第31話 公園の地面に倒れる、元秘書とナイフ男。
ウーウー
付近に木霊するのはパトカーの近づくサイレン音。
面倒なことになる前、まずはこの場をトンズラしたいところであるが……
公園の地面に倒れる、元秘書とナイフ男。
脳死状態。地面に横たわり両目を開けたままピクリとも動かない元秘書。
そして四肢を粉砕骨折。さらには両足の腱を切断される重症にも、ナイフを手に「ぎぎぎ」俺を睨み地面をのたうち回るナイフ男。
このような猟奇的惨状。警察が到着したなら即座に非常線が張られる緊急事案。いったい誰が2人に危害を加えたのか? 犯人はどこへ行ったのか?
大勢の警官が動くのと同時、大挙して押し寄せるマスコミでテレビ報道が過熱するなら警察のメンツにも関わる重大事件。本気となった警察が全力捜査するなら、捜査の手は俺たちまで届くだろう。
哀れにも俺は逮捕。せっかく異世界から帰って来たというのに、今度は傷害犯となり少年院へ閉じ込められるというわけで……
それを避けるためにも、俺は地面に横たわる2人のうちナイフ男へ近寄ると。
「癒せ。神の奇跡。メジャーヒーリング」
ナイフ男の怪我を癒し治療する。
「ぎぎぎ」
自身の怪我が癒えたことから地面を起き上がるナイフ男。再び本能の赴くままに暴れ俺にナイフを突き立てようとするが。
「ふん」
俺はナイフ男に腹パン1発。
後は気絶するナイフ男を公園に残し立ち去るだけ。
公園に倒れるのが四肢を粉砕骨折、腱を切断されたナイフ男なら大事件。警察も大騒ぎとなるが、単に気絶しているだけならよくある日常。隣に倒れる元秘書にも外傷はないことから、ただの酔客としてそのまま引き上げるだろう。
何せ都会の警察は忙しい。現場に多少の不自然さがあろうとも事件性なしと判断されることは、稀によくあることである。
「ぎぎぎ」
だが、俺の腹パンにも意識のあるナイフ男。
やむなく、おまけに延髄に手刀を1発叩き込むが。
「ぎぎぎ……」
それでも気絶しないナイフ男。
いや。おそらく本人はすでに気絶しているのだろう。
氷香さんも意識のないまま俺に襲い掛かってきたことから、気絶してなお肉体だけが命令に従い動いているのが今の状態。
ウーウー
いよいよ近づくパトカーの音。
こうなっては仕方がない。
俺はナイフ男を捕えると、その身体の四肢の骨を外す。
「ぎぎぎ」
四肢を脱臼するナイフ男。地面を倒れたその後、起き上がろうと地面をのたうち回る。
となればこれで良し。
「氷香さん。マメチャン。高級タワーマンションに帰るぞ。ダッシュだ」
俺は元秘書から回収したインプラントを手に、1人と1匹をうながし公園を後にするのであった。
・
・
・
ウーウー
「えー。こちら喧嘩と通報のあった公園に到着。これより周囲を捜索します」
パトカーを降りる警官が2名。耳に聞こえるのは「ぎぎぎ」と何者かの唸る声。
通報は喧嘩であるが、周囲に暴れる物音は聞こえない。
すでに争いは終わり、怪我人が残されているのだろうかと懐中電灯を片手に公園を照らし見る。
光の輪に映るのは、地面に倒れる2人の男女。
「えー。男女2名が地面に倒れています。見る限り外傷は見られません。これより詳しく調べてみます」
無線で連絡した警官が1人。倒れるナイフ男を起こすべく近寄ったところ。
「ぎぎぎ」
途端に上体を起こしナイフを振り回すナイフ男。
のたうち回るうち、脱臼した四肢がはまり元に戻ったのだろう。立ち上がるとそのまま警官へ襲い掛かっていた。
「うわっ! おい! 貴様! 抵抗は止めろ!」
「えー。こちら〇〇公園。ナイフを手に男が暴れています。隣に倒れる女性はナイフ男に襲われ怪我しているかもしれません。至急、応援と救急車の手配をお願いします」
途端に騒がしくなる公園内。応援のパトカーが駆けつけ救急車が担架を用意し待機する。
そんな中、警官に囲まれようとも説得されようとも、口から意味不明の言葉を呟きナイフを振り回し暴れ続けるナイフ男。
「おいこら。お前! ええ加減に抵抗やめんかい!」
「もう撃ったらええやん? あかんの?」
「あかん。刺股や。刺股で抑えるんや!」
複数の刺股で抑え込んだ後、ナイフを取り上げ手錠をかける。
だが、手錠をかけられパトカーに押し込まれた後も「ぎぎぎ」と唸り暴れ続けるナイフ男の様子は、駆け付けたマスコミにより全国中継されていた。
「お嬢さん。もう大丈夫や」
「女性の方はまるで意識がないぞ?!」
「きっと暴れるナイフ男にやられたんや……」
「病院や。急げ!」
そうして意識のない元秘書は病院へ搬送されていったのであった。
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