■ 121 ■ 都市計画の裏事情 Ⅱ
「別にお父様が全ての黒幕だと考える必要はないわ。お父様に利があって、魔王国にも利があればそうなる可能性もあるという話よ」
仮にまだお父様が真っ黒のままだったとしても、アイズには人の心が読めるわけではなく、アイズの基準で善悪が分かるだけ。
お父様がそうする、との確信に至らないのは当たり前だ。
「そもそも私自身がダートと組んでワルトラントを攻めようとしているでしょ」
私たちは私たちの為の戦を起こそうとしているのだ、と告げると、二人はその事実を見落としていたようで、
「……本当だ」
「確かに。お嬢が一番パパ君のお心を正確に推し量れるのは間違いないな」
両者とも納得したように頷いているのは納得がいかないが、つまりはそういことだ。
「もっと言ってしまえば誰もどこでも繋がってない可能性だってあるのよ。それぞれが勝手に間諜を利用して相手の情報を得て、ただ自分にとって都合のいいタイミングで最大限の利益を引き出せるように動くだけかもしれない」
ただの玉突き事故って可能性だって十分にある。大国の国力が低下したら周辺国家で紛争が再燃するようにね。
だからこそ私たちはとにかく多角的により沢山の情報を集め、検分し、過たず判断を下さねばならないのだ。
「それにワルトラントなら攻めてくる理由を一々考える必要もない。ドワーフ連峰はあいつら鉱山のないところでは生きられないでしょうし、エルフも同様ね。冬は雪に埋もれる土地に用はない」
「あー、ドワーフは知らんがエルフはな。お高く纏ってるから頼んだって森の外、ましてや雪国なんかにゃ来ちゃくれねぇだろうよ」
心底嫌そうにケイルがそう吐き捨てるあたり、エルフはやはり性格が宜しくはないみいたいだね。
「いずれにせよ情報を集めることは悪いことではないわ。めぼしい開戦理由が無いなら無いで安心もできるし」
「それもそうですね」
これにはアイズもケイルも異論はないようで、では改めて魔王国が開戦に至る理由を本腰を入れて探すとしようか。
「現状の情報から予想できる魔王国の侵攻理由は1.魔王の決定、2.魔王の長期不在、3.魔王の冥属性ですらシェオル山系を抑えきれない、4.深刻な食糧不足、といったところかしら。他にある?」
魔王国は基本的に国際的な付き合いがない内需国家だから、貿易摩擦や輸出規制由来とかは無いと思うけど。
「そうだな。5.魔王国が何者かから侵略を受けて現国家から追い出される、ってのは?」
なるほど。私としては想像もしてなかったけど可能性としてはあるか。
そもゲームではアルヴィオスは寝耳に水でディアブロスに攻められるわけだし。状況としては同じだよね。
「それもありね。アイズはどう?」
「根拠はありませんが6.過剰な選民思考、自国中心的思想とかどうでしょう」
あー、西◯思考、中○思考やロ○ア帝国思想ね。偉大なる自民族は世界の中心であり他民族より優れているって最低のクソ思考。
可能性は――なくもないか? そも魔族と十把一絡げに纏められ、こんな魔王無くしては暮らせない土地に国土を切り開いた魔王国民に鬱屈した感情がないとも言えまい。
それを示す最たる物が私たち血液袋、専属食糧民だ。
単に血液が食糧として必要だから、というのがそもそもの大前提なのは間違いないだろうけど、それはそれとして私たち人間を家畜、
「こんなところかしら。ならケイルは闘技場で闘士たちの思想傾向や最近の食糧事情なんかを確認してもらえる?」
「あいよ、任せな」
「私とアイズは引き続きカワードの職場ね。せっかく国の運営に関わる仕事場に入れるんだから可能な限りの情報を引きずり出すわよ」
「はい、姉さん」
そんな感じで今後の方針をまとめ、マグに残ったワイン割りを一気に飲み干す。
さてさて何かめぼしい情報が出てくるといいけどね。
忍者の潜めるスペースが一切なし、無駄に防犯性能高いとか、うーむ穴蔵生活恐るべしだよ。
翌日もカワードの職場に先回りしてカワードと合流しつつ、資料室での資料漁りである。
ついでにカワードたちが担当している業務についても教えて貰い、仕事の内容にザッと目を通したりもする。
「現在はどの
前に教わったとおり、カワードの仕事は現在の野放図な都市拡張を整理することらしいのだが、
「その前に野放図な都市拡張を止めたら?」
「止められないんだ。自動的だからね」
カワード曰く、初代魔王が構築した
時にマグマ溜まりを掘り出したりと結構洒落にならないそうだ。
「……破壊したら? それ」
「壊しても次が自動的に作られるし、都市の補修もしてくれるからね。いないとそれはそれで困るんだ」
カワードはうんざりした顔で呟くけどなるほど、私としては目から鱗が落ちた心持ちだよ。
そーだよな。これだけでかい地下都市なんだ。マンパワーでちびちびやってたら千年かけても開発が終わるはずも無い。
魔王の冥属性には命無き軍団の使役も含まれているから――ゲームだとこのせいで壁役が無限再生するからマジ厄介なんだよな――それを応用して都市開発の指令を下したのか。
「術者無しで動いているって凄い技術ね」
「だろ? 術者である初代魔王陛下が
なるほど、一度発動した魔術は、魔力供給が続く限りは魔術効果が維持されるもんね。
そうやってずっと大地から魔力を得て
「対策としては勝手に働かせておいてできあがったモノを潰すか、今あるモノを壊して
とすると
「そういうこと。その計画を立てるのが俺たちの仕事ってわけさ」
だから
うーむ。カワードたちがやる気をなくすのも分かる気がするよ。まさか自動で動く
感覚としては庭の草むしりみたいなもんだよねこれ。必要ではあるけどそりゃあやる気も削がれるわけだ。
しかし……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます