■ EX24 ■ 閑話:魔王国民ゲイルとクリス Ⅴ
ケイルとアイズは一日の学習を終えて、割り当てられた寝室へと案内される。
中に上水と下水は完備されていて保存食もあり、だから外側から施錠されてしまうのはまあ、まだ新入りなので仕方あるまい。
「さて、ここで反デスモダス派に参加できたのは喜ぶべきだろうな」
盗聴されていることは承知の上で、ケイルは仮面を外してそうアイズと情報共有を始める。黙っている方が怪しいし、聞かれていい範囲の話はむしろ積極的に行うべきだ。
「僕たち二人じゃデスモダスには勝てないからな。それよりお前、ちゃんと姉さんを取り返す気はあるんだろうな?」
「当たり前だ。俺ちゃんが女を奪われて黙っている男に見えるか?」
「そういうところはデスモダス譲りだな」
「魔封環はめんぞこの野郎」
パパン、と短い拳の応酬を交わした後、二人は横並びに一つしかないベッドに腰を下ろす。
「あの全裸、歴代魔王より強かったなんて……」
「母さんが里で腐るわけがよく分かったよ、復讐しようにも勝ち目がまずねぇもんな」
アイズとケイルはほぼ同時にため息を吐いた。デスモダスの役目がまさか魔王がディアブロス王国に翻意した時、魔王の血を吸って眷属として従えることだったとは。
「よく考えりゃ、確かに魔王が嫌だっつったらこの国は終わるんだもんな。備えが必要ってのは確かにその通りだ」
魔王は別に魔王国の傀儡として君臨するわけではないらしい。故に自分の意思で冥属性の行使を拒否する可能性があるが、そんなことをされたら魔王国民は壊滅的な被害を被ってしまう。
また自分の種族以外は守らない、みたいな特定種族だけを利されても困るため、六闘士民以外の自分で住居を選べない士民はあらゆる種族が均等に、全ての
当然、上位の士民も就業義務によって各地に割り振られており、結果として己の部族を利するためには魔王は全ての
「住居を選べないことにまでちゃんと理由があったなんてな」
「この国が
アイズが感心したように脚を揺らし、ふと喉の乾きを覚えてベッドから立ち上がり、コップを手に取り二人分の飲水を用意する。
この魔王国では主従は反転、アイズが侍従でケイルが主だ。もともと庶民のアイズは少しはだけ懐かしくもあり、不満なんぞ覚えようはずもない。
「でもダサルさんたちはその一丸から外れたがってる、と」
「……ダサルの旦那を、クリスよ。お前はどう見た?」
一瞬、アイズはケイルが己の目の最後の秘密を知っているのかと疑ったが、すぐに違うと思い直した。普通の意味で、アイズはダサルをどう判断したかをケイルは問うているのだろう。
しばし躊躇ったのち、
「真面目な人だと思うよ。僕たちを騙そうとしているようには感じなかった」
「クリスも同じか。信頼はできそうだと俺も感じた。協力するに吝かじゃあねぇってな」
アイズもケイルもダサルに嫌な気配は感じなかったし、何よりアイズには人の善悪を濃淡で見ることができる。
氷神より授かりしアイズの淨眼が、ダサルを善良よりだと判断したのだ。
「でも、ダサルさんの背後にいるものまで信用に足るかは別だ」
「それな。一闘士民であるデスモダスの排除に政治が絡まねぇ筈はねえし」
政治とは基本的に汚いもの。ミスティ主催の夜会でナンナ・アミル騎士爵令嬢が毒盛り実効役として使い捨てられたのが良い例だ。
ダサルが誰かの都合のよい駒という可能性は低くない、どころかよくある程度の話でしかない。
「ダサルさんの背後にいるの、あの人が言ってたニンファって一闘士民だと思うか?」
「さてな、ダサルの旦那たち自身のチームがまず種族ごちゃ混ぜだ。
「とすると
正直に言えばアイズは魔王国民が何人死のうと知ったこっちゃないが、無意味な被害の拡大はアーチェが悲しむだろう。
遠回しに姉さんが望まないから魔王国民の虐殺はやらないぞ、とアイズは告げ、ケイルにとってもそれは同じだ。
「俺もそれは望まんから安心しろ。ってかクソ親父があそこまで強いとかなぁ……これならアルヴィオスにいたほうがマシだったかもしれんよ」
「母さんの敵と息巻いてたのにそのザマか?」
「おっと最愛のお姉ちゃん拐われたクセしてイキってやがるか」
ガン、と身体強化した拳をぶつけ合い、半ば芝居、半ば本気の衝突は一撃で終わり。それ以上続けても不毛なだけだ。
何にせよ、
「ダサルの旦那は俺たちを強くしてくれるってんだ。それが事実なら恩返しする。嘘なら使い捨てられる前にトンズラだ」
「了解だ主さま、だがその前に」
アイズが机の上にクイッと視線を向ける。机の上にあるのはディアス語で埋め尽くされた資料の山で、要するに、
「勉強しろ、お前が賢くなると姉さんが喜ぶ」
「アイシャがすぐ側で褒めてくれるならいくらでも頑張るんだがなぁ……」
アーチェならドワーフの古ノルド語、魔族のディアス語、獣人のワルド語、エルフのアルブ語のどれも難なく読めるのだが、アイズはまだまだディアス語は拙く、ケイルに至ってはできれば辞書が欲しいレベルである。
もっともそれはアーチェの学習意欲が異常なだけで、そこまでは本来アルヴィオス貴族平均教養としては求められてはいないのだが。
「姉さんに褒めてもらわなきゃ何もできないとかカワード以下だぞ、お前」
「おっおう、それは嫌だな……まぁまぁ頑張るわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます