第219話 街角の魔女再び

 ブラックビュートの街は今日も平和だった。


 花の種を扱う店を経営する魔女、アゼリア・シーフオールドもまた窓から差し込む目玉惑星キンモクセイの柔らかなひかり輻射熱にウトウトしていた。


 繰り返しになるが、魔女といってもブラックビュートでは女性の半分は何らかの魔女であり別に珍しいことでもない。


 半分ウトウトしていたアゼリアは突然の来客にハッとして起きた。


 「いらっしゃい、何の花の種をお求めかね?」


 「やあ店主てんしゅ、僕だよ。」


 そう言って入ってきたのは7歳くらいの身なりの立派な少年とその執事しつじだった。


 「これはこれはスネオラぼっちゃま、いつもごひいき贔屓にありがとうございます、前にフルセットでお買い上げいただいた、いま建設中の『豪華サムシティセット』の具合はいかがですか?」


 スネオラはブラックビュートの領主の息子である、豪華サムシティセットとは通常の街を作るサムシティセットを上回る世界規模の連邦国家を一から作り上げる壮大なジオラマで、作るにも維持するにもかなりの費用と広い土地が必要である。


 「そうだ、これ、サムシティの中で可愛い野鼠の亜人が生まれたからとってきたんだ、名前は『サラ』って言うんだ、可愛いだろ。」

 スネオラは虫籠むしかごの中の野鼠少女のねずみしょうじょを見せびらかす。


 「まあ、すごく可愛いですね、遠隔えんかくでマテリアルボディに乗り移ってサムシティの中を小人気分で探索してきたのですか?」


 「うん、そうなんだ、本当は別の『ヒナ』という子がよかったんだけど、なんだかサムシティの中で影響力が大きいみたいで、存在を消してしまったらまずいかな?と思ってヒナの妹を『抜いて』きたんだ、こっちはそんなに影響なかったよ。」


 「ヒナ?あれれ、もしかしてバルバラさんとこのセレオラちゃんが飼ってたヒナというお姫様がガマ避け忘れてヒキガエルに盗られちゃったのよ、スネオラ様のサムシティに逃げ込んだのかしら。」


 「え、!セレオラちゃんの?」


 セレオラとスネオラは同じEスクールに通う同級生だ、スネオラはそばかすのセレオラのことを好きだった。


 「それならヒナを捕まえてセレオラちゃんに返してあげないといけないなあ、セレオラちゃんがっかりしてるだろうし。」

 

 スネオラは思い出した。

 天下一魔導士武道会の前日、ヒナからうさぎのチャームを作ってもらったことを、イスラとセレオラの名前を聞かれたから多分間違いない、その時はとぼけて知らないフリをし、次の日は友達に誘われて出かけたので「巨人」のキャラを抹消して出場しなかったが。


 「ヒナを抜いたらせっかくのサムシティがガタガタになりそうだな、、なんかすごく影響力あるみたいだし、王子とかもぐら財閥とかも絡んでるしな、めんどくさいなあ。」


 「もぐら財閥、、プレイヤーのもぐら男爵に相談してみようか、豪華サムシティセットの1107階建てのホテル建設するのにうちの館の壁、穴を開けてもいいよと貸してあげたし、セレオラちゃんに喜んで欲しいしね。」

 

 スネオラはしばらく放置していた豪華サムシティセットの中にまたマテリアルボディで入り込んでもぐら男爵、陽葵の探索をすることにした。


 ジオラマと言っても豪華サムシティセットである、親指ほどの小人が1000万人以上そこで暮らしている、そのまま踏み込めばそのまま全部を壊してしまうことにもなりかねない。


 「探すの、大変そうだな、、サーバント!手伝ってくれないか?」


 後ろに控えた執事のサーバントはいつものことながら心の中でため息をついていた。


 「スネオラぼっちゃま、おおせのままに。」

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