第208話 三者三様

 水陸機動団AAV7すいりくきどうだんエーエーブイセブンの10両が洞窟の出口に差しかかかった時、一人の人物が飄々ひょうひょうと立っていた。

 諸星DANもろぼしダンが下車して会話を試みる。


 「あなたはこの星の住人の方なのですか?」

 「わたしですか?よくわかりません、ずいぶん昔から星を見るのが好きでここにずっといます。」


「私たちは別の惑星から来た者です、事故でこの星に飛ばされた仲間を迎えに来ました。」


 「そうですか、ご苦労様です、今は周りが騒がしいようですね。」


 その「ひと」は飄々ひょうひょうと答える。


 「世界大戦が起こっていると聞きました、状況をご存知なら教えていただけませんか?」


 「あいにく私は現世うつしよとは関われぬのです、ここから出たこともありませんゆえ。」

 「邪魔はしませんのでどうぞお通りください、私はまたここから星を眺めたいと思います。」


 そう言うと、その「ヒト」はまた端っこに座り、外を眺め始めた。

 DAN諸星弾丸はその人の左手に赤い痣あかいあざがあるのがなぜか気になった。


 ****

 第13帝国では密かひそかにモントレー皇帝とオーロラ姫をどう逃すかの打ち合わせが行われていた。

 

 鷹人部隊ホークマンぶたいが出撃と称して皇帝とオーロラ姫を連れて行くことが検討されたが、開戦の時に皇帝の姿が見えなければその時点で全てが露見ろけんしてしまうだろう。

 二人の救出は鷹人の寝返りによってある程度狼人部隊の数を減らしてその混乱のタイミングで連れ出す、という策が採用された。

 これもオーロラ姫ことあさひの策である。


 こうして12月王国北門、バンカーヒルの戦いは6月17日朝、静かに始まったのである。


****


 「あと20時間か。」


 諸星陸斗と東村亜希子は戦闘を潜り抜けて陽葵を連れて諸星DANの待つ洞窟に辿り着く算段を考えていた。

 

 DANはAAV7水陸両用戦闘車を10両持ち込むと言っていたが、流石に100万人の歩兵の中に突っ込むのは自殺行為だ、しかも飛竜に火地龍まで控えているのだ。

 おそらく洞窟どうくつ近くに防衛戦ぼうえいせんを張り、陣地じんちを確保して我々3人の到着を待つのが定石じょうせきだろう。


 しかし、どうやってこの混戦こんせんの中を抜けて洞窟に辿り着くか?


 なかなかいい案は浮かばなかった。



 「マスタードラゴンさんと話し合いとかできないのですか?」


 陽葵が尋ねた。


 「陽葵さん、それが出来れば一番いいのですが、これまでの話を総合すると、マスタードラゴンは本気で領土りょうどを奪いに来ているようです、話し合いに応じるとは思えません、しかもドラゴンパレスはこれまで1000年以上沈黙をしてきたため情報もほとんどありません、ドラゴンパレスに辿り着けるかどうかもわからないのです。」


 ガーベラ王子が説明してくれた。


 「ワタシちょっとドラゴンパレスまで行ってくる、あさひちゃん誘ってマスタードラゴンさんとお話ししてくるね。」


 そう言うやいなや、陽葵は野鼠スキル全開で駆け「もふバス」に走り込み、青空に飛び立った。


 「ちょ、!陽葵さ〜ん!話聞いてますか〜!」

 

 虚しくガーベラ王子たちの声が陽葵の後方から響いた。

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