■ 05 ■ ゲーム設定の再確認 Ⅰ
さて、貴族的日常生活に必要な知識はティーチ先生から教わるとして、この世界で私しか知らない情報を纏めるとしよう。
午後の授業に夕食、入浴を終えて後は寝るだけ、となった状態で私付きの侍従であるメイをも退室させ、鍵付きのノート(無論、ノートと言っても羊皮紙かつ立派な表紙を持つ白紙の本だ)を開いてペンを取る。
幾度となく繰り返しゲームをプレイした経験がまだ頭の中に残ってるから、他人の目に留まるリスクも踏まえるとメモを残すのは不安要素にもなりかねないけど……前世の記憶が薄れない保証などどこにもないのだ。
であれば、記しておいたほうが安心できるというもの。
私の知る限り『この手に貴方の輝きを』の中にアーチェ・アンティマスクというキャラはいない。
幾度となく繰り返して出てこなかったんだから、少なくともネームドではないモブなのだろう。
っつかあのグリシアス・アンティマスクに娘がいるなんて思いもしなかった。いや、成人貴族なんだから普通に考えたら子供がいない方がおかしいんだけど。
なお先にこの家には貴人が少ないと思ったとおり、現状のアンティマスク伯爵家とは私とお父様の二人だけだ。お母様は私が三歳の時に亡くなったらしく、兄弟も無し。
親戚ぐらいいるだろうと思ったし実際いるらしいんだけど、アンティマスクの姓を持つのはお父様とその唯一の娘である私だけだそうだ。
父方の祖父母も没しているとかで、本当に残るアンティマスクは二人だけなんだとさ。
はー、私がその一人娘でよかったわ。お父様を破滅させる、ってことは即ちお取潰しがほぼ確実だからね。
家のお取潰しともあればその子供まで貴族社会に住む場所無くなるだろうし、ある意味これは幸運と言えるだろう。
まあいい、ネームドじゃない私のことはさておきだ。
ゲーム、『この手に貴方の輝きを』は聖属性持ちの少女プレシアが学園に入学、その伴侶となる剣の勇者を見いだして魔王の脅威から王国を護り、聖女として歴史に名を残して終わり、というのがメインストーリーだ。
まあADVだけあってマルチエンドだから王国滅亡エンドとか悪役令嬢ルート、魔王ルートとかその従者ルートなんてものもあるけど、大筋はそんな感じ。
ゲーム性が無茶苦茶ひねている分、ストーリー軸自体はわりとオーソドックスね。一方でグッドエンドから外れると一気にシナリオがサツバツとしてくるけど。
勉強中に地図で確認した範囲では地形や国境、国の名前と特徴はゲームと同じ。
舞台はエルギア大陸、中央がアルヴィオス王国で北に魔王国、東にドワーフの山、北西が海で南西がエルフの大森林。河を挟んで南に獣王国。
若干南部の国境線がゲーム知識と違っていたけど、南部は氾濫を繰り返すって設定のリオロンゴ河が国境なのでそこまで気にすることはないと思う。
ならば、ゲーム知識をおさらいしておくことは有用である筈だ。
『この手に貴方の輝きを』の主人公はプレシア。聖属性持ち金髪銀瞳という、色素薄めだが掛け値無しの美少女。
庶民出身だけど聖属性を見いだされて貴族家に買い上げられ、彼女が学園に入学したところからゲームスタート。
もっとも主人公視点で話が進むので、ゲーム上だとその可愛らしい外見はイベントスチルにほんのチラッと写るのみ。金髪はさておき銀瞳のせいでとかく印象に残りづらいんだわ。
ま、あれよ、ギャルゲーにおける目隠れ主人公みたいな扱いね。可愛いデザインなのにホント勿体ないわ。まあ没入感を高めるためには邪魔なんだろうけどね。
ゲームだと主人公の主張はプレーヤーの選択肢によって定まっちゃうし、それから解放された素の彼女がどんな性格なのか、ちょっと会うのが楽しみである。
そんなプレシア扮する主人公のメイン
一人目はルイセント。光属性持ち。聖属性との違いは、聖属性が生命の強化や治癒に特化しているのに対し、こっちは純粋に光を操る属性だということ。
まあ低級なアンデッドとかにも効果があり、一部聖属性と重なる魔術もあるけどね。金髪眩いイケメンでこの国の王族にしてメインヒーロー筆頭。性格も性能もそつが無い、安定したゲームの顔役だ。アプリのアイコンもこいつ、二次創作は純愛系が多いね。流石王道。
二人目はアイズ。氷属性持ち。長身かつ冷たい視線と氷の剃刀に喩えられる冷徹さがウリのクール系というか冷え切ったキャラ。戦って死んだ騎士の亡骸を平然と踏み越えて前進する様は味方からも恐れられている。
なお氷の剃刀と呼ばれるだけあってこいつのADV部攻略難度はメインキャラ随一。攻略が難い分だけ性能も手堅いので、他のキャラを伴侶にするより後半が楽になるのが救いというRPG苦手な人救済の面も担ってるけど。二次創作ではエログロ担当が多い。哀れ。
三人目がフレイン。火属性持ち。熱血キャラ、ではあるんだけどこの手のキャラにしては珍しく寡黙。寡黙だけどクールじゃなくて熱血。要するに静かに延焼するタイプ。
ついでに言うと忠義キャラも兼ねていて、伴侶と言うより姫を守る騎士のように振る舞う男だ。そして何より愛が重い。二次創作における偏愛関連はだいたいこいつが背負うことになる。哀れ。
四人目がケイル。風属性持ち。飄々としたスカしキャラで、軽薄そうだけど根っこは真面目。でも女性経験が豊富で過去に沢山の女の子と付き合っているナンパ野郎。
話術にも優れてるし当たり障りがいいので一部からは気分転換ルートとかも呼ばれている。実際こいつルートは妙にカラッとしていて、重い展開もある本ゲームにおける癒やしみたいな部分もあるし。二次創作は主にギャグと日常系担当。
五人目がダート。土属性持ち。いわゆるショタタイプのキャラで身長低め。ひねていて素直じゃなくて一見して魅力が伝わってこないんだけど、噛めば噛むほど味がするスルメキャラ。
あとツンデレ属性も持っていて、「女にゃなびなねぇぞ」みたいに突っ張ってるのが実に微笑ましい。その魅力が分からない一部プレーヤーにはクソガキ呼ばわりされてるけどね。二次創作はショタ、以上。
そしてこの手のゲームにお約束なライバル役、いわゆる悪役令嬢がミスティ。闇属性。お約束キャラなのでルイセントと婚約している。お約束なので婚約破棄される。
上手く選択肢を選んでいけば彼女が破滅から回避するルートに入れる(婚約破棄はそのまま)のだけど、そうすると一転してこいつがいいとこを持っていって主人公は伴侶も得られない孤独な庶民落ちで終わるという極端なキャラだ。
彼女と共に主人公が栄達するルートを作らない辺りにシナリオライターの意地悪さが見て取れるよね。ホントクソゲー。嫌になるわ。
あと重要なのが第二部から現れる魔王ニクス。冥属性といういかにも魔王らしい能力持ちで、このゲームのラスボスでもある。
前衛
なお魔王がラスボスにならない魔王エンドルートもあるけど当然主人公闇落ちルートなので、当然のようにバッドエンドだ。
一部のプレーヤーはお互いに愛があれば純愛グッドエンドじゃん、とか言うけどさ。
魔王と一緒になってかつての仲間を滅ぼすのは見ていてあまり気持ちのいい話ではないし、やっぱりシナリオライター絶対に愉悦部所属だよ。性格悪すぎ。
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