第211話 即死フラグのそこそこ令嬢陽葵

 いくつもの巨大な扉を抜け、一番奥の玉座に辿り着く。


 そこには隻眼せきがん(片目)のマスタードラゴンが鎮座ちんざしている。


 「マスタードラゴン様、ご機嫌よう、第13帝国第一皇女のオーロラでございます、こちらは男爵令嬢陽葵さんです、父のモントレーもよしなにと申しておりました。」


 「それは殊勝な心がけよの、オーロラ姫よ、そちらのヒナとやらは貢物みつぎものか?ワシの好みをよくわかっておるではないか、ワシのペットにちょうど良い、さあ、こちらに引き渡すが良い。」


 マスタードラゴンの理不尽な要求に対して、オーロラ姫ことあさひは怒り心頭で手がブルブル震えていた。


 陽葵が横から口を挟む。


 「マスタードラゴン様、私は貢物ではありません、お話をしにきたのです、それにペットとはどういうことですか?」


 「下等生物なのだからペットになっても当然であろう、ほれ、そこの奴のようにな、それは1000年ほど前に手に入れた奴じゃ、ずいぶんと長生きするものじゃ、確か、、氷の巫女みこといっておったか、名は、、、そうじゃマリアじゃ、顔もそちによく似ておる、お前もワシのペットになるとよい、可愛がってやるぞ。」



 そこにはドレスこそ立派なものを着ているが、虫籠むしかごのような箱に閉じ込められた少女がいた。

 

 「マリア?マリアさん?」


 陽葵は思わず空中を舞い、虫籠に駆け寄った。


 「あなたは?」

 マリアは気が抜けたように尋ねる。


 「マリアさん!グエンさんの婚約者のマリアさんですよね!」


 人型フェンリルも思わず空を駆け寄る。


 「あるじ!」「まあ、銀狼さん!」


 マリアはフェンリルのことを銀狼と呼んでいたらしい。


 「マスタードラゴンさん、マリアさんを解放してください。」


 陽葵は振り向き、マスタードラゴンを睨みつける。


 「ほお、下等生物ごときが我に命令するか、おい、そいつを捕まえて籠に放り込め、あとは皆殺しでかまわん。」 


 「フェンリルさん、マリアさんをお願い。」

 フェンリルは籠をやすやすとこじ開けてマリアを助け出し、もふバスに乗せる。


 怖いもの知らずの陽葵は空中をズカズカ歩き、マスタードラゴンの斜め上から見下ろす。


 「あなたねえ、何が下等生物よ!ムカつく!」


 13歳のそこそこ令嬢の陽葵は停戦てきせんというお願いのことはすっかり頭からふっ飛んでいた。


 しかもマスタードラゴンの真上あたりで立ちどまってしまい、足場を無くしてそのままマスタードラゴンの頭に向かって落下してしまう。


 マスタードラゴンが大口を開ければ喰われて終わりだというのに、そこそこ令嬢陽葵の頭の中はドレスのスカートがまくれ上がらないように右手で押さえるのに必死でそのままマスタードラゴンに向かってフリーフォールしてしまった。

 文字通りの絶対絶命死亡フラグであった。

 地球、明石への次元洞窟閉塞まで残り13時間40分。


 次回。

 大虐殺、そして全滅。


 ※次回、残虐な場面が登場します、苦手な方はご注意ください。

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