第224話 最終話拡大版 さらばフローラル連邦国

 「陽葵様が行方不明ですって?」


 父の葬儀を済ませたあさひがガーベラ王国に戻るととんでもない知らせが待っていた。


 あさひもまたフライングオートマタ飛躍をグエンの工房にメンテナンスに出していたため情報が遅れた。


 まさか世界が平定された後にこんな問題が発生するとは夢にも思わなかったからだ。


 コフェン、ラウンズ十二神将、飛躍、完全にパーツごとに分解清掃し、波動エネルギーを充填するため少なくとも1週間は動かせない。


 虎人を隊長とする親衛隊の必死の捜査で陽葵の足取りを追ったがもぐらインペリアルホテルの1107階に入室したあと忽然こつぜんと消えてしまったのだ。

 部屋からは誰も出た形跡はなく、コフェンもフェンリルも関わっていないことから密室失踪しっそう事件の様相を呈してきた。


****


 陸斗と亜希子はあらかじめ場所を特定しておいた魔洞窟を探し当て、入り口に近づく。


 「おや、またお客さんかい。」


 その人がつぶやいた。


 「少し前に大勢の人がこの洞窟の奥から現れませんでしたか?わたしたちはその仲間なのです。」


 「おお、あの賑やかな人たちか、しかし、一人を除いて帰ってしまったな。」


 「あなたは?」


 「よくわからない、わたしはずっと昔からここにいて星を見ています。」


 「お名前は何とおっしゃいますか?」


 「わからない、ただここにいるだけなんだ、邪魔はしないから自由に通ってくれ。」


 「そうさせてもらいます。」


 陸斗が先頭で洞窟に入ろうとする、陸斗の左手が洞窟に入った瞬間!黒い手袋が弾け飛び粉々に砕けて散った。


 凄まじいエネルギー波であった、並の人間なら身体全体が弾け飛んでいただろう。


 「亜希子さん!危ない!下がって!」


 陸斗は反射的に後ろに飛び、亜希子を突き倒した。


 「おや、おまえさん、るね、あの人みたいだ。」


 「あの人とは?」


 「賑やかなお友達の一人さ、一人だけ帰らなかった人がいてね、その人に似ているね。」


 陸斗は直感的に父の弾丸ダンだと感じた、そしてそれは間違いないだろう。


 「その人はどこへ行かれたのですか?」


 「わからない、ただ、銀のちょんまげをつけ、全身赤と銀の素っ裸になって空に飛んでいった。」


 二人は顔を見合わせた、全く意味不明である。


 「そうですか、ありがとうございます。」


 陸斗と亜希子はとにかく弾丸ダンを捜索することにした。


****

 陽葵は高い塔に向かってまっすぐに空を駆けた。


 体力には自信があったが、フルマラソン並みの距離である、また、地上に一度降りることも考えたが、1107階のビルがくっつく塔である。

 その高さは一階あたり3〜5メートルとして確実に富士山を越える高さである。

 一度地上に降りてしまえばおそらく余計に体力を削られることになるだろう、といって、うっかり転落しても受け止めてくれるフェンリルさんも、コフェンもラウンズ十二神将も誰もいないのだ、数千メートルの高さから落下することは確実な死を意味する。


 そこそこ令嬢の陽葵でもそのあたりは理解していた。


 しかし、最近は総帥の事務仕事も多く、体力はピーク時には及ばないだろう。


 勢いで飛び出してきたものの、だんだんと心細くなってきた。

 何といってもまだ13歳の少女なのである、まだ半分、20キロメートルほど空を駆けたところでもう心が折れそうであった。


 頑張れ!陽葵ちゃん!

 (作者の心の声)


 あ、足場踏み外して落ちた、、、

****


 諸星弾丸セブンは暗くなるのを待ってブラックビュートの街から舞い上がった。


 目的地のガーベラ王国は高い塔が目印なのでわかりやすい。


 距離にして40キロくらいか、最大マッハ7で飛行できるセブンにとってはあっという間の距離だった。


 その途中、諸星弾丸セブンは不思議な光景を目にした、静まり返る空にシャンシャンシャンシャン音を立て、キラキラと氷の粉と汗を振り撒きながら空を疾走するドレス姿の少女がいた。

 第五惑星にはいくつもの月があるのだが、その月の光に照らされておとぎ話のような光景となっている、諸星弾丸セブンは少し速度を落として並飛行する。


 少し見惚れていたのだが、よく見るとイメージは変わっているが、最重要保護対象者ではないか!つまり川嵜四郎氏の孫娘、川嵜陽葵かわさきひなである。


 そうこうしているうちに陽葵が足場を踏み外して落ちた。


 諸星弾丸セブンは最大速度で飛び、陽葵が地上に激突する直前にそっと受け止めた。

 陽葵は気を失っているようだ、とにかく早くガーベラ王国に行って適切な治療を行わなければならない。

 諸星弾丸セブンは陽葵が風の影響を受けないように注意して加速した。


****

 足を踏み外して落下する陽葵は死を覚悟した。

 ここにはフェンリルさんも、コフェンも、もふバスも、ラウンズ十二神将も、あさひも陸斗もいないのだ。

 

 「ママ、ごめんね、陽葵はもうダメそうです、陸斗さん、もう一度会いたかったな、あさひちゃん、あさひちゃん、陽葵ひまりちゃん、フェンリルのお話できなかったね、ごめんね、アリスおばさん、王子様たち、公爵夫人、いろんな人といろいろ楽しかったな。」


 陽葵は頭から地表に落下しながら本当に久しぶりに涙をボロボロこぼした。


 そうして陽葵は気を失った。

 

****


 10月王国の勝手がわからない諸星弾丸セブンはとりあえずそのあたりで一番立派な館に連れて行った。

 目立たないところで着地し、人間の姿に戻ってから正面の扉に入った。


 中に入ると人がごった返していた。

 とりあえず一番位の高そうな青年将校に声をかける。


 「お忙しいところ申し訳ありません、急患なんです、医務室で手当てお願いします。」


 「うるさいな、ここは病院じゃない!忙しいんだ他所へ行け!」


 青年将校は振り返りもせずに追い払おうとした。


 本当に忙しそうなのでダンは諦めて他を当たろうとした時に貴族と思しき貴婦人が声をかけてきた。


 「陽葵さん?陽葵さんじゃないの!ちょっとガーベラ王子殿下!陽葵さんだわ!」


 叫んだのはトレメイン侯爵夫人だった。


 さっきの青年将校はガーベラ王子だったようだ。

 周囲の群衆が陽葵の周りに押しかける。


 「すみません!まずは医務室へお願いします!」


 「何をしている!王宮から典医を呼べ!いますぐにだ!」


 屋敷から陽葵の執事が飛び出してきて館の陽葵の部屋に運び込む。

 

 早馬を飛ばした伝令は20分ほどで典医3人の乗った馬車を陽葵の館に到着させた、おそらく史上最高タイムである。


 「王子殿下、陽葵さまは脈が早く、疲労の極限にあるようですが、命に別条はありません、しっかり休息されれば大丈夫です。」


 ガーベラ王子はヘナヘナと脇のソファに座り込んだ。最近そのパターンが多いな。


 ガーベラ王子は諸星弾丸ダンのほうに振り返り、話しかけた。


 「あなたには陽葵さんを助けていただいたお礼を言うべきですかな?」


 「申し遅れました、私は諸星弾丸一等陸佐であります、まあ、地上部隊の将軍あたりだと思っていただければ結構です。」


 「モロボシ?もしやリクト殿は?」


 「はい、我が息子です。」


 「そうでしたか、事情をお聞きしても?」


 「わたしは別件で巨人国を訪問していたのですが、偶然空駆ける陽葵さんを見つけ、力尽きて途中落下してしまったので慌てて受け止めて運んだ次第です、事情は陽葵さんが目を覚ましてからお聞きいただいたほうがよろしいでしょう、それ以上のことはわたしも存じ上げません。」

 

 「そうですね、リクト殿と亜希子殿は魔洞窟の調査に向かったようです、あなた様とは入れ違いになったようですね。」


 「そうでしたか。ご親切に痛み入ります。」


 ****

 翌日、陽葵が籠を壊して逃げたことに気がついたセレオラは激しい癇癪かんしゃくを起こしていた。

 「陽葵ちゃん、簡単に逃げたじゃない!スネオラはやっぱり返すつもりなんでなかったんだ!スネオラなんて大嫌い嫌い嫌い!」


 とばっちりを受けたのはスネオラである。


 せっかく良かれと思ってヒナを持って行ったのに全くの逆効果となった。


 生命維持装置ドラゴンパレスの周辺でたくさん珍しいトカゲを集めていたのにそれも一匹もいなくなっている。


 スネオラも癇癪かんしゃくを起こしてフローラル連邦国の生命維持装置ドラゴンパレスをはらいせに蹴り倒して破壊してしまった。

 執事のサーベントは心の中で大きなため息をつきながら、シーフォールド商会に交換用生命維持装置ドラゴンパレスを発注した。

 まあ、実質的にスネオラはこの豪華サムシティセットのお世話はしておらず、執事のサーベントが主に管理をしていた。

 おかげでフローラル連邦国1000万人は命拾いすることになるのだが、ほとんどの国民はそんなことには気がつかないだろう。

****


 陸斗と亜希子は魔洞窟を離れてヘブンズドラゴン川のほとりを探索する。


 そして異変に気がついた。


 ヘブンズドラゴンリバーの水位が異常に低下しているのである。


 二人は少し前に何かが崩れるような轟音ごうおんと地鳴り、地震も感じていた、そのせいだろうか?地球の常識は通用しないことは理解している二人は何とも言えない不安感を感じていた。


 「見て!あれ何かしら?」


 「行ってみよう。」


 ヘブンズドラゴンリバーの水位が異常低下したことで、石畳いしだたみの構造物が姿を現していた。


 もう構造物はすでに乾燥して普通に歩ける、その向こうに伝説の「ノアの方舟はこぶね」を連想させる船らしきものが船着場らしき構造物に接岸せつがんしていた。


 海藻類にびっしり覆われた船だがかなり巨大な船である。


 陸斗と亜希子は周囲を調べて回る。


 一部だけ周りと印象の違う部分があった、陸斗と亜希子は必死で海藻類をかき落とす。


 そこにはわずかに発光している石板があった、しかし押したり叩いたりしてみたが反応はない。


 陸斗は何を思ったか匂いを嗅ぎ、ペロリと舐めてみた。


 すると突然船全体が轟音と共に起動した。


 「〆々¥〆*€」


 何か言葉が発せられたような気がしたが理解できない言語だった。


 程なくして人が入れる大きさの扉が開いた!


 ※以前に陸斗の体液が付着ふちゃくした衣服をヘブンズドラゴンリバーに投げ捨てたことで海底の方舟に取り込まれ、マスター登録されたものと推測される。(第190話参照)


