第221話 籠

 翌日、約束の時間にもぐらインペリアルホテルの1107階のスイートルームで待っていた陽葵はベランダから呼びかける声を聞いた。


 「陽葵、さん、」


 それは小声のような響きだったが音量はそこそこ大きなものだった。


 陽葵がベランダに出ると、横から巨人の手がにゅっと伸びてくる、斜め上を見上げると小窓がありそこから大きな手が伸びていた。


 もぐらインペリアルホテルはなんと巨人の館にある塔に固定される形で建設されていたのである。


 大きな手も見慣れていた陽葵は疑うこともなく手のひらに乗る、塔の中に運ばれた陽葵はセレオラと同じく20メートルはあろうかと言う巨人の少年を見た。


 「陽葵ちゃん、僕はスネオラ、このサムシティの持ち主さ、セレオラちゃんは僕の友達なんだ。」


 「そうだったのね、スネオラくん、よろしくね。」


 「陽葵ちゃん、落としたりしたら大変だからこのカゴに乗ってくれる?」


 スネオラは虫籠を取り出して中に乗るように促した、そこそこ令嬢の陽葵は疑うこともせず乗り込んだ。」


 そして陽葵を入れた虫籠はイスラの家に運ばれた。


 「イスラおばさーん。」


 「おや、スネオラぼっちゃん、今日はどうしたの?」


 「セレオラちゃんにプレゼント持ってきたんだ、これ、魔女のアゼリアがセレオラちゃんところのお姫様がガマに盗まれたって聞いて、うちのサムシティに紛れ込んでいたんだよ、返すね。」


 「まあ!そうなの?ありがとね、5万ディナールも払ったのにセレオラったらガマ避けネット忘れてヒキガエルに攫われちゃったのよ、セレオラ喜ぶわ!セレオラ!セレオラー!」


 「どうしたのママー、、あれ?スネオラくん?」


 「セレオラちゃん、その、逃げちゃったセレオラちゃんのお姫様、うちのサムシティに紛れていたから返すね、これ、はい。」


 虫籠を渡すとスネオラは照れたのか走って帰ってしまった。


 


 そこそこ令嬢の陽葵には巨人の言葉が理解できず、状況がよくわからなかった。

 母のイスラが通訳の石板タブレットを持ってきた、これで話ができる。


 「あら?」

 イスラはそこにいたお姫様がとても美しいお姫様で最初のそこそこのお姫様とはイメージが一致しなかった。


 「わたしの言葉がわかりますか?」


 「はい、イスラさん、ヒナです、お久しぶりです。」


 「わー!ヒナちゃん帰ってきてくれたんだ嬉しい!」


 「ごめんなさいね、夜中に突然カエルのおばさんにどこかに連れて行かれて挨拶もできなくて、いまはガーベラ王国というところで元気に暮らしてるのよ。」


 陽葵とセレオラはこれまでのことを長い時間話した。


 「そうしたらセレオラちゃん、わたしそろそろお家に帰るね、また遊びにくるね。」



 「何言ってるの?あなたはわたしが買ったお姫様よ、これからずっと死ぬまでここにいるのよ。」


 セレオラは虫籠の外から無邪気にそう言った。

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