■ EX37 ■ 閑話:持ち味、イカしやがったなァ Ⅱ






 そうして三日後にシェプリーの予想通り、エミネンシア侯爵令嬢ミスティより茶会の招待状が届いたのだが、


「貴方にも届いたのね」

「ええ。大した自信ですこと」


 シェプリー・ビダイズンにとって予想外であったのは、同僚であるブランダ・スカーラムにもまた同様に招待状が届けられていたことである。


「数合わせかしら? 敵陣営を一人だけ招待するのは悪趣味だっていう」

「ああ、ドリーみたいなことはやらないって?」


 ドリーというのはグルーミー侯爵家の長女フォンドリー・グルーミーのことであり、闇バレした当時七歳のミスティ一人を皆で嘲笑おうとして失敗した者の中核だった令嬢である。

 現在はオウラン陣営に属しているが、ウィンティ個人の腹心としては誘われていない。陣営に忠実であるが、どうにも抜けているところがあるというのがその理由である。


 ミスティ一人を笑えると何故か勝手に勝利を確信していた辺りもそこら辺の性格によるものだろう。

 決してフォンドリーは無能ではないし、会話すると育ちと頭の良さを確かに感じられる。技能や知識においてはシェプリーやブランダを上回る点もキチンと備えている。侯爵令嬢としての基礎能力は申し分ないのだが、時々何故かワケの分からない致命的なポカミスをやらかすのである。


 多分思い込みが強いのだろうとウィンティは予想していて、その意見にはシェプリーもブランダも同意見である。

 根が真面目で頭もよく忠誠心もあるのに仕事を任せにくい、ウィンティたちからすれば「あまりに勿体ない」令嬢という認識だ。


「出席者は彼方もエミネンシア侯爵令嬢とその腹心二人までね。フィリーがいないのは少し残念だわ」

「フィリー? 誰それ」


 こいつ同じ陣営にいた奴のこと覚えてないのか、とシェプリーは呆れたが、ブランダはそういう女であることもシェプリーはよく知っていた。

 ブランダは食を疎かにする相手には一切興味を持たないタイプだ。オウラン陣営の食生活をこっそり観察して頭の中で○×をつけ、×に該当する相手は以後空気と見做すような面がブランダにはある。


「ウィンティ様が腹心に誘いたがっていた子よ。ただオウラン公が身分の低い子を嫌った結果、陣営ウチを離れたところをアンティマスク伯爵令嬢が拾ったって話だけど」

「ふーん、じゃあ何らかの長所はあったって事なのね」

「男爵令嬢のくせして仕事をくれってウィンティ様に命知らずの直談判するぐらいだしね。気骨はあったし、男爵令嬢にしては知識も豊富で、使い甲斐もあったはずよ」


 何にせよ、二対三の茶会だ。数の上では不利だが殴り合いをするわけでもないし、何だかんだで同じウィンティの腹心であるブランダが隣にいるのはシェプリーとしても心強くもある。

 これで隣にいるのがリトリーだったらシェプリーは全く心安らかにはいられなかっただろう。なんでウィンティがあんな奴を腹心に入れているのか正直シェプリーにはさっぱり分からない。

 いや、実際頭はいいし成人貴族の不倫関係などをなぜか把握しているなど、噂話の収集に関して優れた才があるのは確かだが……


「何にせよ、宜しく頼むわよ」

「それはエミネンシア侯爵令嬢が用意するお茶請け次第ね。つまんないもの出されたらやる気下がるし」


 あまりブランダにやる気が見られないのは、おそらく食方面では今のところ貴族街に例年と違う動きが見られないからだろう。

 エミネンシア侯爵令嬢が発信しようとしている流行は、少なくとも食に関しては例年と異なる変化を見せていない。であればブランダが乗り気でないのは仕方が無い話だ。


 そんなことを考えながら歩みを進めて、両者はエミネンシア家冬の館へと到達する。貴族令嬢とて、元は武勲で爵位を得たアルヴィオス貴族の一員だ。故に学生の間は徒歩による移動が義務づけられている。

 自らの脚で歩けもしないものに王国貴族を名乗ることは許されないのだ。この伝統のおかげであまり肥満体の令嬢令息がいないのは実に結構なことだ、と服飾が何にも勝るシェプリーとしては好ましく思っている。


 もっとも、世間的にはこの伝統に辟易している貴族の方が大部分であり、そういう意味ではシェプリーもまたある意味では異端に属する貴族ではあるのだろうが。




 そうして招待状を検められ談話室へと通された両者であったが、


「よくいらして下さいました、スカーラム侯爵令嬢、ビダイズン侯爵令嬢」


 その場で待ち構えていたミスティら三者を目にして若干の落胆を覚えずにはいられなかった。


 確かにリトリーの言うように、三者はお揃いのダークブラウンのドレスを着用していた。香水まで揃えているのか三人とも同じハーブ系の薄い香りを纏っていて、ご丁寧にも魔封環までドレスの色に合わせて新造しているのははたして褒めるべきか笑うべきか。

 個性は身につけた小物で出す形なのだろう。リボンやアクセサリで三者三様のアクセントを付けているし、それらは確かに垢抜けてはいるが――


――これまで通り、上品にまとまっているだけね。


 あくまでシェプリーの眼に留るほどのずば抜けた長所はない。

 これまでのミスティ評から抜け出すこと能わない、バランスはよいのだが殻を突き破れない無難な選択のそれだ。


 そう、思っていたのだが。







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