■ 116 ■ ディアブロス魔王国 Ⅱ
「つまり魔王陛下の冥属性がないと、いずれディアブロス王国は焔の海に沈むって事ね」
「そうだ。これまで歴代の魔王陛下がその力を振るってきたおかげでこのディアブロス王国は存続してきた。故にどんな力の持ち主も魔王陛下には逆らわない。魔王なくしてこの国は立ちゆかないからね」
確かに。火山の制御なんて、どれだけ凄い戦闘能力を持っていたって容易にできることじゃない。
文字通り生命力を減衰させ沈静化させる冥属性だけがディアブロス王国を存続させることができるということだ。
「……それって、じゃあ仮にこのまま魔王が現れないままシェオル山系の火山活動が活発になったら……」
「その時は
魔王国はこのエルギア大陸における最北の国家だ。つまりこれ以上北上してもその先には北極と海しか無いということになる。
だから次の火山活動の活性化までに万が一魔王が現れないと、アルヴィオス王国とディアブロス王国は生き残りをかけた戦争になるって事だ。
……噛み合わないぞ。どういうことだ?
それってつまり魔王がいる限りディアブロス王国はアルヴィオス王国に攻め込む必要がない、ということになる。
だのにこの先ディアブロス王国にはニクスという魔王が現れ、しかしディアブロスとアルヴィオスは戦争をおっ始めるわけで、あ。
「どんな力の持ち主も魔王陛下に逆らわない、っていうことは仮に魔王陛下がアルヴィオスを攻めたいって言ったら?」
「そりゃあ、まあ攻めるんじゃない? 現状、俺たちとしても食糧が不足気味って問題を抱えているし」
そうか。国を維持できるのが魔王だけだから、アルヴィオスとは違って魔王の命令は絶対って事になるのか。
「故郷のことが心配?」
「そりゃそうよ。あっちにゃまだ肉親がいるし、帰る家だってまだ私にはある筈なんだから。少なくとも、物理的にはね」
「……」
お父様のことはどうだっていいよ。だけどアルヴィオスにはまだメイが残ってるからね。
少なくともバナールと結婚するまではメイのいる場所が私の帰る家だ。何処じゃなくて誰、私の魂が帰るべき場所がそこだ。
「でもまあ、そんなに心配することないと思うよ。歴代の魔王陛下は国の維持に精一杯で他国をどうこうするだけの余裕はなかったって話だし、あと冥属性の影響でかなり消極的な性格になるそうだから」
そう慰めの言葉をかけてくる辺り、別段カワード君は馬鹿かつ臆病なだけで悪い奴でも無いみたいだね。マイナスに振り切れていた敬意ポイントが少しだけ加算されてきたよ。まだマイナス値のままだけどさ。
「へー、属性って性格にも影響するんだ」
「らしいよ。もっとも魔王陛下ぐらいの力がないと殆ど影響はないらしいけど」
そういえばプレシアもあいつ、バイタリティだけは凄まじいもんな。いくら叩かれても全くへこたれないし、何度叱っても懲りないし。
そっか、生命力の強化と賦活が聖属性だから、その効果もあったのか。
というかあいつ聖女として覚醒すると、あれからさらにパワフルになるのか。とても私では抑えきれる気がしないわ。
まあプレシアはさておき魔王だよ。カワード君の言う通りなら、魔王は魔王国の維持にかかりっきりで他国に手を出す余裕もないし、そういう性格でもないってことだよな。
……じゃああいつ、魔王ニクスってのはいったい何なんだ? 魔王国が従ってたんだし実際ゲームでも冥属性だから魔王なのは間違いない。
なら何で魔王ニクスはアルヴィオスを攻めてくる。魔王として国のために一生を捧げるのが嫌だとかそういう理由か?
「魔王になった人って四六時中どっかに縛り付けられちゃうの?」
「んー、そんなことないと思うけど。三十三代魔王ハリンは引っ越しが趣味で生前全てのシャフトに豪邸を持ってたらしいし。今も観光名所として残ってるよ。まあ俺は
うーむ、魔王国の為の人柱、人身御供にされるってわけでもなさそうね。
益々魔王ニクスの精神構造が読めなくなってくるわ。
……あとは、そうだ。
「仮に魔王足るに相応しい冥属性持ちが二人以上現れたらどちらが王になるの?」
「さあ? これまでそんなこと無かったし。でも強い方じゃないの?」
おう……にべもない。でも言われてみればそのとおりだよな、この国の場合。
ただそれでも、強大な冥属性持ちが二人いれば魔王として国を維持しつつアルヴィオスに侵攻することも可能となるはずだ。
しかしそれはそれとして、
――困ったわね。何か侵攻に備えての準備でも撮影して帰れればと思ってたのに、無駄足になりかねないわ。
現時点でまだニクスは魔王位についていない、となると侵攻の準備もしていない可能性が高い。
何せ魔王の一存で魔王国の将来が完全に決まってしまうという専制君主制だってんだから、魔王不在の現状で侵攻の意思は――いや、そう決めつけるのは早いか。
例えばオウラン公のように、自分の子供を秘蔵しながら虎視眈々と権力の座を狙っているような奴もいるかも知れないじゃないか。
それが魔王に指示をしてアルヴィオスに攻め込ませる可能性だってあるだろう。とすると、
「じゃあ魔王不在の今は一体誰がこのディアブロス王国を統治しているの?」
「当然一闘士民たちからなる元老院さ、決まってるだろ」
決まってると言われてもねぇ。まぁ一闘士民であろうとは予想していたけどさ、そこから合議にするか仮の王を立てるかとかバリエーションはあるじゃろ?
とはいえ、政治形態が分かったのはまぁ僥倖だろうよ。
「元老院って何処に居を構えているの?」
「
ふーむ。一から十の
まぁそうだよな。国境に近い
だけど、つまるところここがアルヴィオスへ攻め込む際の橋頭堡でもあるわけで……やはり探ってみる意味はあるだろうよ。
それはそれとして、
「おなか減ってきたわ」
しくじったわ。せめて夕飯食べてからブタ箱出てくるんだった。
「俺も。血吸うよいいよね?」
「私の食事が先よ! 私を屠殺する気じゃないってんなら先ずは私に飯食わせろメシ!」
「えぇ……」
さて、一文無しのカワード君はここからどうやって私の飯を用意してくれるのだろうね。
何も用意してくれなかったら? その時はブタ箱に戻るまでだよ。自由の前にまず生命維持ができなきゃ話にならないんでね。
アノン以下ブタ箱連中には馬鹿にされるだろうけど、どれだけ嘲笑されてもそれが致命傷になるわけじゃないからね。作戦は常に命を大事にさぁ。
それ以上に大事なことなんて何一つないんだからね。
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