第223話 街角の魔女三度(みたび)

 少し時間は戻る。 

 セレオラに無邪気に拘束されてしまった陽葵であったが、陽葵はもうかつての泣き虫陽葵ではない。


 セレオラが寝た夜に脱出することにした。


 巨人の虫籠むしかごなのでかなり頑丈がんじょうではあったが、今の陽葵にはアダマンタイト製ニードルと空を駆けることのできるガラスの靴、そしてなにより、野鼠人のアリスおばさんのところで鍛えたアスリート並みの強靭きょうじんなな肉体を持っている、コフェンやラウンズ十二神将がいなくても自力で道を切り開くことができた。


 周りが薄暗くなった頃を見計らって虫籠の扉にアカシックニードルを刺す。

 太い頑丈なアイアンの格子はまるでソーセージでも切るように外れていった。


 籠から脱出した陽葵は氷結ひょうけつを撒き散らしながらくうを駆ける、グエンさんからもらった「アダマンタイト-オリハルコン製」のピンヒールの能力のおかげである。


 窓辺に辿り着いた陽葵は外を見渡す、1107階のもぐらインペリアルホテルが張り付いているのはブラックビュートでも一番大きな屋敷の一番高い塔だった、窓からもよく見える。

 ここでは小人の陽葵にとってはフルマラソンにも匹敵する距離だが、辿り着ける自信はあった。

 アカシックニードルでミスリル窓ガラスを破ると陽葵は目標の塔に向かって駆け出した。

 「セレオラちゃん、ごめんね。」


 ****

 少し時間を巻き戻す。



 ブラックビュートの街は今日もまた平和だった。


 花の種を扱う店を経営する魔女、アゼリア・シーフオールドもまた窓から差し込む目玉惑星キンモクセイの柔らかなひかり輻射熱にウトウトしていた。


 さらに繰り返しになるが、魔女といってもブラックビュートでは女性の半分は何らかの魔女であり別に珍しいことでもない。


 半分ウトウトしていたアゼリアは突然の来客にハッとして起きた。


 「いらっしゃい、何の花の種をお求めかね?」


 「こんにちは」


 訪ねてきたのは全裸の、赤い身体に銀のちょんまげを乗せた異様な風貌の人物であった。


 「おや」


 アゼリア・シーフォールドは広く星間商を行う企業家でもある、亜人や異形の異星人などとも取引きがあるので驚きはしない。


 「もしかしてアンタ、光の国の『セブン』くんかい?大きくなったね、5万年ぶりくらいかい?」


 「はい、9000歳の頃にここへ工房見学に来ましたのでその時以来です。」


 アゼリアは本当に懐かしそうに話した、異星人の中でも光の国は全裸族で皮膚も赤と銀という珍しい風貌なのでよく覚えている。


 「あの時はお世話になりました、残念ながら父に買ってもらった豪華サムシティセットは管理に失敗して中で核戦争を起こしてしまい1000年もしないうちに滅んでしまいましたが、水供給装置をうっかり壊してしまって父に怒られるとそのまま黙っていたら中で戦争が始まってしまいましてね、いま思えばひどいことをしたものです。」


 「そうやって命の尊さや政治や経済を勉強するのがこの教材の目的だからね、そのサムシティも本望だろうさ。」

 ※中の人類にはとんだ災難です。


 「それはそうと、今の豪華サムシティセットの川にはボクのアイデアのオリハルコンの船はついているのですか?」


 「ああ、ついてるさ、あれはアンタのアイデアだったね、七星の賢者を集めるとそら宇宙を飛ばせるという船、ゲーム性が高くてなかなか人気なんだよ。」


 「そうですか自分の活性遺伝子を読み込ませるとそのマスターが自由に操れるというのも変わってませんか?」


 「変わってないさ、これがあることでサムシティの中の住人に活気が出ると評判だからね、実際に何隻か宇宙を飛んでるよ、子供向けだけど気合い入れて作ってるからね、少し小さいが本格派だよ。」

 

 「それはいいんだけどさ、セブンくん、ブラックビュートでその全裸とちょんまげは目立つよ、ちょんまげはともかく街を歩くなら服を着な、安いツナギなら8000ディナールくらいからあるからさ。」


 ※1BBディナール=1000FRディナール


 ※8000BBディナールは日本円換算で1100万円、まあ、身長30メートルの巨人用の服だからそのくらいになります。


 諸星弾丸がそんな手持ち金があるはずもなく、人目につかない夜に空を飛んでフローラル連邦国に帰ることにした、それまではどこかで隠れていよう。

 ブラックビュートから一番近い国は10月王国であったので諸星弾丸は10月王国に向かうことにした、そこには高い塔もあるのでわかりやすいというのもあった。

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