記事よりあまり反響がなかったコラーナは無茶苦茶落ち込んでしまってるが、
「いきなり大喝采される記事が書けたら、先達である私たちの立場がないわ」
まぁ、シーラの言う通りこれに尽きるね。
あとせっかくなので感想を書きたい、見てもらいたいって生徒を募ったりもしてみたけど、これもかなり好評だった。皆感想とかをぶっちゃける場に飢えてたんだね。
前世のSNSみたいなもんだからそりゃあ受けるわな。好評だし希望者もガンガン増えているから結構なことだよ。
なおそれらの感想も私たちできちんと文章の監修してるから、下位貴族の感想も馬鹿にされたりはしない。ここら辺の努力は欠いちゃ駄目だからね。
そんなこともありお姉様の配下の仕事もダブルチェックは当たり前になっている。
……というかグルーミー侯爵令嬢クローディアがね。こいつ基本優秀だからって任せとくと、とんでもないポカミスやらかすと分かったのでね……
前に茶会に飾る鉢植えを銀貨三十枚分じゃなくて金貨三十枚分手配しちゃったと知ったときには大いに焦ったわよ。ギリギリでキャンセル効いたけど。
談話室が植木鉢に埋め尽くされて、人の座るスペースがなくなる茶会は茶会と呼べるのだろうね?
ドジっ子はフィクションなら可愛いが、現実では致命的だ。
そんなこともあり、彼女に任せた仕事は私かシーラが最後だけ全チェックをしてるんだけど、
「シーラ様とアーチェ様に確認頂けるのは心強いですわ。姉はそういう形で人に頼れないので、オウラン陣営では仕事を任されにくいとボヤいてますもの」
とまあ普通に感謝されたの、まあわりといい子だわ。ここ、彼女は怒ってもおかしくないところだもの。
貴族社会、年齢より立場の方が支配的だからね。なので本来ならミスティ陣営、ナンバー2は既にこのクローディア・グルーミーになってる筈なのだから。
ただ、
「お父様の方針として、こちらの陣営で生き残るように言われておりますので。かき回す気はございませんわ。何卒ロディと愛称にて信頼をお寄せあらんことを」
ここまで開けっ広げにぶっちゃけるの、中々豪胆というか、何も考えてないというか……まあ、それが本心とは限らないけどね。
ひとまずクローディアは兵隊に徹するつもり、というならありがたい話だよ。
最終チェックが絶対に必要で仕事を完全に丸投げできないのは難点だけど、侯爵令嬢だから知識も教養も作法も申し分ないしね。大ポカ以外はそつなく動ける侯爵令嬢、というだけで、頭数の少ないミスティ陣営にとってはとてもありがたい戦力だ。
クローディアやコラーナに劣らず、最後の一人もかなり頑張ってくれている。
お茶受けとのコラボドレス第二弾はお姉様と、あとネイセア・オーネイト子爵令嬢にお任せだ。元々私とシーラは戦力外だったしね。
とりあえず私たちのチョコケーキコラボドレスにはシェプリーから陣営の色がない、と手厳しい指摘が入った(うっせーカカオは舶来品だエミネンシア色だろうがよ)ので、
「次のドレスは私のに近いデザインで行きましょう。お茶受けは
「アンティマスク伯爵令嬢は本当に我々の文化にお詳しいですね」
と羊羹を説明してくれてこれで解決だ。やはりお姉様のお母様と魔王国一闘士民スターベルさんの
「色違いの
小豆一色ではなく、無色や色違いの寒天層を何層も重ねる、という案はお針子のお姉さんにも衝撃を与えたようで、かなりやる気になってくれたのは有り難いね。
無論、デザインに凝れば凝るほどエミネンシア家のパティシエは苦労するだろうが――エミネンシア家に輿入れ予定の私とお姉様でお願いすれば嫌とは言わぬだろうよ。
と、お題だけ出せばあとはお姉様が何とかしてくれるはずさ。
羊羹は油使ってないということもあり、ニキビが気になるお年頃の女の子や、油が胃にもたれるようになってきた老婦人でも楽しめる甘味だ。
カロリーは……うん、砂糖ドバドバ、前世では非常食や軍隊御用達としても持て囃された位だからヤバいがな。そこは私が気にすることじゃないよ。
ハッハァ見てろよシェプリー、ブランダよぅ。まだまだ学園の流行はお前たちには渡さんぜ。
悪いがお姉様の在学中は全ての話題をミスティ陣営で席巻してやる。お姉様時代は楽しかったって記憶を徹底的に学生に刻み込んでやるわ。
とまあそんなわけで最初に仕上がってきたドレスが、
「なんで私の?」
私のほぼ着物っていうドレス、しかも私に贈られるのおかしくない?
「まずはお母様の故郷の伝統から、あまり形を変えない方が作りやすいかなって」
いや、先ずは形を変えないとこから入門、ってのは確かに間違いないが……いやお姉様とネイセアのを優先しようよ。
と、思ったのだが、
「まあまあ、それが子供たちの間で流行になっている服飾ね!?」
観劇関連での大人のお茶会で私のドレスと、あと
分かるよ。脂肪分がほぼ無いからね羊羹。こういうお菓子、あんまりアルヴィオス王国には無いからね。
華やかな
主にフリルたっぷりで重たいドレスを着るのが体力的にも容姿的にも厳しくなってきた熟年層に、すっきりした
「ダンスには不向きですけどね」
「ドレスを理由にダンスを断る理由にもなるわ」
なるほど、高齢になると激しいダンスなんざ最初から無理だもんな。
とまあ、奥様お婆様方に対するエミネンシア家の影響がここに来てかなり強くなってきていて……
おかしいぞ、私まだ嫁入りしてないんだが……完全にエミネンシア家の広告塔になってない? いや、私自身が妙齢のご婦人より年上のご婦人と話すほうが楽だからこうなってる面もあるけどさ……
「私なんかを着飾らせて楽しいですか?」
大人のお茶会から帰ってきてそうぶー垂れるも、
「普段お洒落しない子をおめかしするのは楽しいわよ?」
「至上の喜びにございます」
「眼福だとも。良く似合っている、とても美しいよアーチェ。雲上より舞い降りたる天女すら君を目にすれば嫉妬するに違いないとも」
上から順にお姉様、メイ、バナールである。ま、まあこの三人は楽しいかもしれんな、身内なわけだし……くっそー言い返しようもないぜ。
ただまあ、私の成功をベースにお姉様たちも自分のドレスと
自分が始めた流行の最先端は依然として自分であると、ガッツリアピールはできているようだ。結構結構。
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