第209話 ドラゴンパレスへの空

 陽葵の乗った「もふバス」は午後には第13帝国仮王宮に到着した。


 コフェン-飛躍ラインにより陽葵の訪問はあらかじめ、あさひ、ことオーロラ姫とモントレー皇帝に伝えられていたので館の中庭に問題なく着陸することができた。


 ただ、武装した狼人兵士が何重にも取り囲む、その先頭には例の「次のベルゴロド公爵」がいた。


 そのベルゴロド公爵は目を見張った。


 もふバスから、純白の、シンプルだが豪華なドレスに身を包み、黒い手袋にガラスの靴を履いた、まるで天使のような、この世のものとも思えないほどの美しい少女が降りてきたからだ。

 12カ国の王子全てをとりこにした陽葵の美貌びぼうは健在である。


 にわかに公爵に祭り上げられた手駒てごまに過ぎない「次の」ベルゴロド公爵は一撃でハートを射抜かれてしまった。


 「ベルゴロド公爵、ご機嫌よう、ワタシはもぐら男爵令嬢陽葵と申します、以後お見知り置きを。」


 正式な挨拶を見事にこなし、狼人たちを圧倒した。


 「陽葵さま!」「あさひちゃん!」


 オーロラ姫こと、あさひが待ちきれずに中庭に降りてきて陽葵の胸に飛び込む。


 離れていたのはそんなに長い期間ではないが、あさひと陽葵にとってはもう何年も会っていないような心持ちであった。


 「さあ、陽葵さま、お父様がお待ちです。」


 ベルゴロド公爵はいろいろ理由をつけて皇帝には会わせないつもりだったが、結局何もできなかった。


****

 「モントレー皇帝陛下、お初にお目にかかります、もぐら男爵の娘、陽葵と申します。」


 「おお、陽葵どの、オーロラから話は聞いておる、娘が世話になったようだな、礼を申す。」


 「実は皇帝陛下にお願いがあって参りました、皇女殿下こうじょでんかを伴い、ドラゴンパレスのマスタードラゴン様に謁見えっけんを申し出たいと思っております、お許しいただけますでしょうか?」


 モントレーはオーロラ姫を逃す算段をしていたので、『これはオーロラ姫を連れ出す口実なのだな』と思い込んだ。

 まさか陽葵の思いつきと爆弾行動ばくだんこうどうだなどとは思いもしなかった。


 「それは良いことだ、もちろん許すゆえマスタードラゴン様によしなに伝えてくれ。」


 「ありがとうございます、急ぎの要件ですのですぐに出立したいと思います、オーロラ姫!さあ行きましょう。」


 陽葵から事前に打ち合わせはなかったが、陽葵の性格をよく知るあさひは『これはまたとんでもないことをしでかすつもり?』だとピンときた、しかし、あさひは陽葵となら一緒に死んでもいいとまで思っていたので黙って従った、また、陽葵のやらかしたことの尻拭い、後始末をするのもあさひの喜びであった。


 驚いのはベルゴロド公爵である、マスタードラゴン様に謁見してオーロラやこの陽葵という少女が何かやらかしたら自分にも責任が及ぶかもしれない。


 「モ、モントレー皇帝陛下!そ、それでは私ベルゴロドがマスタードラゴン様のところまでご案内しましょう。」


 「何を言う、戦闘の真っ最中に大将軍たるそちが抜けてどうする、そちには引き続き陣頭指揮を取ってもらわなければな。」


 オーロラ姫を逃すのを邪魔されてはたまらない、モントレー皇帝はベルゴロドの申し出を却下した。


 「あら、残念ですわ、ベルゴロド公爵様、できましたらマスタードラゴン様への紹介状など書いていただければ嬉しいです。」


 陽葵から上目遣いで懇願され、ベルゴロドは断ることができなかった。


 かくして陽葵とあさひを乗せたもふバスは少し厚めの雲が出てきた空に舞い上がった。

 もちろんドラゴンパレスの方角である。


 あさひは陽葵がこのまま逃げるのではなく、本気でマスタードラゴンに会いに行くつもりであるのを確信した。


 上位竜じょういりゅうがウヨウヨいるドラゴンパレス、このまま命を落とすかもしれないが、あさひは不思議なことに高揚感を感じていた。

 陽葵のピンチには命を張って陽葵を守ろうと宝石箱オートマタ飛躍を握りしめた。


 次元洞窟閉塞じげんどうくつへいそくまであと17時間30分

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る