第7話 「普通の人間に超能力は使えません。つまり私は宇宙人です」

相手の嘘を見抜く力を持つという東堂さん。

嘘か本当か? どちらにせよ俺にここまでプレッシャーをかけるのだから、なかなかに見事なものである。


「……やれやれ。一体全体どうして東堂さんが俺に興味を持つのか知らないが、俺は何も覚えていないと言っているのだから、これ以上に答えることは何もない。そして、仮に俺が超能力を使えたとしても……いや、俺は使えないけどね? 今日知り合ったばかりの東堂さんに話すはずがない」


「そうですね。どうあっても答えないという固い意思は分かりました」


分かってもらえたようで何より。


「それならここから先の話題。高校生らしくナウい話題で盛り上がるとしようぜ! うえーい」


わんわん勢いよく進もうとするマメちゃんのリードを抑え、俺は東堂さんと足並みをそろえて歩く。


「ナウい話題ですか……それでは私は自分語りをしてみたいと思います」


青少年の主張というやつだろうか? ナウい話題なのかどうか疑問に思うが……


「いいねえ。俺も東堂さんのことを知りたいと思っていたところっしょ?」


モテル男は聞き上手という。よってここは黙って聞き耳を立てる場面。


「私は自分の超能力についてよく考えます。どうして私は他人の嘘が分かるのだろうと。私は他人と何が違うのだろうと」


「便利で良いんじゃない? そんな深く考えることじゃないっしょ?」


「嘘が分かるというのは良いことばかりではありません。これまで友達だと思っていた人たちが、実は私を嫌っていたと分かるなど日常茶飯事です」


なんだろう……全然ナウくない重い話題。仕方がないとばかり俺はナウい話題へ方向転換する。


「そんなことより明日の天気は雨らしいぜ? いやー、まいったね。もう7月になったってのに梅雨明け宣言が来ないねえ」


困ったときは天気の話題に限るというもの。ボキャブラリーのない俺でも安心安全に女子と会話できる優れた手法であるが……


「まだ幼かった私は他人の嘘に耐えられず、他人との間に壁を作りました。結果、親しかったはずの友達とはみんな疎遠になり、いつの間にか私は1人きり。友達もいない寂しい中学生活を送ることになりました」


しかしながら天気の話題をスルーし話を続ける東堂さん。


何故だ……俺が神隠しとなった2年間。天気の話題はナウい話題でなくなったのだろうか?


「2年前どころか昔から詰まらない話題の代表です。それよりです。私が他人と異なるのは、きっと宇宙人だからだと私は結論付けました」


いやいや宇宙人って……どう考えたらそういう結論になるのだろうか? 怪しいUFO番組でも見たのだろうか? 


「普通の人間に超能力は使えません。つまり私は宇宙人。これが論理的思考に基づいて導き出された結論です」


テレビなどでよく言われる宇宙人の特徴といえば、大きな頭部に大きな黒目。全身が灰色となるグレイと呼ばれる種族であるが……


隣を歩く東堂さんの外見。どう見ても宇宙人ではない。


「そもそも超能力が使えるだけで宇宙人とはならないだろう? テレビ番組でもよく超能力の実演をやっているが、誰も自分を宇宙人とは言っていないぞ?」


「あれは嘘です。超能力番組は欠かさず見ていますが、全て嘘でした」


TV越しでも嘘だと分かるのだろうか? しかし東堂さん。あのように嘘くさい番組を全て見ているとは案外に可愛いところもあるようで。


「ですが今日、お兄さんを見て話すうちに不思議な感覚を覚えました。何かは分かりませんが、お兄さんには何かがあると私の直感が告げています。つまりお兄さんは私と同じ存在……宇宙人なのではないか? と」


どうりで初対面にもグイグイ来ると思えば、そういった魂胆があったという理由で……


だが、東堂さんは自分の超能力を相手の嘘が分かる能力だと言っていた。だとするなら俺を見て不思議な感覚を覚えたというのもおかしな話。もしかしたら東堂さんの言う超能力。相手の嘘が分かる以外にも何かあるのではないだろうか?


「その後、お兄さんの匂いをかいで、私の推論は確信に変わりました」


東堂さんの話を聞くうち、俺には1つ思い当たることがあった。


それは異世界において、鑑定と呼ばれる魔法。


もしかしてだが東堂さんの超能力。嘘を見抜くだけではない。鑑定に該当する能力ではないだろうか?


「そういえばシャワーを浴びたというのは嘘でしたね。石鹸の匂いがしたのはどうしてでしょう?」


超能力から話題を変えたはずが、結局はこういう話に戻って来るというわけで……


「……デオドラントスプレーだ。もてる男子高校生の必需品だからな」


「嘘ですが、まあ良いでしょう。できれば匂いに加えて、お兄さんを舐めてみればもう少し何か分かりそうなのですが……」


鑑定魔法の発動は相手を見る。かぐ。触る。舐める。食べる。とあり、後になるほど鑑定精度が上昇するという。朱音の部屋で俺を舐めようとしたのも、無意識ながらに鑑定を発動しようとしたのだろうか?


