第29話 「へっ。これが俺の超能力PSYマリオネットや!」
夜の公園。俺とマメチャンに相対するは、元秘書とナイフ男。
「ごごご」
さらには突然に俺の首を絞める氷香さん。
その目は虚ろに口は半開きに唸り声を上げるその状態。
「へっ。これが俺の超能力PSYマリオネットや!」
マリオネットとは操り人形。つまりは元秘書。他人を意のままに操る超能力を持つというのか?
だとしてもまさか氷香さんを操るとは……
「わんわん」
正気に戻そうというのか必死に吠えるマメチャンだが、氷香さんの意識は戻らない。
「ガキがマリオネットをぶっ壊すとは思わなかったが……へっ。ジジイ先生の娘が一緒でラッキーだったぜ」
俺の首に食い込む氷香さんの指。とても女性とは思えぬこの膂力。
人間の使える力は本来の2割から3割程度が限界という。力の100パーセントを使っては自分の身体が破壊されるため、脳のリミッターが力を抑制するというが……
「ごごご」
マリオネットにリミッターは必要ない。自身の身体が壊れるのもいとわず、力の100パーセントを解放したのがこの怪力の理由というわけだ。
「ガキが大人しく殺されとけ。お前が暴れてもジジイ先生の娘が怪我するだけやぞ?」
確かにここで俺が暴れては氷香さんが怪我をする。
だがまあ、怪我をさせないなら暴れても問題ないというわけで……
俺は首を絞めつける氷香さんの腕をつかみ取ると。
「ふん」
ポキリ。
両手首をへし折り、そのまま力任せに俺の首から引き剥がす。
「んなあああっ!? てめー! あっさり両腕をへし折るとか、ジジイ先生の娘に対する愛情はねーのか?!」
いったい何を誤解しているか知らないが、俺はフェミニスト。万が一にも女性の腕をへし折るなどありえない話である。
「癒せ。神の奇跡。メジャーヒーリング」
何故なら俺の詠唱する癒し魔法。へし折れたはずの氷香さんの腕は即座に元通り。怪我をなかったことに出来るのだから、俺が腕をへし折る事実もなくなったというわけで。
「な? なんじゃそれはああああ!?」
癒し魔法を目にした元秘書が盛大に驚く声を上げる。いくら今が夜で人気のない公園とはいえ、誰かが110番。近いうちに警察が駆けつけて来るだろう。
「まさかガキ……お前も超能力を? だが……操れねえ。どういうことだ?!」
元秘書は何やら俺に向けて腕を振るが、俺の身体に何の変化もない。
つまりはPSYマリオネットなどと大層なことを言うが、元秘書は誰でも彼でも操れるわけではない。操れる相手には何らかの条件が存在する。
そもそもが今晩、東堂先生宅であったヤク事件。
料理に入れたヤクで俺と母をハイに暴れさせるのが目的だったと言うが……他人を自由に操れるなら、ヤクを使わずともPSYマリオネットで俺と母を操れば良かったのだから。
だがまあ……そのような考察は後で良い。
俺は地面を蹴り瞬時に元秘書の眼前まで到達すると。
「ふん」
ドカーン。
「がぼお……!?」
腹パン1発。口からゲロを吐き出す元秘書は気絶し崩れ落ちる。
往々にして他人を操るといった能力。能力者本人が気を失うなら解除されるものと相場が決まっている。これで氷香さんも元に戻っただろう。
「わんわん」
だが、虚ろな目の氷香さん。吠えるマメチャンを捕まえようと今も暴れ続けていた。
そして四肢を粉砕骨折したナイフ男もまた、虚ろな目のまま地面を這いずり、俺たちを捕えようと動き続ける。
気絶してなおマリオネットは解除されない。
となれば、後は殺すというのが一般的解決方法となるわけだが……
21世紀の今、さすがにそれは短絡的。まずは拷問が先である。
俺は元秘書の四肢を動けなくしたその後。
「ふん」
ボカーン
「げぼお?!」
活を入れた元秘書が意識を取り戻す。
「元秘書よ。お前のPSYマリオネット。解除してもらおうか?」
「ぴーがー……ががが……」
だが、俺の尋問にも元秘書の口から発せられるのは意味不明な言語だけ。
どういうことだ? 殴った反動。どこか痛めたのだろうか?
