■ 149 ■ 阿修羅すら凌駕するのは無理 Ⅲ
「お姉様が御自身の決断で失敗するのはよいことですが、唯一心配なのは外部からの暴力による破滅です。暴力は全てを解決しますからね。アリーとフィリーはグラム、ストラムの忠告は決して無視しないように。二人が危険を訴えたら何よりも安全確保を最優先で、いいわね」
「はい、アーチェ様」
「分かりました」
カクテルパーティ効果だろうか。端っこの席で一心不乱にクッキーを囓りスレイに苦い顔をされていた(侍従のくせに座って茶菓子食ってるからね)ストグラムがピクリと顔を上げる。
仮にも私やシーラは中位、お姉様は上位貴族だ。これが害されるとあらば貴族街も黙ってはいられないから、そこまで心配はない。
だけど下位貴族の、しかも長男ですらないアフィリーシアなら最悪やっちまっても問題ないからね。相手は最大貴族オウランだ。証拠さえなければ大概の不都合は闇へと葬ってしまえる社交界のラスボスだよ。
その上シアのことがバレたらその上を行く
「シアも可能な限り外ではアリーかフィリーどちらかと行動を共にするか、予め一人になるのが分かっているときは侍従をルナさんからアムに替えなさい。最終的に刺客が殺したいのは貴方なんだから。分かったわね?」
「うー、分かりました」
うん、ぜってー分かってねぇ面してるわ。知ってるよ。口ではどうこう言ってもこいつは絶対に目の前で傷ついている人を見捨てることはできないタイプだからね。
それができるならレリカリーで聖属性に目覚めてもそれをずっと隠してきたはずだ。田舎の庶民だってそれくらいの知恵は回るものね。
「いい? 仮にルナさんが傷ついたらその背後には怖い狼のお兄さんがいることを絶対に忘れないようにね。敵が夜にしか仕掛けてこないってワケじゃないんだから」
「そ、そうでした。いい人だけど元スラムのボスでしたねダートさん……」
そうだぞー、あいつお話し合いと称して、王都のスラムから出ていくのに反対な組織は全部叩き潰して自分の傘下にしたような男だぞ。
「人一人殺すのに必要な時は指折り五本も数える時間もいらないのよ。夜まで悠長に待てる事の方が少ないと思いなさい」
ひとまず釘は刺したけど、ルナさんもルナさんでグラムたちを叩きのめして少しだけ自信付けちゃったからなぁ。でもルナさんは月の出ている夜にしか獣化できないし、刺客が常に闇に紛れて出てくるわけじゃないし。
とはいえ危ないからってずっとアムをプレシアに付けてルナさんを冬の館勤務にするのは――多分納得してはくれないだろうね。なるべくプレシア自身を中級キュアポーション作成に充てて自宅に留めるぐらいが私には関の山か。
所詮私は外れ加護のモブだからな、できる事なんてたかが知れている。
高望みをしても仕方がないさ。ま、なるようにしかならんよ。
そんなこんなで二年生後期日程は夏休みから引き続き各個に行動である。
お姉様はルイセントとも協議をして、目下お茶会の招待状を送ってきた連中から自陣営への引き込みに注力中だ。
やはりというか何というか衣と食のコラボレーション効果は凄まじく、あっという間に冬の学生社交界はこの噂で持ちきりである。わざわざ新聞で拡散する必要すらないくらいだ。
「やはり山吹色と緑の布が一番捌けていますね。あとは紫とか薄茶ですか」
ザッと王都市街の呉服店を回ってきてくれたアリーがそう報告してくれる。まだ産業革命が起きていないこの世界では布も大量生産は不可能。摘み、刈り、紡ぎ、織り、染めその全てが全部
一つの色に注文が殺到するとあっという間に品薄になっちゃうんだよね。やはりカボチャの色が真っ先に捌けて、次は多分お芋だね、紫。薄茶は焼き菓子全般の色だからこれもよく捌ける。
逆に中、上位貴族だと上白糖やクリームをたっぷり使ったりするから白、特に純白の需要が多く、私の
それに加えて中上位貴族は使える食材も多いし表現の幅がいっぱいあるし、どの色にも均等にばらけたりしているそうだ。お貴族様、流行は追いつつも他人と被ることを何より嫌うからなぁ。
「お姉様の発案だって事は浸透している? 私の案だって事になってないわよね?」
一応、オウラン陣営が情報操作を試みているはずなので確認してみたが、
「大丈夫そうです。衣食のコラボはお姉様の発案、それによる親愛の表現はアーチェ様の発案という方向で世論は一致しています」
「……知らぬが仏ね」
なお衣食のコラボを提案したのは私で、それを私の負担軽減にもなるし新たな告白方法としてはどうかと気が付いたのはお姉様。なので真実は完全に真逆なのだが……やっぱ噂と印象って大事なんだなぁ。
ただ告愛天使の御利益効果か、この方法による告白は恋が実る可能性が高いと専らの評判で、この冬私たちにお相手を見繕って欲しいと送られてくる文は心なしか減少している。いいよいいよ、先ずは自分の力で当たって砕けるといいさ。
ただ一応、この流行は学生社交界までで大人の社交界には広がっていない。
というのもお菓子を着るなんて子供っぽいとか、自分の服装に合わせたお菓子を殿方に食べさせるのは破廉恥だ、みたいなことらしいね。こういう声に賛同し大人っぽく振る舞おうとする生徒もいるにはいるらしいが、あくまでそれはごく少数だそうだ。
なんでも前者に対しては「これが子供っぽいって言うなら卒業したらもうこういうことはできないのに。勿体ない」と囁けばわりとグラッときてしまうんでね。後者に関してはそもそも子供はエッチなことは大好きだぞ。
前世の少女漫画なんてこれマジでやったらほぼ犯罪みたいな内容がいっぱい並んでいたからね。禁忌っぽいことやちょい悪なことは子供は大好きなので、大人に破廉恥だ卑猥だとか言われると余計にやりたくなるもんさ。
「ま、順調なのは結構よ。アリーも大変だろうけど上位貴族のあれこれを学べるいい機会だから頑張ってね」
「私がアーチェ様の替わりとしてお姉様の後ろを固めるなど恐れ多いですが……頑張ります!」
そんなこんなでアリーにはくれぐれもストラムを手放さないように、と念を押してお姉様のサポートをお願いしていたんだけど、
――あー、このパターンは予想してなかったわ。
ある日の学園、というか
もう冬も近く日が落ちるのも早くなってきたなぁなんて思いながらメイと二人で貴族街を歩いていたところで記憶が途切れ――
ええ、気付けば私は窓一つ無い怪しい密室のほぼ中央に、両手両脚に枷を嵌められて吊されていたのでした、と。
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