第10話 リラクゼーション研究部

授業も終わり放課後。期末試験が近いとあってクラブ活動はお休み。多くの生徒が帰路につくなか、俺は職員室を訪れると担任の先生の元へ。入部申請書を提出する。


平良たいらくんもようやっとクラブを決めたかのう。どれどれ……リラクゼーション研究部? はて? このようなクラブあったかのう?」


「ありません。俺が創設者として新しくクラブを作ります」


俺の返事に初老の担任はやれやれと首に手をやった。


「ほんにのう……既存のクラブは嫌だの新しいクラブを作りたいだの、どうも最近の若者は協調性がなくていかんのう。伝統あるクラブに参加、上級生と下級生が一緒に活動することで、来たる社会生活における上下関係をいち早く体験することで……」


その後、担任の話がひと段落したところで俺は口を開く。


「先生のおっしゃることはごもっともだと思います。ですが、私たちがいずれ経験する社会生活はストレス社会と呼ばれるように、毎日の競争で心を病んだ人もたくさんいると聞きます。さらには高齢者が増えることにより孤独、病気、死への不安なども増しています。そんな時代だからこそ、心と身体の癒しを目的としたリラクゼーションが重要となるのではないか? 我々学生も自発的に学ぶ必要があるのではないか? などと愚行する次第であります」


街中を歩けばリラクゼーション、整体、鍼灸などと書かれた看板を多く見かけるのだから需要があるのは確かである。


「ふーむ。なかなかにもっともらしい理屈じゃがのう……クラブ設立には最低3人の部員が必要なのじゃ。分かっとるかのう?」


むむむ……無理である。


「それにじゃ。部員がそろったところで時期が時期だけに理事会の審査を通るかのう。何せ今年は娯楽部、遊戯部、オカルト部と3つも新規クラブが出来て予算を使い切ったと聞くからのう」


結局、俺の新クラブ設立。もう一度考え直すということで無念の退出となった。


「せんぱーい。新クラブの設立はどうなったっすかー?」


職員室を出た廊下。どこから現れたのか松田さんは俺の姿を見て近づいてきた。


「いや……最低でも部員が3人必要だと。人数を揃えた場合でも審査を通るのは難しいと言われた」


「ですよねー。やっぱり先輩はマスコミ部に入る運命ってことっすよ」


ニコニコ笑顔の松田さん。おのれ。俺に何らかのコネでもあれば新クラブ設立をゴリ押しできるものを……


などと俺たちが廊下で話す目の前。職員室のドアが開かれ1人の生徒が姿を現した。


「話は聞きました。私もリラクゼーション研究部に入部します」


「「へっ?」」


俺と松田さん。思わずハモッてしまったが……


「……いきなり誰かと思えば東堂さんか」


東堂さんも先生に用事があり職員室に来ていたという。そしてその際、俺が担任と話す内容。クラブ設立の話が聞こえてきたと。


「ええっ?! 先輩。東堂さんと知り合いなんすか?」


そんな話をする俺と東堂さんの姿に、何故か驚く松田さん。


「まあ……ね。松田さんも東堂さんのことを知っているのか?」


「知ってるも何も真清水中学の氷姫こおりひめって、美人で男嫌いでむっちゃ有名じゃないっすか」


氷姫って……いや、戦国時代じゃないんだから姫って……


ドスッ。


痛い。東堂さんのグーパンチが俺の腹にめり込んでいた。


「……いや。俺はまだ何も言っていないのだが?」


「言わなくてもお兄さんの顔を見れば分かります」


PSYサイアナライズ。いつものことではあるが東堂さん。また俺の思考を読み取っているな……


「えっ? お兄さん? ……東堂さんって先輩の妹だったんすか!?」


「もちろん違う。朱音の、妹のクラスメイトというだけだ」


「あー、それで。え? でもたったそれだけ? それで同じクラブに入るっすか?」


言われてみれば確かに……

昨日に会ったばかりでお互い特に親しいわけでもない東堂さん。困惑する俺の袖を引っ張り耳元に口を近づけ囁いた。


(お兄さんはリラクゼーションと称して治療魔法を使うのでしたよね?)


(癒し魔法だ。それで東堂さんはどうしてリラクゼーション研究部に入ろうと?)


(別にリラクゼーションに興味があるわけではありません。ただ、私の超能力はお兄さんに触れることで急成長しました。それを考えればお兄さんの近くにいるのが好都合と判断しただけです)


お互い秘密を知る者同士。行動を共にする方が都合は良いか……


「というわけで東堂さんはリラクゼーション研究部の一員となりました」

「よろしくお願いします」


「えーっ!? ちょっ待って待って。入部も何も先輩のクラブはまだ存在しないっすよ?」


新規クラブの立ち上げには最低3人必要。東堂さんを入れてもまだ2人。


「あと1人か……どこかに都合の良い人がいないものだろうか……ちらっ」


「いや先輩。そんなちらちら見ても私はマスコミ部っすから無理っすよ?」


マスコミとリラクゼーション。全く関係ないのだからさすがに無理か。


「いやー。それにしても他人を近づけない、特に男嫌いで有名な氷姫が先輩と同じクラブに入るってびっくりっすよ。あ、でもそれって中学時代の話だから今は違ったりするんすかね?」


東堂さん。他人の嘘に囲まれるのが嫌で他人を近づけなかったというが……おそらくは、それが氷姫というあだ名の由来。


「高校デビューってやつっすかね?」


すかね? など俺に聞かれても困るという。ただ、人間。誰しも1人では生きられない。超能力を成長させたいと言った彼女であるが、超能力だけでない。彼女自身もまた成長しようとしている。そういうことだろう。


「どうでもいいわ。それよりクラブのこと、また後で」


肝心の東堂さんはそれだけ告げると、あっという間にいなくなっていた。いや、後でと言われても一体どこで話すのだか……

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