ひとまず癒し魔法で元秘書の脳みそに異常がないかスキャンする。が……
「元秘書の脳みそ。氷香さんと同じ異物が存在するではないか?!」
しかも、まるで何かを受信するかのように震える脳の異物。
俺は元秘書の元を離れると、地面を這いずるナイフ男。その脳みそを癒し魔法でスキャンする。結果。
「ナイフ男の脳みそにも異物が存在するか……」
元秘書の場合と同じくブルブル微細に震える脳の異物。
「ごごご」
「ががが」
「ぎぎぎ」
氷香さん。元秘書。ナイフ男。3人一様に虚ろな目で意味不明な言葉を呟くその様子。全員が脳に異物が存在するとなると、これは偶然ではない。
氷香さんとナイフ男を操っていると思えた元秘書だが……
元秘書もまた何者かに操られている。そういうことだろうか?
だとするなら……最も怪しいのは3人に共通する症状。脳の異物である。
そしてこの脳の異物。以前、氷香さんに健康診断を受けてもらった際には、何の異常も見つからないと検査結果の返って来た、いわくつきの異物である。
はたして俺の癒しスキャンが正しいのか?
それとも21世紀の現代科学が正しいのか?
俺は地面に倒れる元秘書に近づくと、その手からナイフを取り上げる。
さらには頭を動かないよう抑え込んだその後、ズブリ。その脳みそへとナイフを差し込んだ。
「ぴーががが?」
何が起きたか分からないといった顔の元秘書だが、俺は差し込むままに脳みそにある異物を求めてナイフを動かしていく。
もちろん癒し魔法を詠唱したままの行為であり、元秘書の生命に問題はない。傍から見るなら痛く残酷にも思えるが、癒し魔法には麻酔としての快楽効果が含まれる。そのため痛みはなるでなく、逆に気持ち良いというわけで。
「ぴーががが……んほおお!」
元秘書が快楽に喘ぐ中、差し込むナイフは脳みその奥深く。硬質な物体に触れていた。
……やはり異物は存在したのだ。
そんな感慨にふける間もなく。バシューン。異物から発した電撃が元秘書の脳みそを駆け巡る。
これは?! 異物に触れたのに反応したのか?
つまりはブービートラップ。まるで爆弾解体にも似た仕組み。
これまで何とか俺の腕から逃れようと暴れる元秘書であったが、電撃の後、唸り声も含めてその動きは全て停止する。
これは……マズったな……
俺は手早く異物を取り出すと、全身の怪我を癒し魔法で治療する。
これで元秘書の全身、全て異常のない五体満足。今も胸は大きく上下し元気に呼吸しているのだから、じきに目を覚ますはずが……そのまま様子を見守るも元秘書は一向に目を覚まさない。
癒しスキャンで全身くまなく調べるも肉体に損傷は見つからず、生命活動に問題はないように思えるが……元秘書の脳はすでに死んでいた。
俺の癒し魔法はAランク。電撃の流れた脳みそも含めて全て元通りに治療したはずが……そんな俺であっても癒すことのできないのが、死である。
それは肉体だけではない。精神的な死であっても同じというわけで……
脳みその異物に触れた瞬間に発した電撃。
あの瞬間、元秘書の脳は死亡。植物人間となったのであった。
「……なみあみだぶつ」
元が俺と母の料理にヤクを混ぜ入れる出会いであった元秘書。さらにはナイフを振るい襲い掛かって来たのだから、例え死んだとしても自業自得。
それでも元秘書が脳死となった責任の一端は俺にもあるというわけで、軽く手を合わせたその後、俺は元秘書の脳みそから取り出した異物に目を向ける。
以前。氷香さんの脳を癒しスキャンして感知した異物の正体がこれであり、21世紀の現代科学。CTスキャンなどでは発見することのできなかった異物がこれである。
異物の直径は約1センチ。色は銀色。一見何かの金属片にも見えるが、科学的知識に乏しい俺に正体が分かるはずはない。
だとしても明らかに自然ではない人工物。インプラントとも呼ぶべきこの異物。
インプラントとは、人体に埋め込む器具の総称であり、歯に埋め込むデンタルインプラント。体内に埋め込む心臓ペースメーカーなどが存在する。
このようなインプラント。いったい誰が何の目的で元秘書の脳みそに埋め込んだのか? それも疑問であるが、インプラントの埋め込まれた人間は、この場に後2人存在する。
そして分かったことは、インプラントを外科手術で取り出そうとした場合、電撃により患者の脳は死亡する。
つまりは氷香さんの脳にあるインプラント。21世紀の現代医学では無傷のまま取り出すことは不可能ということである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます