第222話 セブン

 「陽葵さんの行方がわからなくなったって?」


 陽葵が自分の館に戻ったと聞き、各国王子をはじめ、友人知人、公爵夫人まで多くの人たちが陽葵の館に押し寄せていた。

 陽葵が伝説の薬師如来として覚醒し、世界大戦を終結させたという話も連邦国全てを駆け回っていたので当然である。


 中には連邦国に伝わるかぐや姫伝説になぞらえて、役目を終えてほかのほし惑星に帰ってのではないかという噂までまことしやかに流れていた。


 「とにかく親衛隊の威信に欠けて陽葵さんを必ず探し出すんだ!」


 ガーベラ王子は親衛隊長にヒステリックに命じた。


 「ああ、陽葵さん、本当にどこに行ってしまったんだ、まさか故郷のほし惑星に帰ってしまったのか?」


 ガーベラ王子は頭を抱えてソファに座り込んだ。


 陸斗と亜希子はもちろん陽葵が帰ってないことは知っていた、次元洞窟は閉塞してしまったのだから。

 おり悪くコフェンもラウンズ十二神将もグエンの工房でメンテナンスを受けている最中であり陽葵の側にはいない。

 人型フェンリルも陽葵の行方について見当もつかなかった。


 「まさかとは思いますが念のためその洞窟に行き、調査する必要がありますね。」


 亜希子の提案に陸斗は同意し、王国での陽葵捜索はガーベラ王子に任せて陸斗と亜希子は即日、洞窟調査に向かった。


 あさひは父の亡骸と共に11月王国の元モントレー家の墓所に向かい、埋葬したあとしばらく喪に服していたので陽葵の失踪をまだ知らない。

 反逆者モントレーの処遇は決まっていなかったものの、後ろ暗いところもあったヒヤク王子はモントレーの埋葬を黙認し、接収していたモントレー邸も黙って、あさひに開放した。



 ****


 グエンが続ける。


 「『天』を司るサルバドール・ネクサスは1300年前にワシと共に魔洞窟を強行突破しようとして肉体はバラバラに砕けたんだが奴のお陰でワシは生き残ったんじゃ、それ以来やつは魔洞窟周辺にずっといる、話は何故かできるんでな、ワシも時々は話に行くんじゃよ、奴は星が好きでな、子供の頃から星に関する本を貪るように読んでおった、ワシはものづくりに没頭しておったがお互いオタクとして尊敬しあっておった、七星の賢者が揃えば一時的にヘブンズドラゴン川が枯れるのは本当じゃ、じゃが奴は現世うつしよのものではない、また奴が消えん限り新たな天の賢者も生まれん、まあそういうことじゃ。」


 マリアは静かにグエンの蘊蓄うんちくを聞いていた。


 ****


 この世界に残ることを決断した諸星弾丸はよくよく調べていくうちに何故か幼い頃、光の国にいた時のことを思い出していた、この地形、この景色、寸分違わずDANの記憶に残っていたものと一致する。


 まさか、な、


 そしてここが太陽系第五惑星の衛星であることを思い出す、ここにはあるおもちゃメーカーの本社工房があるのだ。


 DANが幼い頃、セブンの父にねだって買ってもらった誕プレのジオラマ、セブンの父は光の国ではそこそこの地位にあり比較的豊かであったがそれでも躊躇するくらいの高額品であった、しかしセブンの父は息子のセブンのために「命の尊さと政治や経済を勉強しなさい。」と少し無理をして豪華サムシティセットを買い与えた。

 DANは迷わず赤い眼鏡をかけ、地球人の殻の拘束を解除する。

 みるみる赤い裸体が現れて30メートルほどの巨人となる。


 そして飛び上がった。


 程なくして大きな湖が見えてくる、ブラックビュート湖である。

 おもちゃメーカーの本社工房はその近くにあるはず、昔工場見学に来たことがあるので場所ははっきりと覚えている。


 ****

 

 

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