****


 「な様、陽葵さま!」


 陽葵は誰かの呼びかけでやっと目を覚ます。

 そこにはあさひがいた。


 「あさひちゃんおはよう、もう朝なの?」


 「陽葵さま!陽葵さま!あなたは二日も眠っていたのですよ、目が覚めて本当に良かった。」


 あさひはベッドの陽葵にしっかりと抱きつく。


 「えーっと、ワタシ死んだんだっけ?」


 陽葵はまだ寝ぼけているようだ。


 「落下して死にかけたところを陸斗さんのお父様に助けられたのですよ。」


 陽葵はやっと事情を把握はあくした。

 そうか、足場を踏み外して転落したんだ、そして助けられたんだワタシ。


 ここまでくると陽葵の強運はそこそこ令嬢の域を超えたと言ってもいいだろう。


 「良かったー陽葵さんー!」

 そのさらに横に控えていたガーベラ王子は威厳も何も打ち捨てて鼻水を垂らして泣きながら陽葵の手をしっかりと握った。


 「そうだ、あさひちゃん、もぐらホールディングスの総帥、引き継いでくれないかしら?」


 陽葵は事務処理で体力が落ちたことで死にかけたのだ、本気でもう書類仕事が嫌になった。

 あさひは断る理由もなく、快く総帥職を引き受けた。

 あさひの実務処理能力ならおそらくそつなくこなしてくれることだろう。


 その財力を活かしてモントレー家を再興するのはまた別のお話で。


****


 陸斗と亜希子が船の中に入ると目まぐるしく点滅を繰り返した後、日本語でアナウンスをするようになった。


 「マスターの乗船を確認、これより造船ぞうせんシーケンスを開始します、設計思想せっけいしそうからご指示ください。」


 「指示っていったい、俺は造船の知識などないぞ。」


 「基本構造はオートで建造されます、マスターはが自分の思う形状や構造をイメージするだけでokです、どのような要望にも合わせて変化させます。」


 そういっている間にもどんどん変形が進む。


 「そうはいってもだな、俺が詳しいのはアニメの宇宙戦艦ヤマトの構造くらいだぞ、それなら細かいディテールまでわかる。」


 「マスターがご希望ならそれでも構いません、マスターのイメージにある波動エンジンというものを高速開発して搭載します。」


 「陸斗さん!ヤマトホテル!」

 亜希子がアドバイスをする。


 「そうだった、居住区を立派にして、温泉もつけ、スポーツ施設やゲームセンターも、、」


 亜希子が一瞬睨むにらむ


 陸斗は思いつく限りの豪華設備をイメージした、ノアの方舟はみるみるうちにの宇宙戦艦ヤマトへと変化していった。


****

ヘブンズドラゴンリバーが一時的にかれたことで国民はパニックになりかけたが、すでに陽葵のアイデアでペットボトル飲料がもぐらホールディングスから大量に製造販売されており、工場の在庫を放出することで急場きゅうば凌ぎしのぎ切った。


 程なくして新しいドラゴンパレスが設置されたようでヘブンズドラゴンリバーの水位は通常にまで回復した。


****


 そんな中、フローラル連邦国を震撼しんかんさせる事態が起こる。


 見たこともない巨大な戦艦せんかんがガーベラ王国にゆっくり接近してきたのである。


 しかし、陽葵と諸星弾丸がよく知っている船であった。


 ****


 一ヶ月後。


 諸星弾丸と陸斗、東村亜希子、そして陽葵が地球に帰る日がきた。


 12カ国の王子全員が周りを気にせず泣き、バートン公爵夫人とトレメイン侯爵夫人も別れを惜しんだ。

 

 野鼠人のアリスおばさんは半月前に寿命をまっとうして亡くなった、最後を看取ることができたのは本当に良かった。


 サラちゃんも巨人のスネオラから無理やり取り返して戻ってきた。


 虎人さん、鷹人さん、倉鼠人さんとは最後にしっかりもふもふしてきた。


 グエンさん、マリアさんも先週結婚した、グエンさんは尻に敷かれそうだ。

 フェンリルさんはそのまま氷の巫女マリアに仕えるそう。

 フェンリルさんが女性だったのには驚いたわ。


 戦争では何十万人も亡くなったけど、その中の何百人かは私の手術で救うこともできた。

 明石に帰ったらお医者さんになりたいな。

 新しい目標もできた。


 異世界に転落してからいろんなことがあった。

 泣き虫のそこそこ令嬢は強くなったわ。


 多分。


 あさひちゃんはもぐら男爵家の養子となりもぐらホールディングスを切り盛りしている、あさひちゃんなら任せても安心。


 また再会することも約束した。

 知らんけど。


 みんなと別れを惜しんだけどそろそろ宇宙戦艦ヤマトもどきに乗り込む。


 コフェンともふバス、ラウンズ十二神将は一応地球に持ち帰る。

 明石市立航空宇宙大学で研究してもらうの。


 「みんなーーー!元気でねー!」

 思いっきり両手で手を振って、そしてハッチが閉まる。


 ヤマトもどきの操縦は陸斗さんとお父さん、亜希子さんがやってくれる。

 そこそこ令嬢のワタシは出番なしです。

 「良きにはからえ。」


 宇宙戦艦ヤマトもどきは宙に浮き、外宇宙がいうちゅうへと飛び立った。


 さらば!フローラル連邦国。

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