第19話 病院での精密検査と結果が異なるのはどういうことでしょう?
「それよりです。お兄さんの癒し魔法が本物だとして、病院での精密検査と結果が異なるのはどういうことでしょう?」
結局、問題はそこになるわけで……
俺の癒しスキャンは東堂さんの脳みそに異物を感知している。
だが現代日本の最先端医療。CTスキャンやレントゲンといった精密検査では何の異常も見つからないという。
「末期ガンなどの際は本人には内緒に。家族にだけ本当の症状を伝えるというが……?」
「それは私も考慮しました。ですが、私の
となると検査結果は事実。だが現代日本の最先端機器で感知できない異物など存在するのだろうか……?
「参考までにですが……本当に私の脳に異物があった場合、お兄さんなら癒せるのですか……?」
「これまでの経験と俺の感覚から言うなら……おそらくは……」
「おそらくは……ですか。癒せるとは断言しないのですね」
これが異世界なら。東堂さんの精密検査の結果を聞く前であれば、俺は何のためらいもなく癒せると断言できただろう。
現代科学の存在しない異世界。癒し魔法でもって数多くの負傷者を癒してきたのが俺であり、自分の癒し魔法には絶対の自信がある。あったわけだが……
癒し魔法と精密検査の結果に齟齬がある今。俺が自分の癒し魔法に疑問を抱くのも仕方のない話。
異世界で2年を過ごしたといっても、それ以前。俺は現代日本で16年を過ごしているのだから現代科学に対する信奉もまた強く存在する。
「ですが現代日本に帰ってから。癒し魔法について自分の身体で確かめたと言いましたよね?」
「ああ。痛いのは嫌だが、俺の唯一の取り柄が癒し魔法。痛くとも確かめるしかない」
その結果。ここ現代日本でも癒し魔法が有効であると確認している。だからこそ、これまで猫さんや家族を相手に癒し魔法を使用してきたわけだが……
異世界で魔力を帯びた俺の身体と、魔力を有しない現代人の身体。
同じ癒し魔法を使ったとしても、100パーセント同じ効能が出るとは限らない。あらためてその可能性を思い知るにあたった今回の検査結果。
はたして正しいのは俺の魔法か?
それとも21世紀の現代科学か?
これ以上いくら俺の身体で癒し魔法を試そうとも、それはマウスを相手に動物実験するようなもの。そのまま現代人に適応できるとは限らないというわけで……今まで俺が癒してきたのは何だったのか? そう疑問に思わないでもない今日このごろ。みなさんいかがお過ごしでしょうか……
「はあ。仕方ないですね……」
そんな落ち込む俺の前。東堂さんは自分の腕を差し出した。
「症例不足だというなら治験するしかないでしょう。脳みそは困りますが、腕を少し傷つける程度なら協力します」
なるほど。動物実験に成功したなら、後に続くは人体実験。東堂さんの身体を、現代人の身体を用いて俺の癒し魔法を治験しろというわけで。
だとしても東堂さん。何故そこまで協力してくれるのか?
「お兄さんが自分の癒し魔法に疑問を抱くのは構いませんが、私は自分のPSYアナライズに自信を持っています。嘘を見抜くこの能力。子供のころからの付き合いですから」
嘘を見抜くというその能力。子供にとっては過ぎた力であり苦労もしたのだろうが、どこか誇らしげに語る東堂さん。
「私のPSYアナライズが、お兄さんの癒し魔法と浄化魔法は本物だと。そう言うのですから信じるしかありません」
つまりは東堂さん。俺が信じるお前を信じろではないが、PSYアナライズが信じるお前を信じろと。そういうことであるなら──
「分かった。そこまで言うなら東堂さんの脳の異物。今から俺の二重詠唱でもって……」
「あ。それは結構です」
「は?」
「実際のところ私の頭。特に何の自覚症状もない上、精密検査でも異常は見つかっていません。脳みそを削られても困りますので、このままで結構です」
おのれ。まるで信じていないではないか……
薄く皮膚を傷つける程度なら付き合うが、それ以上は御免こうむると。ありていに言うなら先っちょだけならOKといった所であるわけで……
それならこの機会。先っちょだけとはいえ、許可を得たなら逃すべきではないのがこの俺である。
「東堂さん。この同意書にサインを貰えるだろうか?」
俺は「私は癒し施術に同意します」と書かれた同意書を東堂さんに差し出した。
「何ですかこの書面は? また何かよからぬことを考えているのですか?」
よからぬも何も読んで字のとおり。元々が今日よりリラクゼーション部として活動を開始するにあたり、俺が事前に用意した同意書がこれである。
何せ現代日本はクレーム社会。もしも施術の後で効能が感じられないだの、キモ野郎に揉まれてキモイから訴えるなど、後になって苦情を言われても困るという。
「つまりは同意書にサインをしたなら、俺の揉みほぐし結果がどうであれ苦情は一切受け付けないと。そのための同意書がこれだ」
聞くところによれば、近年は男女の行為前にも性的同意書へのサインが必要というのだから、癒し施術の前に同意を貰うのは必須事項。
いや。別に揉みほぐしはリラクゼーション行為であって性的行為ではないからして俺にはまるで無関係であるのだが、癒し魔法を有する俺がもしも何かの間違いで逮捕されては人類世界の大損失。あってはならない非常事態というわけで、念には念を入れての同意書がこれである。
「ちなみにお兄さん。同意書にサインしたからといって、罪に問われないわけではありませんのでご注意ください」
マジかよ? 同意書にサインして何故に無罪放免とならないのか? とうとう出たわね。。。なメール本文では駄目というのか? これでは何の意味があるのか分からない同意書であるが……
サラサラと東堂さんのサインした同意書を俺は懐に納める。
本来、このような同意書……俺にとっては屈辱の証である。
自分の癒し魔法に絶対の自信があるなら、まるで必要のないこの書面。それでも癒し魔法に一抹の不安がある今、この書面がないことには揉みほぐしを行えないのが今の俺である。
「癒せ。神の奇跡。メジャーヒーリング」
俺は東堂さんの差し出す右腕。薄皮1枚をカッターナイフで切り取ると、癒し魔法を使い癒していく。
今はこの屈辱を懐に。リラクゼーション部の活動を通じて、癒し魔法の治験を重ねることが。癒し魔法に対する自信を取り戻すのが大切。
今後、もしも俺の前に大怪我をした者が現れた場合、自分の癒し魔法が信頼できないのでは見殺すことにもなりかねないのだから。
「んほおー! お兄さんの魔法。好きーーー」
しかし……どう見ても俺の癒し魔法。魔力を持たない現代人にも効果てきめんに思えるのだが……うーむ。
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