賽は投げられた-jacta est alea-

千崎 翔鶴

箱庭の賽

 彼は作り上げたその世界を、箱庭と称して嘲笑った。

 そうして四人集まって、その箱庭をそれぞれに眺めることにした。

 盤上にて、賽は振られる。

 ころりと転がる賽の目は、誰かの思惑でぴたりと止まった。

 ひとりは狼を隣に置いた。

 ひとりは鳥を腕に抱いた

 ひとりは蛇を手で撫でた。

 ひとりは亀に背を向けた。

 盤上遊戯は賽の目次第。あちらに転がり、こちらに転がり。

 お試しの遊びのようにして、ぽたりぽたりと泥の一滴が落ちていく。


 さあ、賽は投げられたjacta est alea


 砂つぶに等しき箱庭の人間は、惑い、叫び、泥に埋もれる。

 ただ彼は笑って、埋もれ叫ぶ人間の上に、再び戯れのように泥を落とす。

 人間どもよ、奪われるがままか。

 人間どもよ、蹂躙されるがままか。

 人間は誰一人として賽を振らない。

 人間どもに権利はない。

 その対を奪われて。

 その尊厳を奪われて。

 ただ泥の中に沈んでいくか。


 漆黒は告げる。

 人間よ、手を伸ばせ。

 お前たちには傲慢と強欲を許したのだから。

 それはお前たちだけが持つものなのだから。

 立ち上がらぬものに未来はない。

 浮かび上がろうとしないものに未来はない。

 手を伸ばせ。たとえその願いが傲慢だとしても。

 人間よ。

 人間よ。

 お前たちだけに、それを赦した。


 さあ、賽を砕けfractus est alea

 欲するものが、あるならば。

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