第11話 「ただいまー。ママ。今日もクラスの友達が一緒なんだけど?」

東堂さんと学校で分かれたその後、俺は自宅へ帰宅する。リビングでマメちゃん相手にくつろぐ最中。


「ただいまー。ママ。今日もクラスの友達が一緒なんだけど?」


「お邪魔します。朱音さんのクラスメイトで東堂 氷香とうどう ひょうかといいます。よろしくお願いします」


朱音は東堂さんを連れて帰宅した。


……なるほど。東堂さん。後で話すというのはこういうことか。


昨日は玄関で待っていた東堂さんであったが、慣れて来たのか今日はリビングにまでついて来ていた。


「あらあらまあまあ。いらっしゃい」


キッチンから顔を出した母は東堂さんを見ると。


「あら! 東堂さんのところのお嬢さんじゃない。お久しぶりです。お父さんには大層お世話になりました」


深々と頭を下げていた。


「えっ!? ママ。氷香のこと知ってるの?」


昨日の東堂さんは朱音の部屋へ直接移動したため、母とは顔を合わせていない。そのため気づかなかったのだろう。


「もちろんよ。ほら、都議会議員の東堂先生。ヒロくんの捜索でお世話になったでしょ?」


「えー!? 氷香って東堂先生の子だったの? だってアタシ先生としか会ったことなかったから……氷香も言ってくれれば良かったのに」


母の言葉に朱音は驚いたように東堂さんを振り返る。


「すみません。ですが父のやることで私は何の役にも立っていませんので。それで父ですが、お兄さん。いえ、比呂さんが無事に見つかり父も喜んでいました。ぜひ一度、顔を出してくれとも」


「あらまあ。そうですわね。今度ヒロくんを連れてぜひお礼に伺わせていただきますね」


どうやら俺が知らないだけで行方不明の間、東堂さんのお父さんにお世話になっていたようである。


「それじゃママ。アタシたち部屋で勉強するから」


「はーい。それじゃ今日は奮発したお茶を用意するわね」


2階へと移動する2人に続いて俺も階段を上がる。


「で? なんてアンタがここに居るのよ?」


朱音の部屋。その机の前に俺は座っていた。


「いや。勉強するというなら俺も一緒にしようかなと……」


そもそもが昨日も3人一緒に勉強したのだから、今日も一緒で問題ないのではないだろうか?


「はあ……見ればわかるでしょ? 友達と勉強するの。アンタは邪魔だからどっか行って?」


どすこい張り手で俺を押し出しにかかる朱音に対して。


「朱音さん。待ってください」


東堂さんは俺の隣へ。俺の腕を取ると。


「実は私とお兄さんは恋人になりました」


一言。衝撃の事実を告げるのであった。


「へ?」「へ?」


同時に間抜けな声を上げる俺と朱音。


「私とお兄さんは恋人になりました」


いやいや。同じことを2回も言わなくても聞こえている。というか、恋人関係は解消したのではなかったのだろうか?


「恋人? コイツと氷香が?」


「はい」


「いつ?」


「昨晩です」


「コイツが氷香を送って行った時?」


「はい」


それだけ聞くと朱音は俺に向き直る。


「……妹の友達に手を出すとか最低……信じらんないんだけど……?」


いつものように暴れるかと思われた朱音は、ただ見下すような冷たい目つきで俺を睨んでいた。


ヤバイ。これまでの冗談と異なるこの目つき。これってマジで怒っているのでは……


ひとまず朱音は置いて、隣で腕を取る東堂さんに向き直る。


「あの。東堂さん?」


「実は私は異性の方からよく告白されます」


いや……東堂さんの見た目は見てのとおりの清楚系美人。それは言われなくとも分かっているが……


「中学時代。それら告白の全てをお断りしていたところ、いつの間にか私は妙なあだ名で呼ばれるようになりました」


それが氷姫。


「言わせてもらえるなら、毎度毎度、告白をお断りするのも大変なもの。はっきり言って理不尽なあだ名と言わざるを得ません。そんな折、お兄様が私に言ったのです。例え偽物でも恋人がいるなら告白されることもなくなると。だから俺と付き合ってください。お願いしますと……」


なるほど。さすがは俺である。自分でも気づかないうちに、そのようなアドバイスをしていたとは……

いや。アドバイスは良いのだが、付き合ってください。お願いしますとは何なのか?


「……つまり、氷香は告白されるのが嫌で、恋人がいる振りをするってこと? 兄貴と氷香は本当は付き合っていない。偽の恋人ってこと?」


「はい」


「なんだ……びっくりした……もう、それならそうと先に言ってよね」


全くである。


「例え偽の恋人だとしても少しは仲良しを演じる必要があります。朱音さん。お兄さんも一緒に勉強しては駄目でしょうか?」


「あーうん。そっか、そうよね。もてすぎるってのも大変だもんね……分かったわ」


東堂さんと同じく目立つ外見をする朱音。東堂さんの言う告白を断る大変さに思い当たる節があるのだろう。了承する。


しかしまあ贅沢な悩みである。俺からすればもてて困ることはないように思えるが……世の中やばい奴も大勢いる。振られた逆恨みからストーカー事件に発展。最悪命にかかわることもあるのだから確かに大変か……


そんなこんなで1時間ほど3人一緒に勉強したころ。


「朱音ちゃーん。開けてくれる? お茶を持ってきたわよー」


母がお盆を手に部屋に入ってきた所で勉強は中断。ひとまずはお茶とお菓子で休憩とあいなっていた。


「うふふ。3人ともすっかり仲良しさんでママも嬉しいわ」


「わんわん」


母と一緒に付いて来たマメチャン。嬉しそうに3人の匂いをかいで回っていた。


「昨日も思いましたが、お兄さんは勉強が得意なのですね」


東堂さんは俺が広げる問題集。その書き込まれた回答を見てそう言った。


「まあ高校1年生は2回目だからな」


最も1回目は2ヶ月通っただけ。あまり関係はない。


「はい。お兄さんのやっている問題集は2学期分。まだ学校で習っていない部分をスラスラ回答していますから」


一瞬、見ただけでそれを判別したのだから、東堂さんも相当に頭が良いように思える。


「えっ!? アタシとコイツって同レベルだったはず……なんでよ?」


「いや。なんでよと言われても……勉強したからかな?」


勉強したのは事実。だが、俺が勉強を得意となったのは他に理由がある。


俺が2年間を過ごしたのは、レベルに応じて肉体、頭脳が成長する異世界ファンタジー。そして同年代の冒険者がレベル15前後となる中、俺のレベルは30。何せAランク冒険者だったのだから高いのも当然。


そんな卓越した能力そのまま現代日本に帰って来たのだから、俺が勉強を得意となるのも当然であった。


「さすがヒロくん! でも危ないわ……ヒロくんの頭脳を狙ってまた工作員が来たら……マメチャン、特訓よ。スクワットよ!」


「わんわん!」


母の言葉にマメチャンは4本足を曲げたり伸ばしたり。4つ足でのスクワットを繰り返す。


「お利口さんです……驚きました」


どこまで本気かは知らないが母は俺の護衛となるよう、日々マメチャンを特訓していた。


強い犬を目指すというなら最初からドーベルマンあたりを飼えば良いと思うのだが……まあ、可愛いから良いか。


結局その後、俺たちが休憩を終えるまでの間、母の指導によりずっとスクワットを繰り返したマメチャン。


「それじゃママたちは下に戻るわね。みんなお勉強がんばるのよ。マメチャン行くわよ」


わんわん母に続いて部屋を出ようとするマメチャン。最後に俺はマメチャンの頭に手をやり撫でてやる。


「マメチャン。おつかれ。また後でな」


「ハッハッ……わんわん!」


舌を出し荒い息をしていたマメチャンだったが、俺が撫でるだけで元気いっぱい。跳ねるように部屋を飛び出していった。


「……マメチャン。なんでかアタシよりコイツになついているのよね。アタシの方が付き合い長いのに……納得いかないわ」


平良家でマメチャンを飼い始めて約2年。俺とは出会ってまだ3か月。出会った当初は吠えられ噛みつかれたにも、現在、平良家でマメチャンが2番目になついている相手が俺である。


その理由は俺の癒し魔法。


言わずもがな癒し魔法には快楽を誘発させる副次効果があり、マメチャンを撫でる際、いつも癒し魔法を使っているのが原因であった。

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