だとするなら舐められるわけにはいかない。

もしも東堂さん。本当に鑑定魔法が使えるなら、俺の正体を鑑定されかねない危険がある。


だが、ここで美少女JKから舐められることを拒否しては、健全たる男子高校生として不自然極まる異常事態。俺に対する疑いがますます強くなるだけとなれば……これしかないか。


「ぐへへ。今からでも舐めてみるかい? なんならディープキスでお互いを舐めあおうぜ? ぐへへ」


やむをえず変質者を装い下品な答えを返すが……


「嘘ですね。お兄さんは私に舐められたくないと思っています。ですが……おかしいですね。変態のお兄さんが舐められたくないなんて……」


俺の嘘はあっさり見抜かれていた。


「何か私に舐められて不都合があるのでしょうか?」


「あるに決まっている。知り合ったばかりの相手を舐めるなど変態の、いや犯罪者のする行為。俺は東堂さんを犯罪者にしたくない。それだけだ」


「犯罪者にしたくないというのは本当ですが、それ以外は嘘ですね。ですが困りました。嫌がるお兄さんを無理やり舐めるわけにもいきません」


「やはりそういった行為は恋人同士でやるのが良いと思うわけで……それだけだぞ?」


「分かりました。それでは恋人同士になりましょう」


「……マジで?」


「マジです。お兄さんと恋人同士なんて心底嫌ですが、お兄さんを舐めることで私の力が何か分かるなら仕方ありません」


彼女いない歴18年。遂に俺にも春が訪れた……などと喜んでいられるはずもない。これはあきらかに下心あってのこと。


「いやいや。そうまでして舐めたいというのはヤバイのではないか? そもそも恋人同士になるということはアレもやるのだぞ? なんといっても俺はやりたい盛りの高校生。当然やるが良いのか?」


「構いません。誰しもいずれは経験することです」


俺は草食系。決してやりたいわけではないが……よくよく考えれば東堂さんに俺の情報。魔法が使えるとバレて困ることはあるのだろうか?


俺の魔法が警察などの公的機関にバレた場合、俺は囚われモルモット。生涯自由を奪われ困ったことになるのに間違いはない。


だが、もしも東堂さんが超能力を使えるなら、その立場は俺と同じ。人間嘘発見器としての超能力を研究、解剖されるモルモットとなるだろう。


つまりは本当に東堂さんが鑑定魔法を使える場合、俺の情報を他人に話すことは自分をも危うくする行為。他人に話すことはないというわけで、俺は労せずして美少女JK恋人を得て、晴れてDT卒業となるわけだ。


そして東堂さんが鑑定魔法など使えない。他人の嘘を見破れると自称する少々頭の怪しい少女であった場合。俺はただ美少女JKの話す可愛い嘘を愛でながら晴れてDT卒業するだけ。


つまりはどちらに転んでも俺が損することはない。というより得しかないこの提案。苦節18年。少々寂しい気もするが、いよいよDTともおさらばというわけで……


「えーと、ふつつかものですが、よろしくお願いします」


俺は立ち止まると軽く頭を下げ、東堂さんに向けて右手を差し出した。


差し出された右手をちゅうちょなく手に取る東堂さん。強くその手を握りしめる。その瞬間。


「……なるほど。分かりました。別れましょう。恋人関係は破局です」


「……は?」


言うが早いか東堂さんは握手を取りやめ、その右手を引き抜いた。


「平良 比呂。18歳。レベル30。能力は治療魔法Aランク、浄化魔法Aランク。これが今の握手で分かったお兄さんのステータスです」


「は?」


まさか……本当に鑑定魔法を?

今の握手で俺のステータスを鑑定したというのか?


「あの、東堂さん……接吻は?」


「変態ですか? もう恋人ではないのですから当然ありません。お兄さんと握手したその瞬間、私自身の能力も判明しました。LV8。能力はPSYサイアナライズ Cランク。どうやら嘘が分かるだけではなかったようですね」


これまでは相手の嘘が分かるだけ。自分の能力が何なのかも分からなかったはずが……


魔法は使えば使うほど経験を得てランクアップする。


先ほどの握手。高LVの俺を相手に魔法を使用したことで多くの経験を獲得。ランクが上昇したことで新たな能力に目覚めたということか?


「さあ、お兄さん。早く行きましょう。あ、マメチャンのリードは私が持ちます」


「わんわん」


俺の手からリードを抜き取る東堂さん。マメチャンを連れてさっさと歩き出していた。


「マジかよ……俺のDT卒業が……いや、せめて接吻だけでも……」


怪しい言葉を口に、俺はとぼとぼその後に続き歩くのであった。

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