■ 95 ■ 家族の語らい Ⅰ
「しかし、アーチェは何処にいても噂話に事欠かないね」
エミネンシア家の談話室にて、どこか楽しげにバナールが紅茶の湯気の裏で笑う。
今日は家族の情報共有ということでバナール、お姉様、私三人でのお茶会である。
一応大人とのお茶会ということでドレスは仕立てて貰った二着目、白綾地に墨と淡彩で秋草を描いたあっさり仕立てを着ていくことにした。
バナールは成年貴族でお口も達者なので「そうしていると雪の妖精のようだ」なんて誉めてくれたけど、マジでこれ来て雪の中に突撃したら私は誰にも視認できず春に凍死体となって発見されそうだ。
「私もなんでこんなことやってるのかよくわからないんですけどね」
なお婚活だけど、やはりウィンティが妨害してくれないので最近はお父様やお祖父様、バナールに待機人員のリストを見せて、
「この中でお近付きになりたい家があったら言って下さい」
と一部引き受けて貰っている。
その甲斐あって少しずつだけど待機人員は減ってきたよ。持つべきは影響力を持つ親族だってよく分かるね。やはり権力、権力は全てを解決する。
とりあえず婚約者不在が致命的な世襲貴族家長男が一掃できれば一旦そこでお開きにする予定である。
それだけに絞ればそもそも世襲貴族家自体が二百程度しかないのだ。残りはもう数名、終わりが見えてきた感じだよ。
「社交界ではアーチェの噂は概ね好評だよ。アンティマスク伯爵令嬢の紹介には親の目線から見てもハズレがない、どれだけの慧眼を持っているのかとね」
「お見合いの後に婚約が成立しなかった場合でも、合意に至れなかっただけで相手に悪い印象は感じなかったっていう話ですものね」
そりゃあね。一応お見合い写真取るときには男性対策と称してアイズに一緒にいて貰ってるし。
アイズの淨眼を使えば外道ランクはだいたいわかるからね。ヤバそうな奴はそこで弾くことにしてるし。
「アーチェの選んだ組み合わせに文句を言うものはほぼ皆無、ってとんでもない手腕よね。本当、どうやってそこまで精度を高めているのやら」
だいたい濃淡が同じ位でペアを組ませると善悪の常識も同程度になるので意気投合しやすいのだ。
やっていいことと悪いことの認識が同じって、仲を深めるのに最も重要な要素と言っても過言じゃないからね。
なおこれは完全にアイズの手柄なので全く自慢にならない。でも口外もできないから全て私の手柄になるわけですまんなマイスイートブラザー。姉ちゃんが評価奪っちゃってさ。
「文句言う奴がいなかったわけじゃないですけどね」
なお一件だけ男女がガチでお見合い茶会の最中に大喧嘩しての破談が起きて、こりゃあやっちまったと大いに喜んだゲフンゲフン慌てたのだけど、
「あれはもう笑い話の類いでしょうに」
後日、アフィリーシア(ついに三人違和感なく混ざったよ!)に情報を集めて貰ったところ、
「その組み合わせならそりゃあ喧嘩別れでしょ!」
と概ね
何でもどちらも猫をかぶって相手に依存し寄生するタイプとして同性の間では有名だったそうで、私がその二人を引き合わせたのはある種のザマァ要素として大喝采されたそうだ。
……知らんがな、そんなの。アイズの淨眼でもそこまではわからんわい。
ただアイズ曰くどちらもド真っ黒だってことだからそれはそれで上手くいくんじゃないかと思っただけだ。結果は破談だったがね。
「これは新年の夜会ではアンティマスク伯爵令嬢の話でもちきりになるのではないかな」
なお、年が明けたら三年生限定かつ強制参加のダンスパーティーがあるそうで、ここで最上級生は大人のダンスパーティーのルールを学び、晴れて卒業後は大人の仲間入りをするのだそうだ。
つまり一足先に大人の夜会に出ている王族はここで威風堂々と威厳を持って振る舞えるから目立つわけだ。小癪だね。
まあそんなわけで、ここで婚約者がいない世襲貴族家の惣領息子はめちゃくちゃ恥ずかしい思いをすることになる。
だから皆形振り構わず躍起になってるんだね。はー、世知辛いのぅ。
なお学園の卒業式の夜にもダンスパーティーはあって、ここが最後のデッドラインになるらしい。いやはや体面が物を言う貴族社会に生きる男子は大変だわ。
一方、三バカやフェリトリー男爵ベティーズがまだ未婚なように、非世襲貴族や庶民の場合、こういうリミットはないから気楽だよね。
あと娯楽がヤること位しかない庶民は世襲貴族並に結婚が早いのに対し、色々娯楽に触れる機会がある国家騎士団員や文官、いわゆる都会暮らしの庶民以上世襲貴族未満は二十歳位まで未婚なのが当たり前だ。
ま、世襲貴族も徴兵回避を狙わない人は結婚せず婚約のみを維持する人もいたりするけどね。少数だけど。
「そこで私の話題が上がったらウィンティ様はさぞ不機嫌になるでしょうね」
「でしょうね。今回は妨害もろくにできなかったみたいだし」
オウラン家は王家を除けば王国最大の貴族だ。本気で妨害しようと思えば出来ないこともなかったんだろうけどね。
でもウィンティに妨害されて婚約に至れなかった男子は絶対にウィンティを恨むだろうから、そこは慎重にならざるを得なかったってことだろう。
そのせいで私たちの領地特徴図はかなりホットでヤバヤバな情報が並ぶことになり、下手するとそんじょそこらの大人の貴族より私たちの方が王国各地に詳しいまであるよ。
「さらにフィリーまで取り込んじゃったし、ウィンティ様の怒髪は天を衝くだろうなぁ」
ウィンティ視点で見れば、ゼイニ男爵令嬢はウィンティより私を選んだとしか見えないだろうし。
もうこうなったらひたすらウィンティを怒らせて冷静な思考を奪う方向に舵を切ることも視野に入れるべきかもしれないね。あまりやりたくはないけど。
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