第8話 ガングロ金髪山姥3人組。
比呂の通う江ノ山高等学校。その昼休み。
食堂に出かける者。購買に出かける者。友達同士が集まってお弁当を食べる者。それぞれが昼食をはじめるなか、俺は1人、自分の席でお弁当を机に置いていた。
専業主婦である母の作るお弁当。俺は小さくいただきますの後、お弁当の包みをほどいていく。
あらわれたのは2段弁当。1段目はてんこ盛りのご飯の上には炒り卵で黄色のハートマークがかたどられている。そして2段目はおかず。ウインナー。唐揚げ。ハンバーグ。焼肉。ミートボールなどなど。とてつもなく肉肉しい内容となっていた。
母いわく。拉致工作員と戦っても負けないよう、たくさんお肉を食べて体力をつけるようにとの配慮であるが……まるで野菜がないのは問題もの。これでは拉致の前に成人病で早死にしそうに思えるが……
まあ俺には治療魔法がある。高血圧だろうがコレステロールだろうが問題ないというわけで。
「ちょりーっす。
そんな声と同時に俺のお弁当からウインナーが1本、持ち去られていた。
「ぱくぱく。このウインナーいけるじゃーん」
「マジー? んじゃうちはこのミートボールいただきー」
「うぇーい。唐揚げもおいしそー。ぱくぱく」
あろうことか手づかみで俺のお弁当を漁るのは、ガングロ
「……その、なんだ。君たちはお弁当を持ってこなかったのか?」
「ちょりーっす。うちらはいつも購買だぜーい」
「うぇーい。今日はお目当てのパンが売り切れてたって感じー?」
「平良っちのお弁当の方がパンよりうまいじゃーん」
俺と話しながらも次々とおかずを口に放り込んでいくギャル3人組。
「売り切れは残念だが、あまり食べられては俺の分がなくなってしまうのだが……」
「うぇーい。困った時はお互い様って感じ?」
「平良っちがお弁当を忘れた時は、うちらが助けるから」
「今日はうちらを助けろーって感じ」
なるほど。助け合いというなら仕方がない。くわえて……
「うまぁーい。この焼肉マジうまっしょ?」
「お肉ばっかで最高じゃん」
「うぇうぇうぇーい」
高校生活を再開して以降いつも1人の昼食であったのだ。たまには賑やかなのも悪くないと、おかずをギャル3人組にまかせた俺はご飯を食べはじめる。
「もう! 3人とも。なに勝手に先輩のお弁当を食べてるんすかー!」
もりもりおかずを食べる3人組を見かねたのか、友達とお弁当を食べていた松田さんがやって来る。
「うぇーい。松田っちも食べとく?」
「ほんと? やったっす。じゃなくって先輩のお弁当っすからダメっす。しかも、もうおかずが空っぽじゃないっすか!」
さすがは育ち盛りの女子高生。あれだけの肉があっという間である。
「マジで?」
「やばいって。うちまだお腹へってる感じ?」
「うぇーい。そこにご飯があるじゃーん」
おかずの次は主食とばかり、ギャル3人組は俺が黙々と食べ続けるご飯に目をつける。
「……いやいや。さすがにご飯は無理だろう?」
何せお箸は1膳。今も俺が口に含むものだけである。
もちろん場所によっては手で食べる文化もあるが、ここは日本で高校の教室。女子高生が手づかみで食べるには無理がある。
「うぇーい。1膳あれば十分じゃーん」
「うちら全員で使いまわせばオッケーって感じ?」
「チョベリグっしょー。んじゃうちから」
言うが早いかギャルは俺の手からお箸を奪うと、ご飯を食べはじめていた。
「ええっ? ちょっ先輩のお箸まで?!」
うむむ……これは俗に言う間接キスというやつではないだろうか?
年頃の女子であれば男子との間接キスを嫌がりそうに思うのだが、さすがのギャル3人組。全く躊躇がないのだからたいしたものである。たぶん何も考えていないだけなのだろうが……
「うまーい。んじゃ残りは平良っちに任せるっしょ」
「うぇーい。お弁当のお礼は近いうちにって感じ?」
「うぇうぇうぇーい」
ギャル3人それぞれご飯をパクパクしたのち、満足したとばかりに、ご飯の残ったお弁当、そして口に入れた直後のお箸を俺に手渡し教室を出て行った。
やれやれ。間接キスなど不衛生なだけだというのに……お弁当を残したのでは母に失礼というもの。このまま食べるしかないというわけで……
「もう! 先輩はダメっすから! このままじゃ、か、か、間接キスに……」
俺が口に含む寸前、お箸は松田さんの手によって奪われる。
「はい。洗ってきたっすから、これを使うっす」
「あ、ああ……わざわざありがとう」
無念に思いながらも俺は受け取る綺麗なお箸で残る弁当をたいらげる。
「それで先輩。マスコミ部のこと考えてくれたっすか?」
「ん? 確か昨日に断ったと思ったのだが……」
「はいっす。それで今日、また勧誘に来たってわけっす」
断られた翌日すぐに来るとはなかなかの根性。なるほど、松田さん。マスコミに向いているのかもしれない。
「誘ってくれるのはありがたいが、、やはりマスコミ部はやめておく」
一生に一度の学生時代。マスコミ部で松田さん相手に愛情を育むのも魅力的であるが……
「俺は新しくクラブを設立する」
俺には別の考えがあるのであった。
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