第215話 テヘペロと狂気

 6月18日未明、フローラル連邦国に空襲警報が鳴り響く。


 まだ薄暗い中、虚空こくうにドラゴンと思しきおぼしき姿が視認されたからだ。


 フローラル連邦国側に寝返った鷹人部隊はジャック・ブルースカイを先頭に迎撃に舞い上がる。


 ベルゴロド公爵サイドはドラゴンパレスの援軍えんぐんが来たと歓喜かんきに沸いた。



 ところがなにか様子がおかしい。


 ふわふわ浮くドラゴンにはあるべきはずのがないのだ。


 歓喜に沸いていた第13帝国軍の歓喜の声は徐々に沈黙に変わっていく。


 そしてその姿、首だけになった血塗れのドラゴンの首は円盤状の飛行物体にワイヤーで吊り下げられており静かにふわふわフローラル連邦国側に向かっているようだ。


 ベルゴロド公爵はマスタードラゴンの顔を知っている、間違いなくあれはマスタードラゴンの首だ。


 ベルゴロド公爵はその場にヘナヘナと座り込んだ。


 事情を知らない一般の兵士はどうしていいかわからずザワザワしだした。


 「あれは何だ?何者だ?」


 陽葵の乗って行ったもふバスではない、もふバスはその後大きく形状が変更されており最初の面影は全く残っていないため、ベルゴロド公爵は陽葵がやったなどとは夢にも思わなかった。


 飛行物体はそのままバンカーヒルを通過して城壁を越え、フローラル連邦国軍の本陣に向かう。


 鷹人部隊も見たことのない飛行物体に戸惑いながら、声がけを行ったが機内から返答はない、



 円盤はゆっくりとバルバロッサ準男爵の館の中庭に着陸した。


 「ご主人さま、目的地に到着しました起きてください。」


 コフェンが4人を起こす。


 「ああ、よく寝た、もう着いたのね。」


 陽葵が扉から出ると皆が駆け寄ってくる。


 「あ、みなさんおはようございます、ただいま帰りました。」


 「陽葵さん、これは、?」


 「これはマスタードラゴンさんですわ、停戦のお願いしたのですが無理でした、テヘッ。」


 陽葵はペロっと舌を出し自分の頭をコツンして見せた。


 周りの人々は全員その場にヘナヘナと座り込んだ。



 ****


 「おい!状況はわからんのか!」


 「そ、それが、情報が錯綜さくそうしておりまして、ドラゴンパレスで大規模な戦闘があったと、亀人部隊からは見たこともない車輪のついた船のようなものや鉄つぶてを飛ばす武器をもった人間がいきなり側面から攻撃を仕掛けてきて大きな被害が出ているとも。」


 「マスタードラゴン様はそいつらにやられたと言うのか、信じられんがそれしかあるまい。」


 「ベルゴロド公爵よ、いったいどうなっておるのじゃ?何が起こっておる。」


 モントレー皇帝が尋ねるが、


 「ええい、お前は黙っておれ!」


 もはや皇帝の建前すらもなくなっていた。


 「それでそやつらはどこへ行ったのか!」


 「それが、少し前に引き上げてしまったとか、亀人部隊がそのような号令を聞いておるようです。」


 「それではもうそやつらもいないと言うことだな、マスタードラゴンも死に、そやつらも帰ったからもう怖いものはないではないか、マスタードラゴンにこびへつらう必要もなくなったんだ、ワシがこの地上の王だ!あとはフローラル連邦国の奴らを殺すだけだ。」


 ベルゴロドは異常な事態に次第に狂気を帯びてきた。


 「お前などもう用済みだ!」


 そう言うとベルゴロド公爵はモントレー皇帝を切り殺してしまった。


 「オ、オーロラよ、無事に逃げおおせたか、、、」

 モントレー皇帝はもとより死ぬ覚悟であった、オーロラ姫を逃すことができたと満足そうな笑みを浮かべて逝った。


 「今からワシが皇帝だ、文句ある奴は前に出ろ!」


 周りの狼人たちは跪いて新皇帝に忠誠を誓った。

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