第6話 まさか本当に超能力を使えるとでも言うのか?

比呂の行うコイントス。その表裏について東堂さんは10回連続で正答する。


コインの表裏を10回連続で正答する確率は1024分の1。約0.098パーセント。


……これはあながち出鱈目というには厳しい確率。東堂さん。まさか本当に超能力を使えるとでも言うのか?


「超能力を信じていただけたところで、お兄さんのいかがわしい噂に戻りましょう。私の質問に答えてください」


「いや、東堂さんの超能力が嘘か本当かはともかく、人にはあまり聞かれたくないことが色々あるわけでだな……プライバシーの侵害がうんぬんかんぬんで……」


「お兄さんは行方不明の間のことは何も覚えていないのですか?」


「ああ。それは記憶喪失というやつでだな……」


「言ったそばから、いきなり嘘ですね。本当は覚えています」


……確かに嘘だが、彼女は俺の答えの何を判断して嘘だと言っているのだろう?


例え嘘を口にしようと俺の精神状態に変化はない。よってこれは東堂さんのブラフ。いわゆる誘導尋問である。であれば、そのような誘導に惑わされる俺ではない。


「お兄さんの2年間の行方不明についてですが……単純な家出ですか?」


「いや」


「北に拉致されていたのですか?」


「いや」


「UFOによるアブダクション?」


「いや」


「では、やはり女性の元で飼われていたのですか?」


「ありえない」


やはりとは何だ? 一番可能性が低い質問に思えるのだが?


「嘘はついていないようですが……困りました。これではお兄さんが、女性に飼われていた変態であるという前提が崩れてしまいます」


「そもそも俺は変態ではないわけで、その前提がおかしいと思うのだが?」


「良かった。それは嘘です。やはり変態でしたね」


本当に嘘を見抜いているのだろうか? 単に自分に都合の悪い答えを嘘と判定しているだけに思えるが……コインの表裏を連続で正答したのは事実である。


「そもそもが本当に相手の嘘を見抜けるのであれば、これまでの会話で。朱音の部屋での会話で、俺が女性に囚われていたわけではないと分かるはずだが?」


「はい。それは分かっていました」


「……その割には、ずいぶんとからかわれた気がするのだが?」


「でも、喜んでいましたよね?」


「……いや。喜んでなどいない」


「嘘です。やはり、お兄さんは変態のMというわけです」


確かに東堂さんのような美少女にからかわれるなら、嫌ではない。むしろ嬉しいわけだが……何故にそれがバレているのか? 本当に超能力としか言いようのないこの現象。


「結論が出たところで、お兄さん。この2年間は何をされていたのですか?」


いったい何の結論が出たのかは不明だが。


「神隠しだ。警察の捜査でも何の証拠も見つかっていない」


「……驚きました。本当です。ですが……神隠しというのは非常識すぎませんか?」


どうやら神隠しは信じるようである。


「それを言うなら東堂さんの言う、嘘が分かる超能力の方が非常識に思えるが?」


もっとも本当にそんな超能力があるならだが……待てよ?

異世界における魔法……もしも令和日本で使えるなら、それは超能力と言える能力になるのではないだろうか?


「……これも嘘。お兄さんは超能力は非常識ではない。存在すると考えています」


……確かに先ほどの思い付き以降。今の俺は超能力があっても不思議はないと考えている。


何故なら俺の魔法が地球でも使えるのだ。俺と同じように魔法を使う者が他にいても不思議はないわけで……


「もしかしてとは思いましたが……お兄さんも超能力が使えるのですか?」


「……いや」


俺が使うのは魔法。超能力ではないから嘘ではない。


「やっぱり嘘……お兄さんも超能力が使えるんですね。どのような能力ですか?」


なぜだ……俺が使うのは魔法だというのに……


「いったい何を隠しているのです? 神隠しと超能力に関係があるのですか?」


「待ってくれ。隠し事など大なり小なり誰にでもあること。神隠しとも超能力とも何の関係もない」


「嘘です。つまり神隠しと超能力には関係があると。それは何ですか?」


残念ながら俺の訴えはことごとく無視される今。ことこうなっては仕方がない。


「分かった。俺の隠しごとはアレだ。実はベッドの下にエロイ本を隠していることだ。すまないが朱音には黙っていてほしい」


屈辱ながらも俺は嘘偽りのない隠しごとを明かしてみせるが。


「健全な男子とはそういうものと聞きますので、それは構いません。それで、お兄さんは話をそらそうとしていますね? つまりは神隠しと超能力に関して隠していることがあると認めるわけですね?」


俺の放つ渾身のセクハラにも東堂さんの追及は止まらない。


だが、ここまでの会話で分かったこと。それは東堂さんのいう超能力が本当だとしても、俺の話す内容が嘘か本当か分かる程度ということ。


つまりは俺が何も話さなければ嘘か本当かは分からず、隠している内容を知られることもない。


「……」


「そうですか……黙秘権ですか。私の問いに答えなければ嘘だと見抜かれることもないと。そういうわけですね?」


「いや。マメチャンがうんこをしたいようだから、スコップの準備をしようと考えているだけだ」


「私は相手の顔を見るだけで嘘か本当か分かります。そして今の答えは嘘です。お兄さんはマメチャンのうんこの始末を考えていたわけではありません」


「わんわん!」


「マメチャンもまだうんこ出ないと抗議しています」


もしかして犬の言葉も分かるのだろうか? いや。これもブラフなのだろうが……俺にここまでプレッシャーをかけるとは東堂さん。ただのJKに見えてなかなかに見事なものである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る