■ 109 ■ 新聞部心得その一 Ⅲ
さておき、アルヴィオス・カレッジ・タイムズは現在衣と食に重点を置いて記事を作成中である。
ただあれだ、流石はオウラン陣営というべきか。陣容が厚いというか普通にお姉様の審美眼でこれは、というファッションの学生を見つけても、
「あの方もオウラン派閥ですね」
「むぅ……」
だいたいがオウラン家の息のかかった家のご令嬢だったりと、中々に油断のできない状況である。
だからってそれを排除しては間違いなく「新聞はやはり不公平」ってツッコミが飛んできてしまうし、センスがいいことは事実なので取材はせざるを得ない。
まぁ私自分が着飾るならともかく可愛い女の子が可愛い服装しているの見るのは好きなんで? ノリノリで取材に行っちゃうんだけどね。
「ビダイズン侯爵令嬢、この度は取材に応じて頂きましてありがとうございます。早速ですが見事なドレスですね。生地は? ふんふんヤーン子爵家の織物ですか、他の領地より質がよい。綿花の種類が違う? それとも織機の性能で? 染色も鮮やかですが一反お幾らほどで?」
「そ、それは……今此処で公開すべき情報ではありませんわ。知りたければ直接私に聞きに来るのが筋ではなくて?」
あちゃー、そこ隠しちゃう? いや、そこの情報が頭に入ってないだけか。
まーしゃーねー、嘘は書けないんでそのまま記事にしてしまったらさぁ大変。ビダイズン侯爵家冬の館には面会以来のお誘いが山ほど届いたとかで、ビダイズン侯爵令嬢は一年前期の私のように苦しむことになったらしい。
それでオウラン陣営も大いに反省したらしく、以降の取材では聞けばそこそこ情報が出てくるようになった。
ただ絞るべき情報はきちんと絞って非難を避けつつ人気を稼いでいるあたり、ウィンティの統制は大したもんだと思うよ。
なお、ウチの陣営からはファッションの排出は極めて難しい、というか無理だ。
何せ中核がエセ和風っぽいお姉様、金のないシーラ、十五年前の仕立て直しの私だからね。アフィリーシアは男爵家だしどうしようもないよ。
アクセサリーとかでお姉様を押し出すにしても、毎回お姉様が出てくるんじゃあどう見ても贔屓しているようにしか映らないし、やるべきではないね。
その一方でプレシアによる下町グルメレポートがそこそこ下位貴族たちに人気を博している。
「私の手柄というか、フリーダとアイズ様のおかげでもありますけど」
味はさておき、お店ってのはお洒落さも求められるからね。フリーダがお上り女子の好みそうな店をチョイスし、プレシアが味を、アイズが貴族としての品格と、あとこっそり店員の善悪をチェックしているおかげでほぼハズレなし。
味もよく居心地もよく格調高くの三つを完全に抑えた店こそそう見つからないものの、コンセプトを絞ってそのうちの二つなら兼ね備えているお店を厳選できていて、この企画はある意味新聞の中で一番愛されているかもしれない状況である。
「しかし衣食住だけで回して行くにもやっぱり限界があるわね」
そんなこんなで皆が新聞を読んでくれるようになったので更にネタとして技術系の記事も追加。
現行で主流になっている、国内で使用されている馬車のサイズや、これらを規格化した時のコストダウン概算などを簡単に紹介すると、
「今回の新聞は――え? なんでいきなり馬車の話?」
「新しくキャブリオレ先生が書いた論文の抜粋だってさ。何でも規格化による輸送効率の向上だそうだけど……」
「今回の新聞はあまり面白いネタじゃないなぁ。ってかなんで馬車? 学園で馬車?」
「そもそもさぁ、いくら効率上がるって言っても全国統一は無理だよね」
「でも仕入れ先で車軸のスペアなくなると苦労するってのは結構良く聞くよねー」
「いや聞かないから。普通に生活してればそんなの聞かないから」
これは割と賛否両論だったね。実用性としてはある意味一番高いと私としては思ってたんだけど、学生には楽しい話ではなかったみたいだ。
うーむ、ニュー○ンみたいな科学技術系ネタはまだ早かったかな、と私としては反省したし、新聞部一同からも受けがよくないから廃止しては? という意見も出るくらいだったけど、
「学生新聞が技術を無視してなんとします。学園は教育の場ですよ」
「そうですよ! こういう記事もあった方がいいと思います!」
「うわーアーチェ様恒例のべんきょうしなさい説教だー!」
私とあとフィリーが賛同してくれて今後も時折技術系の記事を挟んでいくことをゴリ押しさせた。あとプレシアもヘッドバットで黙らせた。
これも公平性だよ公平性、娯楽ばっか嗜んでいちゃいけませんって。
ただ新聞で周知もしたしキャブリオレ先生も論文を出したので、一応ルイセントには冬の貴族院で馬車のサイズを全国規格化する法案を提出だけして貰うことにする。
法案が通るにせよ通らないにせよ、対魔王国戦に備えてやるべき事はやっておかないとだからね。駄目なら駄目で諦めるさぁ。この国の人が拒否したんならそれは仕方のないことだからね。
まあそんなこんなで二年生上期を新聞作成に費やしていると、
「姉さん、入部希望者だそうです」
ほーん、物好きな者もいるもんじゃのうと面接の場を用意してみれば、
「スカーラム侯ハーラムが次女、学園三年生ブランダ・スカ―ラム、ご加護は果神です」
「アストリッチ伯スラウスが長女、学園二年生リトリー・アストリッチ、獣神です。新聞部へ入部したいのですが、受け付けておりますでしょうか?」
ハッハー! いつか来るだろうとは思っていたけどやっぱり来たよ。オウラン陣営の新聞部入部希望者!
だよなぁ。対抗するには同じ新聞を発行するか、それともこっちに手先を送りつけるかのどっちかだよなぁ。
「アーチェ、どうするの?」
お姉様が心配そうに小声で耳元に囁いてくるけど心配すんな。予想の範囲内だから胸張ってておくれやす部長様。
「当然、面接の結果次第ですよ。なにせ新聞部は公平公正ですからね」
さーて、ウィンティが直々に送りつけてきた人材だ。お手並み拝見といこうじゃないか。
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