■ 05 ■ ゲーム設定の再確認 Ⅱ
そして何より語らなくてはいけないのが、私の推しこと国家騎士団員アルバート。
属性は知らん。使う前に死ぬ。マジで死ぬ。何やっても死ぬ。
彼は主人公プレシアが最初に恋心を自覚するよう、徹底して良い人として構築された兄貴系キャラだ。
学園に貴重かつ強大な聖属性持ちとして放り込まれ、しかし庶民出身故に孤立無援で傷つく主人公の支えとなる人生の先達だ。
彼の死を防げず己の無力さを嘆いたプレシアが強くなることを誓うための、つまり捨て石。聖女覚醒のキーアイテム。
ここからが本編開始とばかりに時報扱いされる、文字通り救いようがない必死キャラなのだ。
……そう、何を隠そう私はいわゆる「主人公を導いて死ぬ兄貴系キャラ」がストライクな腐女子である。
そういう嗜好であるために、私が下手にバトル漫画読んだりアニメ見たりすると大概にして阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
だから言わずもがなで無限列車は私にとって致命傷だった。なんの話かは言うまでも無かろう。
そのあまりの的中率に私の高校時代からの親友なんか
「オッケー、じゃこいつがこの作品で死ぬキャラね」
なんて語尾にハートマーク付けて宣う体たらくである。ふざけんな。
なお私に地雷犬なんて渾名を付けたのもこいつだし、『この手に貴方の輝きを』沼に私を連れ込んだのもこいつだ。
私の憤慨っぷりを横でケラケラ笑ってる小悪魔のような女がこいつだ。なおこいつの好みはショタだ。
しかも剥けてない方がいいっていうガチショタ。小児性愛女が人を地雷処理扱いしやがってよぉ……!
い、いや、今は遠くにある
問題なのはこの推しであるアルバート兄貴が第三騎士団長の座を狙うお父様と現騎士団長との政争に巻き込まれて死地に追いやられ、確実に死亡するということだ。
だから目下、私の役目はこれを全力で阻止すること。そして推しであるアルバート兄貴の運命を未来へ繋ぐことである。
であれば別にお父様を失脚させなくていいような気もするわけだけど、誠に遺憾ながらお父様を一目見て分かった。分かってしまった。
あいつ、あの男は小娘の言うことを聞いて自分の覇気を収められるような
政界でも戦場でもどちらでも生き延びられる実力があり、それに伴う野心がある男なのだ。
であれば、止まるはずがない。たとえ己が乗る戦車の車輪で目の前にいる己の部下たちを無残に轢きつぶそうとも。
だから私のやることは親父を表舞台から引き摺り下ろし、かつ可能であればグッド系のエンディングに向かうよう流れを調整することだ。
「ただ問題は、メイン連中が今どこで何をやっているかよね」
余白を大量に入れつつ一通り書き入れた情報を前に、私は腕を組んで唸ってしまう。
と、いうのも先ほど私がメモに名を連ねたメインキャラには全員、まだ『姓』が書き込まれていない。
何故なら『この手に貴方の輝きを』はニューゲームでプレイすると、そのたびにメインキャラの所属する環境がガラリと変わるからだ。
つまりどういうことかというと、メインキャラの地位、家柄、立場がプレイごとに毎回違う設定になるのである。
わかりやすい例を出すと火属性のフレインとか、伯爵家の御曹司として出てくることもあれば、次のプレイでは貴族に買われた庶民出身の護衛だったりもする。
リリース初期はある程度パターンも組めたのだけど、毎週のようにバージョンアップが重ねられた今現在はしっちゃかめっちゃか。メインキャラの立場が何通りあるのかも分からない。
組み合わせに至ってはもうとても数え切れたもんじゃない。
こんな連中を集めて鍛えて、その中から一人を伴侶に選んで聖属性の力で剣の勇者に覚醒させまでしてようやく、魔王を倒してハッピーエンドに辿り着けるのだ。
どう考えたって周回ゲーでやることじゃないだろ。攻略wikiが役に立たない、というのもこのあまりにもクソな仕様が原因――だからこそ、沼に嵌る者たちもいる。それが私たちだ。
ただそんな私たちですら完全に辟易するパターンというのもあって、
「頼むから五人とも生きててよ……」
そう、メインキャラの地位と立場が毎回異なるということはゲーム開始時点であろうことか『攻略キャラが死んでいる』なんてことすらありうるのだ。
マジでアホか制作陣。取っつきやすさをもう少しは考えろっつの。お前、推しが死んでるゲームをプレイしたいってプレーヤーいると思うのか? ソシャゲはリセマラがほぼ前提のこのご時世にだぞ?
そんな生死も定かでない五人のメイン攻略キャラのうち四人までを
三人だと誰かを囮にして前衛を引き剥がせば何とか勝てるけど、この場合囮役はほぼ確実に死ぬ。
そんなだからこのゲームをやる場合は開始と共に主人公に旅費を稼がせ、国内を走り回らせてメインメンバーの生存を確認、顔を繋ぐことが最優先になる。
このムーブをするかしないかでプレーヤーが素人か玄人か一発で分かるという、あれ、これ本当に乙女ゲーなの? 正直自信なくなってきたわ。
とにかく、この現実においては魔王討伐とかはもう聖女プレシアにほぼ丸投げする形になるだろう。
所詮モブである私が対処するのは難しい。メインキャラが全員生きていれば乗り切れるはずだし、応援するから頑張ってプレシア。
私の
それ以上の余裕はないだろうし、それができるかも怪しいぐらいなのだから。
なお難易度低減要素なんだろう。メインヒーローであるルイセントは常に王家の血を引いた存在として現れるが、これもまったく安心できない設定でしかない。
第一王子かと思えば第二王子、ある時は公爵令息である時は私生児、ときたもんで、低確率で王位争いに負けて暗殺されているパターンもある。
おいぃ、難易度低減要素が息してねぇじゃん! ぜってーこれディレクターとゲームパート担当とシナリオ担当の間で揉めた結果だよ。
ホントマジクソゲー。狙ったキャラでクリアさせる気無いとか、どんだけ自分たちが作ったゲームがプレイして貰えるって無条件に市井を信じてんの? いや、がっつりプレイしてた私が言うのもなんだけど。
その一方でゲームメーカーのプライドかバグは徹底的に潰されていて、RTA的にもこれ程向いてないゲームもないわけで。でもこのゲームでRTA記録ってのも一応あるんだわ。
ニューゲームを選択から魔王を倒すグッドエンド系のTHE END表示でタイマーストップ。世界記録は三時間四十三分十二秒。
はっきり言うけどこれあまりに馬鹿げたタイムよ。通常プレイは徹底した効率化を進めても五時間が目安だもん。
沼って恐いわ本当、正気を疑うレベルで。
「なんにせよ、まずは空き時間を作ってドサ回りね」
はぁ、と重苦しい溜息が零れる。
主人公と違って伯爵令嬢の肩書きがある私には、ちょっと大変そうだわ、これ。
「しゃーねー、まずは総魔力量を少しっつ伸ばしてくか」
よくある異世界テンプレで唯一この世界でもできるのはこれだけだった。ならばやるしかない。
もっともその効果はやらないよりマシ程度しかないんだけど。はー、しんどい。
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